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怪訝そうな顔をするも一歩も引かないと分かったのか、渋々といった様子でパーテーションで区切られた簡易的な応接室に案内された。他の社員が慌てる様子がないのを見て、古参の社員はいないのだと分かった。好奇心剥き出しの目を向けられるのは、少々面倒くさい。


椅子に腰掛け、しばらくすると淹れたてのお茶を出してくれた。向かいに座ろうとした野中を手で制すると、なるべく人の良さそうな笑みを浮かべた。


「ああ、お相手は結構ですよ。野中さんもお忙しいでしょうし。」


状態も確認できたことだし、もう彼には用がない。新人ながらそこそこ仕事を振られているのだろう、おずおずと頭を下げるとそそくさと引き上げていった。


目の前にある少し黄みがかった緑茶を見つめる。ふわりと香る匂い、口を付けると少し苦味を感じると自然と笑みが溢れた。


ああ、三流の茶葉か。色も香りも味もそこそこ、たぶんスーパーの安物だろう。まあ、この規模の企業ではまずまずだろう。そんなことを考えながら喉を潤していると快活な声が聞こえてきた。


「いやー、予定より遅くなってすまないね。」


座ったまま、パーテーションの先を覗き込むと恰幅の良い中年男性が社員に声をかけている。まん丸の目は少し垂れていて人の良さそうな笑みを浮かべ、お土産、と社員に紙袋を渡している。


「権現坂さん。」


今日の目的である人物に声を掛けると一瞬、天敵を見つけたように顔を顰めた。駄目ですよ、そんな顔を見せては。表情管理が出来ていませんね、権現坂稲路さん。


「狸塚さん!まさかいらっしゃっているとは!」


明朗そうな笑みを浮かべながら近づいてくる。しかし、顔はどこかぎこちなく懸命に取り繕っているのが狸塚には丸わかりだ。


「野中さんがお電話をしていらっしゃったようですが。」


態とらしく笑みを作りながら首を傾げた。肩が大きく揺れるものの、口角を頑張って上げている。


「いやー、気付きませんで。大変お待たせしてしまいましたか。」


「いいえ?お茶を楽しませていただきましたので。」


権現坂の視線がテーブルの上にある、白く丸みのある湯呑みに向けられた。ぐっと息を飲む音が聞こえると、笑ってしまいそうになる。


「い、頂き物の良い茶葉がありますのでそちらを是非飲んでいただきたい。」


何も言わず、体を軽く傾けながら権現坂をただただ見つめる。それだけで焦るのだから大変可笑しい。そんなに怯えるのなら、あのようなことをしなければ良かったのに。


「別室でお話、伺いますのでこちらへどうぞ。」


手で指し示されたのは奥の、扉がきちんとある社長室。いつもの場所だ。


「こちらでもよろしいんですよ?」


試すように尋ねると、硬い表情のまま首を横に振る。奥歯を噛み締めているのか、こめかみに力が入っているようだ。


「い、いえ!あちらでお願いします。」


何も言わず、微笑みを向けただけで拳を握りしめている。それを横目に勝手知ったる我が家のように奥へと歩みを進めていく。社長室のドアノブに手を掛けるとこちらに向かってきた権現坂を見た。


「ああ、お茶は結構ですので。」

お読みいただきありがとうございます。

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