表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦えない事務員の俺がダンジョンの報告書を整理してたら、古代文明の暗号で世界の秘密に辿り着いてしまった  作者: どみさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/35

姉の位置

 俺は、廊下の中ほどから、鉄の扉の方角へ向き直った。


 レナの視線が、俺の動きを追う。


 ダリオは、廊下の鉄の扉の手前の位置で立ったまま。視線は、廊下の奥の搬入口の方角に向いていた。


* * *


 鉄の扉の取っ手に、手をかけた。


 扉の重さが、指の腹に伝わる。


 扉が、開いた。部屋の中の空気が、廊下に流れ出る。


 空気の重さは、机の縁の高さで止まったままだった。


 装置の音は、鳴らない。


* * *


 俺が部屋に入る。レナが続いた。


 ハルトの背中の輪郭は、装置の制御部の形と一体のままだった。肩は戻らない。指は、針受けの内側で動かない。


 姉さんが、部屋の隅の寝台で、眠っていた。毛布の位置は、半寸、寝台の脇に滑った位置のまま。


* * *


 俺は、姉さんの寝台の前まで歩いた。


 靴音は、低い。


 レナが、寝台の脇に立つ。俺より、半歩、後ろの位置だった。


 俺は、寝台の足元の方に立った。姉さんの頭の方角は、視線から外した。


* * *


 姉さんの呼吸の音が、聞こえる。


 浅く切れていた息が、今は少し長い。


 胸の上の毛布が、ゆっくり上下する。


 俺の息は、その間隔に半拍ずれて続いた。


* * *


 俺は、姉さんの手首に、指を当てた。


 脈が、指の腹の下に、伝わる。


 体温は、家にいた頃と大きく違わなかった。指先の冷えだけが、自分の方に残る。


 髪の手触りも、家にいた頃と同じだった。柔らかさだけが、指の腹に残る。


 俺は、姉さんの体を動かさない。連れ出す動作には、入らなかった。


* * *


 俺の視線が、姉さんの手の位置へ下りた。


 毛布の縁から、紙の縁が、半寸、覗いている。


 姉さんの指が、紙の縁を、軽く握っていた。


 紙の縁の厚みは、ある夜、自宅の戸口に置かれていた紙と、同じくらい。


 だが、縁の擦れ方が、違う。


 文字は、見えなかった。毛布の影と、姉さんの指の影が、紙の表面を半分隠していた。


 紙の縁の繊維が、毛布の織り目に、軽く引っ掛かっていた。


 俺は、紙を取り出さない。


* * *


 レナが、寝台の脇から、毛布の縁の動いた位置に、片手を置いた。


 手の重みは、毛布の上で、ほとんど沈まない。


 レナの指が、毛布の縁の上で、一度だけ、紙の縁の方角を確かめた。


 レナの視線が、姉さんの顔の方角に、一度、向く。


 それから、俺の方角に、視線が戻った。


 レナは、声をかけない。


* * *


 俺は、姉さんの手首から、指を離した。


 寝台の縁に置いた手も、引いた。


 姉さんの体を抱える動作には、入らない。


 俺の位置は、寝台の足元のまま。


 姉さんの頭の位置から、距離は変わらなかった。


* * *


 姉さんの呼吸が、一拍、止まった気がした。


 姉さんの瞼が、一瞬、上がった。


 瞼の縁が、寝台の天井の方角に向いたように見えた。


 それから、瞼が、また閉じた。


 開いていたのは、一拍だった。


 瞼の動きの間に、視線の方向は、判らない。


* * *


 姉さんの手の中の紙の縁が、毛布の縁から、半寸、覗いていた。


 姉さんの指は、紙の縁を、軽く握ったまま。


 毛布の上下は、さっきと同じ速さで続いていた。


 俺は、寝台の足元に立っていた。


 レナの手は、毛布の縁の動いた位置に、置かれたまま。


 部屋の中の空気は、机の縁の高さで、重く止まっていた。


 装置の音は、鳴らない。


 廊下の奥のダリオの足音は、聞こえなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ