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戦えない事務員の俺がダンジョンの報告書を整理してたら、古代文明の暗号で世界の秘密に辿り着いてしまった  作者: どみさん


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宛先

 朝、自宅の机に文書束を広げた。


 昨日読んだ一枚目を脇に置き、二枚目を手前に引く。文書上端の素数列は、一枚目と同じ十二個。だが本文の長さは違う。鍵が同じでも、本文の意味は通らないはずだ。


 昨日の鍵を当てた。三、五、七、十一、十三。一文字目から順に。


 外れる。二文字目で噛み合わない。


 手が止まった。


 一枚目で読めた語を、思い出す。「装置」「信号」「此ノ世ノ外」。


 俺は「此ノ世ノ外」の五文字を、二枚目の上に書き並べた。素数の代わりに、一文字ずつ当てていく。


 一文字目に「此」、二文字目に「ノ」、三文字目に「世」、四文字目に「ノ」、五文字目に「外」。六文字目でまた「此」に戻る。


 二文字目で「ノ」だけが浮く。


 息を吸う。五文字で一巡する。一枚目で読んだ語そのものが、次の紙の鍵になっている。


 二枚目を頭から、五文字鍵で当て直す。


 対象(欠損)ヲ宛先ヘ移送ス。


 移送。


 三枚目を引いた。同じ五文字鍵。


 移送経路(欠損)日没(欠損)十二時間ノ窓。


 四枚目。


 対象(欠損)目覚メズ/生命徴候保持。


 指が四枚目で止まった。


 目覚メズ。


 生命徴候保持。


 五枚目を引く。鍵を当てる。


 過去十九件、宛先到達確認。


 俺の指は、五枚目の上で動かない。


 眠ったまま運ばれる人間が、過去十九件いる。宛先まで届いた、と書かれている。


 姉さんは、消されたのではない。


 眠っている。


 昼前、戸が叩かれた。


 戸を開けた。誰もいない。足元に、布で包まれた小さなものが置かれている。雪で布が湿っている。包みの結び目に泥が乗っている。


 俺は包みを抱えて家の中に戻った。


 布を解く。中身は三つ。古い手帳が一冊、姉さんの印鑑、家で母が使っていた木の櫛が入っていた。


 三つしかない。


 手帳の最後の頁を開く。空白の頁の隅に、走り書き。


 もし戻らなければ、もう一度、家の中で読んで。


 家の中。父の書斎で姉さんが投げてきた合図の続きだ。「シノ」「ユキ」の、その先にある。


 俺は手帳を閉じた。包みを抱え直す。手帳だけを胸の内ポケットに滑り込ませる。紙の角の上に、もう一つ角が重なった。


 事務所へ向かう途中、街の掲示板の前で足が止まった。


 管理局の通達が貼られていた。様式番号は右上の角、「定例事務監査」の文字列の下に、ハイフンが一本ある。


 ダンジョン管理事務所事務員・カイ。出頭命令、本日午後三時、管理局本部。


 俺の名前が、紙の上に書かれている。


 事務所の扉を押した。


 ハルトが所長室から出ていた。ダリオが机に座って、視線を俺に合わせた。何も言わない。


 ハルトが先に口を開く。


「召喚は見たな」


「はい」


「お前は出ない。俺が代わりに行く」


「所長」


「お前だけは渡さん」


 短い間。ハルトの顔の角度が、あの朝、俺の机の紙を覗き込んだ時と同じだった。


「姉と弟、両方は渡せん」


 ハルトが外套を取った。所長室の鍵を机に置く。ダリオの方ではなく、俺の机の上に。


 ハルトが事務所を出る。


 扉が閉まる。


 午後三時を過ぎた。四時。五時。六時の鐘が鳴る。


 ダリオが時計を見た。もう一度見る。視線を俺に移して、また時計に戻す。


 扉が開いた。


 ハルトではない。


 外套の男だった。管理局の制服でも冒険者の装備でもない。普通の外套。ただ、廊下から事務室までの靴音が、聞こえなかった。


 男が俺の机の前に来た。椅子を引いて、座った。


 ペンとインク壺の位置を、指の腹で確かめる。自分の机の上を整えるように。


 男は何も言わない。ダリオも動けない。


 俺は胸の内ポケットに手を入れた。紙の重さが、指の腹に乗る。一番上に、姉さんの手帳がある。


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