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「普通は喜ぶんじゃないんすか?」
頭上から降ってくる言葉は強い言葉ではないのに容赦なく傷をつける。口を開いても声が出ない。
「兄や、姉に比べて、大企業じゃ、なかったから。」
絞り出すように出した言葉は自分でも分かるくらい震えている。
「昔から、兄妹に比べて、平凡だから、頑張れって。」
思い出すのは母親の顔。少し困ったように笑みを浮かべている顔。いつも言われていた言葉が頭をループしている。
「働いているだけで十分だと思うっすけどね。」
ああ、彼はなんでこんなにも素直なんだろうか。いとも簡単に自分の言葉を、飲み込まずに外に出せるのが羨ましかった。
「お待たせしてしまいましたね。」
弾かれたように顔を上げるといつの間にか男女がこちらに近づいてきていた。源と同じ、喪服のようなスーツを着た2人に僅かに心臓が跳ねた。
「うちの来迎が、何か粗相しませんでしたか?」
狐目のひょろりとした男性がニコニコと笑いながら懐から名刺ケースを取り出す。手慣れたように名刺を一枚取り出し、野中に両手で差し出した。
「権現坂社長からご依頼頂きました、祓い屋のむじなづか、と申します。」
名刺に視線を落とすとかなりシンプルな作りだ。祓い屋と狸塚三郎、この文字しか印刷されていない。裏を見ても拠点の住所も連絡先さえない。
「ああ、怪しいですよね。」
「あ、いえ。」
顔を上げると狸塚は笑顔なのに、薄気味が悪い。野中は軽く首を横に振ると、ぬるりと狸塚の背後から小柄な女性が現れた。野中は小さく声を漏らすと慌てて口を手で塞ぐ。
「こちらは、同じく祓い屋の熊野です。」
熊野は一言も発することはなく、軽く頭を下げると野中に名刺を差し出した。恐る恐る名刺を受け取るとこちらも同じく祓い屋と熊野慈鳥としか書かれていなかった。




