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第26話 音楽の神話

♪ミミ(現在)♪


  私の名前はミミ。ねこ王国から留学して、あこがれの大学院の魔法学の研究室にたどりつき、楽しく実験をしている。


「はっ! ああ、失敗したー」


 実験が成功すれば、綺麗なつむじ風が発生するはずが、少し大地が揺れただけ。私の白衣スカートだけふんわりと揺らす。おっかしいなあ。理論上は、電子スピンが響素に働きかけるはずだけど。


「みみちゃん。終わったら後片付けしといてね」


「はいっ! ララ先生!」


 あこがれのララ准教授に声をかけられ背筋が伸びる。ララ先生は魔族の出自から、実力が認められ、学会からも引っ張りだこ。


 昔はもっと魔族って差別されていたことを思うと時代が変わったと思う。猫の亜人の私も頑張らないと。


「響素工学も、まだまだ、新参者の学問だからねぇ。うまくいかないことも多いけど、これからだよ」と、先生に励ましてもらう。


 音楽で魔法を唱える謎をララ先生が発見してから5年は経とうとしている。異世界地球では、音楽で魔法は唱えられない。だけど、こちらの世界では唱えられる。


 その謎を解き明かそうと、研究を重ねて来たのがララ先生だ。この世界にはあって、地球にはないもの。異世界から、物理学者を呼び寄せ、走査型トンネル顕微鏡を使って、響素という粒子を発見した。


 響素は、人間の声の音波を受け取って、電子スピンと共鳴しあって、原子や電子に働きかける。それが、時に炎になったり、氷になったり、大地を震わせたり、雷を天から降らせる。


 それを古来より人間が魔法と呼んでいた。どうも、そういったメカニズムらしい。


「神様が人類に、科学と魔法、どちらで社会を発展させたいかを選ばせた。人類は魔法を選び、魔法を使って社会は発展した」


 この世界に、いにしえより伝わる神話の真相に一歩近づくことになったわけである。


 ほんの数十年前は、声で音楽を唱えていたが、異世界日本からやってきたアキラ氏という人物が電子サックスをこの世界に持ち込み、漏電事故を起こした際に、楽器でも魔法を唱えることができるようになったとか。


 アキラ氏は妻のエリーゼ氏と協力し、ハンドメイドの魔法用楽器を普及させていった。


 楽器で魔法を唱えたい需要は、全世界で高まった。そこで、ハンドメイドではない量産品の魔法用楽器が作れないか。そんな要望が産業界から高まった。


 異世界物理学に明るいララ博士が注目したのは、異世界フランスの18世紀の物理学者、ジョセフ・フーリエが編み出したフーリエ解析だ。


 もともと熱伝導のために編み出された物理式は、やがて、音の研究にも用いられることになる。自然界に存在する音波を分解する技術。それは、響素と男声が共鳴し合うときの音の波を突き止めることができる。


 ララ博士は、男声や女声に近い波形と周波数の音にフーリエ変換し、音には変換せず響素に直接作用する変換装置、フーリエコネクタを発明した。この装置の発明により、安価な楽器魔法が量産されることになり、普及の後押しとなったのである。


 そういうわけで、ララ先生は、音楽魔法の歴史を変えた偉人と言ってもいい。後世に科学史の教科書に名前を残すのは間違いないだろう。


 隣の部屋では魔法ラジオが鳴り響く。うさぎ王国が戦乱で荒れているらしい。


「先生、うさぎ王国では、いったい、今、何が起きているのですか?」


「中間層の没落とそれに伴う過激思想の台頭ね」


「カゲキシソウ⋯⋯?」


「18世紀、異世界フランス。ブルジョアジーと呼ばれる経済的な中間層が実力を身に着けつつも、政治に参加させてもらえなかった。そのことが思想の空白をもたらし、やがて暴力革命が起きた。革命が起きた後もしばらく戦乱の世は続いた」


「おそろしい⋯⋯」


「あるいは、20世紀異世界ドイツ。ファシズムと呼ばれる過激思想が台頭し、差別と殺戮が蔓延し、戦乱の世になった。この時代に起きていたのは、中間層の戦死。第一次世界大戦と呼ばれる戦争で若者が多く亡くなった。その世代が中年となり、支えていくはずの時代に不在だった。そして、過激思想の台頭を止めるはずのストッパーがいなくなった」


「説明だけ聞くと、どっちも中間層に発言力がない時代背景が原因ですね」


「そう。中年層は若くて向こう見ずな若者を諌め、エリートが現実離れした教条主義に走らないようバランサーとなるはずだった。経済的な中間層も同じね。実務を担う中間層からマイクを取り上げながら、物事が進む社会は、カルト思想が蔓延する。若者は怒りで動くようになり、エリートは現実を見なくなる。気づけば、みんな抽象論ばかり言うようになるのよ」


「うさぎ王国も、今、同じことが起きているんですか?」


「声楽魔法と楽器魔法を巡る世代間闘争。それは、本当に実力があり、次の時代を導くリーダーの育成をできなくした。声楽派は、イエスマンで周囲を固めて、実務能力のある人材を遠ざけてしまった。その結果、器楽派の中からテロリストが育ち国を転覆しようとしている。国を二分しての大戦争が起きようとしている。少し前のいぬ王国も同じ構図ね」


「私の出身のねこ王国は平気ですよ?」


「ねこ王国は、声楽魔法の時代には、煮え湯を飲まされていたでしょ? 魔法向きじゃない声帯なこともあるし、古語の辞書の流通も不当に制限されていた。少し差別されていたと言ってもいい。そのことが、次世代に期待を寄せ、政治的なバトンタッチがスムーズにいった背景ね。過去の成功体験がないことが結果的に今の繁栄につながっている」


「人間って愚かですね。先生。歴史に答えが書いてあることでも、形が変わると繰り返してしまう」


「みんな自分は例外だと思うから⋯⋯。自分だけは賢くてうまくやれると思っている。歴史の都合のいいところだけつまみ食いしてしまう。そんなときにこそ、落とし穴にはまる」


「私、怖いです」


「目を背けちゃだめ。これからの激動の時代を生き抜くのよ」


 ララ先生のエメラルド色の瞳を照らす夕日がいつもよりまぶしく感じた。

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うさ耳王子といぬ王子がロックオン!本当は男の僕が二股悪女ムーブしないとみんなの命を救えないなんて
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