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「す、すみません。」
野中は青を通り越して顔を白くすると源に向かい深く頭を下げた。さっきの声はどこから出ていたのかわからないほどか細い。
「別にいいっすよ。」
重い空気なはずなのに、不釣り合いなほどの軽い声。恐る恐る頭を上げ源の顔を見ると、にこにこと笑っていた。
「すごい溜まってたんすね!」
気を遣うでもなく、慰めるでもなくただの感想。しかも明るく、本当に気にしていない様子にこちらの方が戸惑ってしまう。
「でも」
言葉が止まる。源は眉を下げ笑みを浮かべ、肩を竦めた。
「ちょっと羨ましいっすね。」
源の言葉に奥歯が軋んだ。何がだろうか。自分のどこに羨ましがる要素があるのだろうか。野中は再び怒りが湧き上がりそうになるが、グッと手に力を込めるとその気持ちを飲み込んだ。
「頑張るって簡単には出来ないことっすから。」
驚き、手の力が抜けていく。様子を伺うように顔を上げると源と目が合い、彼は歯を見せ笑顔を浮かべた。
「んで、権現坂不動産に就職したんすね。」
「あ、はい。」
切り替えが早いのか、こちらばかり困惑してしまう。
「親御さん、喜んだんじゃないっすか?」
顔が侵食していくように強張っていくのを感じる。口角が意思に反して僅かに震えた。
「い、いえ。それは。」
視線が揺れて、ゆっくりと真っ黒なコンクリートが目に入る。
「安心はしたと思います、けど。」
彼はなぜ、こんなにも人の触れられたくない部分を鷲掴みにするのか。無神経だと思わずにはいられなかった。
「喜んでは、いないと思います。」




