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第28話 大河のほとりでおパンツ大作戦

♪アダージョ(現在)♪


 今日の宿も男部屋と女部屋が分かれていた。僕は本当は男なんだからそんなこと気を使わなくていいのに。


 外は小雨が降っていた。こんな夜は切ないバラードが似合う。


 僕たちの旅路の果てに何が待っているのだろうか。こんな運命に翻弄されている僕たちも歴史の教科書の上では、名前を記されることはないんだろう。


 ただただ、技術革新とそれに伴う戦乱が少し言及されるだけだろう。とんでもないことが起きるとしても、僕たちは大河の中の砂粒にすぎない。


 ちょっと気分転換に、見晴らしのいい展望台にでも登ろうかな。階段から屋上へ向かった。


 確か大きな川が見下ろせるんだっけ。あたりを見渡し、そして、見つけた。


 ギホン川。この大河はこの地域の経済基盤である農業をもたらした。


 いくら、この世界においては、魔法が万能だとしても産業基盤がない都市は発達しない。先人が築いた社会インフラの上で豊かさを享受している僕たちが歴史を変えようなんて大それたことを考えるのはおこがましいのかもしれない。


 それに、これから変えようとしているのはたかだか政局だ。人物史だ。技術史、文化史、文明史に比べたら、個々の人間なんて大して世界の命運を変えるものではない。


 そういえば、この河は、上流の方にいけば、これから向かおうとしている王都にもつながっているらしい。


 歴史的に王都は川の氾濫に悩まされていた。堤防や灌漑事業が代々の為政者の関心ごとだった。


 異世界地球でも、メソポタミア文明、インダス文明、エジプト文明、黄河文明、古代の大きな文明の陰には川がある。


 どちらの世界も、川を制したものが豊かさを制することができるのだ。


 近年は、音楽魔法もだし、異世界から導入したコンクリートを使った堤防技術もだが、技術の発展で大きな問題は起きていない。川辺の住人に平穏な日々をもたらしている。


 部屋に戻ろうとすると声がした。


「ここに居るとパンツ見れるぜ」


「そんなことしたら、アダージョさんに嫌われちゃうよ!」


「真面目くんはこれだから」


 ポエットくんとグロウルくんの声だ。竜族が地獄耳だってこと知らないんだな。


「きたぞ」


「だめだよやっぱり」


 なるほど。階段の裏側に隠れてスカートの中を見る算段か。はあ。僕、男だから見られても恥ずかしくないんだよね、別に。


 やっぱり、人間って大したスケールで生きていない生き物なのかもしれない。


 僕の中でちょっといたずら心がわく。


 この2人は仲が悪い。ところが、おパンツを見る大作戦を通じて親睦を深めようとしているようだ。


 ここで、2人を頭ごなしに叱っても仕方ないのではないか。むしろ、心を一つにするきっかけになれば。それは、合唱魔法の成功率もあがるのではないか。


 わざと階段の中腹で立ち止まり、背筋を伸ばす。そして、少し足を開く。


「ふあああ。なんだか眠くなってきたなあ」


「み、見えた?」


「ばれちゃうよ! 声を出したらっ」


 バレてるのになあ。何もわかっていない素振りで、わざと首をかしげてみる。


「うひい。かわいい」


 かわいいのは君たちだよ。


 そのまま、何も気づかなかったふりをしながら部屋にゆったりと戻ることにした。


 ど、ど、どうしよう。後から急に恥ずかしくなってきた。わーん。僕は変態女だー。

 

 男部屋のドアが少しだけ開いていた。あわてて閉じるの忘れているな?


 少しだけ中に入ってみることにした。


 すると男子2人は血走った眼差しで正座していた。ちょっとかわいいかも?


「どうしたの?」


「な、な、なんでもないんだ。ナァーッ!」


「う、うん」


 わざとらしい。じゃあ、こっちもわざとらしいことするか。


「そう?」


 不思議そうに再び首をかしげてみせる。なるべくにやにやしないように。


 すると、2人はドキッとしたように顔を見合わせる。僕はそのことに気づかなかったふりをして部屋を出る。


「バレてないみたいだな?」


「よかったあ」


 どうやら、男の友情が芽生えたようだ。


 僕はとても悪いやつだ。男を2人、手玉に取って楽しんでいる。


 僕は、にたりと笑顔を浮かべるのを噛み殺しつつも、女部屋に戻ると眠りについた。


 ☆ ☆ ☆


 麗らかな日差しが差し込む静かなカフェで、僕はミルクティーを飲んでいた。


 僕は誰かと待ち合わせをしていた。誰と?


 そう。これは夢だ。僕は夢を見ているのだ。僕は、本来、こんな平穏な場所に居られるはずがない人間だ。


「待たせたな」


 タップダンスシューズで足音を響かせながら現れたのはアレグロだった。


「久しぶりだね」


「ああ、どうしているかなと思って、夢の中にお邪魔させてもらった」


「そんな能力あるんだ⋯⋯。さすが竜族」


 無理に褒めてみるが、アレグロは力なく微笑む。どうやら、疲れているようだ。まあ、脱獄しながらあれこれするのも大変だろうなあ。


 「明日、反乱軍に加わる予定だ。最初は、連中と決裂したが気が変わった」


 動向がわからないと思ったら、水面下でそんなことをしていたんだ。


 なんとなくアレグロの瞳の瞳孔が肉食獣のように縦に開いているように見えた。


 「やめなよ」としか僕は言えなかった。


「俺を止めたくば、俺を倒すんだな。俺が死ねば、呪いをかけた者たちも復活する。お前と分裂した後、さらに3人に死の呪いをかけた」


「君は間違っている。他の人もだけど、まず、自分を大切にした方がいい。君がこれ以上、傷つくのをみていられない」

 

「俺の人生なんて終わったようなもんだ。お前みたいに、二人の男と恋道中できるような能天気さはない」


「なっ⋯⋯。僕のやってること知ってたの?」


「自分の分身のやることなんて全部わかっているさ」


 達観したような言葉に反して憎しみのこもった顔。僕は、どうすれば彼の心を開くことができるのか。


 悩みを深めながら、意識を手放した。


♪セルパン(現在)♪


「ギホン川を氾濫させるだと?」


「ノアの会というのは名前だけのお題目じゃあないのさ。首都ごと鎮める。うさぎ王国は影も形もなくなる。歴史上にかつて存在した国として、語り継がれる。生き残ったうさぎ族は流浪の民となる」


 月明かりが照らす夜のうさぎ城、船長が、とんでもないことを言い出すので、私は目を丸くした。


「それは、さすがにまずいのでは」


「はっはっは。どうしても劣勢に立たされたときの最後の手段だよ。絶対にやるというわけではない」


「し、しかし、領民はどうなる? 日々を暮らしているのは我々エリートだけではないぞ」


「我ら、選ばれし民が滅びた後の世界に存在意義などあろうか。我らの死は国の死でもある」


 選民思想もここまで極まったか⋯⋯。さすがに、こんな計画は、うさぎ王国の連中も黙ってはいまい。少なくとも知られてはいけない。


「誰だっ!」


 船長が叫ぶと何者かが四つ足で走り去ろうとする影が見えた。あれは⋯⋯。


「マサヒデ殿ではないか。ソネット様の執事の」


「何者であれ、話を聞かれたからには生かしてはおけない。なんとしても仕留めるのだ」


 船長の指示を耳にした配下のものは、マサヒデを追いかける。


「執事を殺すというのか!」


 さすがに、ここまで人の道を外れたことをすると、我らが統治を続ける大義名分を失う⋯⋯。


「証拠を消せばいいだけのことだ。世界は綺麗事だけでは動いていない。獅子のような勇猛さと狐のような狡猾さこそ統治に必要だと異世界イタリアの政治思想家も言っている」


「し、しかし⋯⋯」


「我々は、元、来た道をもう戻れないのだよ。歌姫を死に至らしめたときの宿命なのだ」


 気分が悪くなった私は、血の気が引きながら、階段を歩いていた。下から誰かが歩いてくる。あれは⋯⋯。


「ソネット様⋯⋯」


「爺やは……マサヒデは見なかったか?」


「いいえ、私はなにも⋯⋯」


 罪悪感で胸が焼けそうだ。


「そうか。それはそうと、僕にガーネットプリンスに変身させるつもりだと噂しているが本当か?」


 真剣な眼差し。まだ、お若いのにあまりに気の毒だ。


「本当です……」


「セレナーデの死因と聞いているが⋯⋯」


 いつの間に雷雨になっていたのだろう。あたりがフラッシュした後、轟音が鳴り響いた。

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うさ耳王子といぬ王子がロックオン!本当は男の僕が二股悪女ムーブしないとみんなの命を救えないなんて

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