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狸塚は源、熊野に渡すと最後の一つを持ち立ち上がると野中に差し出した。恐る恐るそれを受け取ると懐中電灯を付けて足元を照らした。源は懐中電灯を付けると顔の下から光を当て、熊野を見る。熊野は表情を変えずに源の背中を叩いた。
「こらこら、来迎くん。ふざけては駄目ですよ。」
狸塚は呆れた表情を浮かべるとドアノブを軽く捻り、ドアを開けた。錆びついているため、不快な音を響かせている。中は暗く、空気はじめっとしていて、隔離されたように静まり返っていた。散らばっているスリッパを避けると目の前には受付のカウンターがある。狸塚は明かりを付けると辺りを照らした。続くように熊野、源が懐中電灯を灯していく。野中も明かりを灯し、足元を照らす。抜け落ちてしまわないか心配になるほど、床が軋み、慎重に足を置いていく。カウンターの左手には待合室だった場所があり、黒い長椅子が不規則に並べられていた。
「ほこりっぽいっすね。」
源は眉間に皺を寄せ、辺りを見回している。狸塚は長椅子を指で撫で上げるとふっと指についた埃を飛ばした。
「長いこと、使われていませんからね。」
ところどころ朽ちかけた場所を確認するように照らしながら狸塚は言った。
「こんなものまで管理しなきゃいけないんすか?」
それなりに仕事をこなして来たのだろう源はこの場に不釣り合いなほど明るい声で野中に尋ねた。
「ウチは地域密着の不動産屋ですから。地域の人が困っていたら積極的にこういう空き家物件も管理しているんです。」
野中は居心地の悪さに腕を摩りながらそう告げると源は感心した声を上げる。
「それは、殊勝なことで。」
笑みを深め頷く狸塚に、違和感しかなかった。
「確か、最初に異変が起きたのは子供たちが勝手に入り込んでから、でしたっけ?」
狸塚は辺りを照らしながら野中に尋ねた。野中は足元を照らし、気をつけながら歩くと二つあるうちの一つの扉を開けた。金具が錆びついているのか不気味な音が反響する。
「管理はしてましたけど、最低限でしたので。板塀の隙間から敷地内に入り、割れた窓から何度か入り込んでいたと。」
扉の向こう、廊下を軋ませながら歩く。右手には所々破れた障子があり、角を曲がると雨戸が外れ、枠に沿って綺麗に割られたガラス戸を照らした。その近くは割れたガラスが散らばっており、土で汚れていた。
「割れたっていうか、ガッツリ割ってるっすね。」
源は呑気に笑いながら懐中電灯を左右に動かし、割れたガラスに光を反射させていた。
「管理が聞いて呆れますね。」
狸塚の言葉に野中はむっとし、後ろにいる狸塚を見た。
「おっと、失礼。心の声が。」
わざとらしく口元に手を当てにこりと笑っていた。




