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荒れひとつない健康そうな唇が赤くなるほど強く噛み締めている。血でも出てしまうんじゃないかと思うが心配してやる謂れはない。
「あの土地の、売買を持ちかけられていましたね。」
俯いてしまったため、表情は窺い知れないが焦りと不安と、僅かな驕りが空気から伝わってくる。
「しかし、あそこは我々が管理を依頼している物件。土地が正常に戻るまでは、我々に権利がある。」
とん、とローテーブルを指で叩く。分かりやすく体を跳ねさせる姿は滑稽だ。
「偶然とはいえ、野中幸人が共鳴し、冴島登の力が暴走を起こし始めた。」
年齢は確か、54歳。子供といってもさほど違和感のない歳の若造に詰められるのはさぞ悔しいだろう。心苦しくないといえば嘘になるが、これも仕事だ。楽しくなってきた。
「早期に野中幸人をあの場所から引き離しさえすれば、両方落ち着きを取り戻していたはず。」
「なのに、しなかった。」
懇切丁寧に説明をしてやり、じわりじわりと追い詰めていく。狐がどんどん小さく丸まり、隅に追いやられまるで猫のように見えてくる。
「ことを大きくして、手っ取り早く我々に除霊、浄化させ高値で売り払いたかった。」
違いますか?と首を傾げると、膝の上に置かれた拳まで真っ赤になっていた。
小さく小さく丸まった権現坂の背中を見つめる。小刻みに震えているのは恐怖か、もしかしたら怒りか。
「ほんの僅かな力でも、それを持つ人間は数少ない。」
勢いよく上げられた顔は、困惑の色が強く出ている。
「なので、この業界は万年人手不足です。」
態とらしく肩を竦めて見せると眉間に深く皺が寄せられた。
「こちらが態々、方々に圧力をかけて回した警報器を簡単に使い潰されては困ります。」
しっかりと目を見つめるも、すぐに目を逸らされ忙しなく動いている。言い訳でも考えているのだろう。だが、そんな隙は与えない。
「勘違いも甚だしい。」
とん、と再び指でローテーブルを叩く。生唾を飲む音が聞こえると口角をゆっくりと、見せつけるように上げた。
「あなた方のために我々がいるのではない。我々のためにあなた方がいるんですよ。」
身を乗り出し、顔をずいっと近づける。目を逸らすことは許さない。怯えを見せ揺れる目を、しっかりと見つめる。
「こちらを継ぐ際に先代から散々、釘を刺されていたでしょう?」
どんどん顔の色がなくなっていく。あんなに真っ赤だったのが嘘のようだ。赤くなったり、青くなったり、さらには白にもなる。本当に忙しない。
「我々の意に反すれば、どうなるかを。」
本当に手間を掛けさせる。こんなやりとりは時間の無駄だ。この時間に報告書を書き、新たな案件の準備だって出来る。
「この世から消えてしまった一族はひとつやふたつではない。」
ああ、早く理解して欲しい。我々とあなた方の価値観が違うことを。
「あなたの一族も、そこに名を刻みますか?」
しっかりと身に刻め。二度と我々に逆らうことがないように。
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