表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦えない事務員の俺がダンジョンの報告書を整理してたら、古代文明の暗号で世界の秘密に辿り着いてしまった  作者: どみさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/35

角の紙

 俺は派生メモの書き写しを続けていた。


 ダリオは机の前で過去の通達の束を出していた。引き出しの奥から、紙の束を一つずつ。机の上に並べていく。査察の前に、整理し直すらしい。


 レナは扉のそばに立ったまま、外套を脱がない。


 ダリオの机の側面の、小さな時計の針が、ゆっくり進む。


* * *


 俺は胸の内ポケットから、姉さんの私的暗号メモを取り出した。


 紙は、姉が消えた日から胸の内ポケットにある一枚だ。ペンの跡は薄くなっている。何度も触ったから、紙の縁が指の腹で柔らかくなっている。


 派生メモの脇に、並べて置いた。


 数字の系統は、完全に違う。素数の並びと、報告書の頁数。


 だが、書く手の癖は近い。


 止まる位置と、払いの細さが、ほとんど同じだった。


* * *


 レナが扉から外を見た。雪の固まり方を確認する手の動き。


「もう一度、見てくる」


 短く、それだけ。


 レナが事務所を出た。戸を閉める。閉まる音は、さっきと同じ低さだった。


* * *


 レナの足音が、雪の街路を遠ざかった。数歩で、もう聞こえない。


 ダリオが過去の通達を一枚ずつ机に並べた。ダリオの机が、紙でいっぱいになっていく。古い通達の書式が、新しい通達の書式の脇に、年代順に並ぶ。


 俺は派生メモの書き写しを続けた。


 数字の規則性の入口に、もう一歩近づく気配があった。報告書の頁数の並びが、ある周期で同じ数字に戻る。だが、その周期の根拠まで届かない。


 ダリオの机の側面の時計の針が、二目盛り進んだ。事務所の中で、紙の擦れる音だけが続く。


* * *


 戸が開いた。


 レナが戻った。


 外套の縁の新しい雪は、もう少なかった。来た時より長く歩いた印だ。


 レナは扉の内側で立ち止まった。外套を脱がない。


* * *


 レナが外套の内側から、紙を一枚出した。


 紙の縁は薄く濡れていた。雪解けの湿気が、片側に染みている。紙の片側の縁に、薄い泥が一筋ついていた。街路標の下にあった跡だ。


 レナが、ダリオの机に紙を置いた。


「角の街路標の下に、紙が一枚」


 短く、それだけ。


 レナはそこで一拍置いた。


「街路標の根元に、新しい三本線。位置はそこから二歩奥」


* * *


 俺は紙に屈んだ。


 紙の表面に、姉さんの手の癖で書かれた数字が並んでいた。書く速度が一定で、ペンを持ち直した跡が一度もない。一気に書いた紙だ。


 だが、数字の系統が違う。


 時報の鐘の打数。朝六時の六、正午の十二、夕方六時の六。


 その下に、時計の針の角度を書いた印。短針と長針の交わる位置を、簡略に書いている。


 さらに下に、鐘の鳴る位置ごとの丸。


 時刻に結びついた数字の並びだった。家の中の数字でも、事務所の机の上の数字でもない。


* * *


 俺は紙を一枚抜いて、ダリオの机に三枚を並べた。


 胸の内ポケットの私的暗号メモ。家の中の数字だ。


 ダリオの引き出しから出た派生メモ。事務所の机の上の数字だ。


 レナが持ち帰った角の紙。街路の時刻の数字だ。


 三枚の紙の上で、姉さんの同じ書き手の癖が、別々の系統に分かれている。


 家の中、事務所、街路。三つの場所に、姉さんは別々の数字を残していた。


 ペンの圧の揃い方が、三枚で同じだった。だが、書く速度は、一枚目より二枚目が少し早い。三枚目はさらに早く、紙の縁まで一息で届いていた。


* * *


 ダリオの手のペンが、三枚の紙の上で止まった。


 ダリオの目が、三枚を順に追った。


「これは別の手だ」


 短く、それだけ。


 俺は答えなかった。


 レナも答えなかった。


* * *


 三人とも、何も言わない。


 ダリオの机の側面の小さな時計の針が、また一目盛り進んだ。明日の十時までの目盛りが、その分だけ短くなる。


 三系統の紙が机に並んだまま、まだ全部読めない。


 俺の胸の内ポケットには、外側からの返信の紙が一枚、まだ入っていた。


 それは、机に並べていない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ