聖域に踏み込む。――そして、未来へ。
部屋を大々的に模様替えし、大量の服を片付け、大量の紙袋を処分し――
リバウンドにより再びカオスに堕ちかけた自室を、間一髪で立て直して、どうにかこうにか、スッキリした空間を作り上げてきた私である。
そこらじゅうの部屋の入口にぶら下げられ、通行に超・邪魔な懸案事項となっていた「吊りモノ」衣類も、部屋を片付けて生まれたスペースに、洗濯物干し用の「突っ張り式物干し竿」を設置することで、ようやくキレイに収納完了!
(物干し竿は、ハンガーラックと違って床面積をとらないところがgood!
重いコートなどをかけるとしなるのでは? という心配もあったが、もともと部屋にあったスタンド式ハンガーかけ(←棒に枝が生えたみたいなやつ)を利用し、竿の中心あたりを支えることで完璧に解決!)
……さあ。
ここまで来たら、アレに、手をつけないわけにはいかぬ。
アレというのは――
大量の「本」と「マンガ」のことだ。
自室に限って言えば、『神棚』を導入したおかげで、全ての本やマンガが整然と縦置きされており、何の問題もない。
だが――別室には、壁一面を端から端まで完全に埋め尽くす平積み本の山「万里の長城」が鎮座しているほか、物置には、段ボールに詰め込まれた古株のヤツらも、どっさり控えている!
「万里の長城」は、平積みなのに全面が(マジで)高さ50㎝をこえており、不安定で危険である。
これまでにも、下の方から本を引き抜く際に、たびたび崩壊し、雪崩を起こしてきた。
なおかつ、その不安定さゆえに、掃除が難しく、「長城」と「部屋の壁」とのあいだなどは年単位でまったく掃除をしておらず、上からチラッと覗いただけでも相当な量のホコリや髪の毛が溜まっている――という、片付けを開始した当初の私の部屋に勝るとも劣らぬヤバさなのである。
この仕分けは、難事業になるであろうと思われた。
私は、物語を、そしてそれを記した本やマンガを、心から愛している。
物語を書くことと読むこと、これらが私の人生の大きな楽しみなのだ。
自分でも書くだけに、書いたものに込められた作者の思い入れや苦労を想像してしまい、そんな作品たちを廃棄するということには、ものすごい抵抗があった。
しかし――しかし――
「片付ける」という観点からのみ、見た場合、片付けるためには収納を増やすか物品を減らすしかなく、これ以上、本を収納する場所を増やすことは物理的に不可能であるため、抵抗があろうが何だろうが、物品の総量自体を絞るより他に方法はない。
片付けるためだ。
やらねばならぬ。
今この瞬間、この文章を発表している「場」の性質が性質だけに、これより先の内容には、賛否両論あるであろうことが充分に予想される。
だが、何しろ事実なので、あるがままに書いておこう。
「捨てるのは嫌だから……売ればいいんだよな……」
読まなくなった本は、古本屋に売る。
まあ一般的には極めて当たり前の決断であろうが、この「古本屋」という存在に対して、私は、微妙な思いを抱いていた。
頭のどこかに「古本屋の存在は、作家の生活の糧を奪うことにつながる」という認識があって、あまり良い印象を持っていないのである。(←古本屋関係の皆さんにはスミマセンが)
また、単なる消費者としても「見も知らぬ他人が触った本」を自分の部屋に入れるということに抵抗があり、今まで、実際に古本屋を利用したことは一回しかなかった(もう本屋に置いてない古いシリーズ物をどうしても揃えたくて買ったのだ)。
しかし。
こんなことをゴチャゴチャ言ってみたところで、いっこうに「片付け」は進まぬ!
大量の本やマンガをまともに収納し、部屋を片付けるためには、数を減らすしかない。
数を減らすには、捨てるか売るしかない。
そして、捨てるくらいならば、売ったほうが本たちも浮かばれるだろうし(←作家の皆さんには申し訳ないが……) なおかつ、私にも金が入るのである。
ここは腹をくくって、決断するしかない!
何か文句がある人は、あなたが部屋を掃除しに来てくれ!!(←本当に来られても困るが)
「さて……そうと決まれば、さっそく選別開始だッ!」
服のときと同じく、計画を立てた。
目標――「半減」!
基準はふたつだ。
ひとつ。この二年で、一度でも読み返したか。
ひとつ。読んだとき、単に興味をひかれるというだけでなく、どんな意味でも「感動」があったか。
仮にも物語を語る者のはしくれとして、この基準は全てブーメランのように自分にかえってきて額のあたりにスコーンと刺さりやがるわけであるが、「片付け道」において、そのような感傷は無用である。
そして、もうひとつ、自分に課した重要な規則があった。
それは、
『選別の際、ページを開いてはならない』
ということである。
懐かしい作品をついつい読みふけり、気がついたら日が暮れていた……
それでは、鬼の仕分け屋(←自分で名付けた)の名がすたる!
そんなことをしていたら、いつまで経っても作業が進まない。
自慢ではないがこの私、所有している本ならば、表紙を見ただけで話の中身をほぼ完璧に思い出すことができる。
この私をもってしても思い出せないというのならば、それは「勢いで買ったものの、私にとってあまり必要なかった本」であり、送り出すことに決めても差し支えあるまい。
まずは、段ボール組から取りかかった。
全ての本をドバーンと取り出して、いくつもの平積みタワーを作り、
「出す! 出す! 残す! ……出す! 残す!」
と、片端から選別してゆく。
「送り出す」と判断したものは、即座に再び段ボールに詰め込み、「残す」ものは、大まかなジャンルごとに、タワーを作って積み上げる。
段ボール組が終わったら、次は「万里の長城」に着手だ。
仕分けの手順は、段ボール組と同じ。
最後に、生き残った本を種類ごとに積んでタワーを作り、窓辺に戻す。
無論、その前にばっちり掃除機をかけ、大量のホコリを葬り去っておくことも忘れない。
こうして、見た目スッキリ、高さも半分ほどになった「新・万里の長城」が完成した!!
全ての本を仕分け終えるのに要した時間は、休みなしで、まるまる二時間半。
「送り出す」と決断した本は、翌日、古本屋へ持っていき、買い取ってもらった。
当初の目標は「半減」だったが、やはり、六割五分は残った。
しかしながら、残った顔ぶれは、誰に対しても「これが、私の愛読書たちです!」と紹介するにふさわしい、私の性格というか嗜好がよく表れたものとなっていたので、満足できる結果だ。
(後になって「やっぱ、あれは置いときゃ良かった~!」と一度でも後悔することがなかったのか? という疑問がある人もいると思うが、私に関して言えば、結果的に、それは「まったくなかった」。いやマジで)
* * * *
――さあ、次は、どこを片付けようか?
物置を「ウォークイン・クロゼット」に改造しようという計画がある。
「万里の長城」を平積みではなく、棚に縦置きに収納しようという計画もある。
今日も私はハチマキ姿で物置に乗り込み、ホコリを撒き散らして抵抗するカオスどもをねじ伏せ、秩序の光をもたらすために戦っている。
片付いた部屋よ、永遠なれ。
進め、栄光の「片付け道」ッ!
【おわり。ここまでお読みいただき、ありがとうございました!】