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夢なのに足元がぐらつく。立っていられない。膝を抱えるようにしゃがみ込む。もう、考えたくなかった。しばらくそうしてると、突然、ふわりと背中を包み込むような暖かな風が吹いた。
なぜだか風が吹いた方へ行かなければならない気がして自然と足が動く。最初は恐る恐るだったけれどはやる気持ちに合わせるように駆けていく。走って、走って走って。走った先には僕と母親がいた。
「おかーさん、おにいちゃんかっこいいね。」
甘えるように母親の膝に頬を寄せるその顔はただただ眩しかった。
「おねえちゃんもすごいよね。」
優しく頭を撫でてくれる母親の手の感触を思い出した。
「ぼく、おにいちゃんとおねえちゃんみたいになりたい。」
目頭が熱くなる。なんで、忘れていたんだろう。
「だから、おかーさん。」
小さい頃の無知で無謀な夢。
「おうえんしてね。ずっとずっとおうえんしてね。」
僕が、僕自身に足枷を付けていたんだ。
「お兄ちゃんみたいにならなくても。」
母親の手がゆっくりと頭から頬へと滑らせる。
「お姉ちゃんみたいにならなくても。」
頬の感触を確かめるように撫でられる。
「お母さんはずっとずっと幸人を応援してるよ。」
真正面から見た母親の目は愛おしさを携えながら幼い頃の僕と同じくらいキラキラと輝いた笑みを浮かべていた。
◼️
ゆっくりと覚醒していく。だけど、まだまだ瞼が重い。鼻を掠める独特なシートの香りと体に感じる僅かな振動で車の中だと分かった。
源と狸塚の声がぼんやりと聞こえる。時折、狸塚の押し殺すような笑い声が聞こえて、源が拗ねたような声が聞こえてきて、今日初めて楽しそうだなと思った。
瞼が僅かに開くが視界はまだぼんやりとしている。運転席には狸塚、助手席には源がいるということは、隣から感じる温もりは熊野のものだろう。この心地よさは、自分が知っている熊野とはかけ離れていた。時折、源が振り向き熊野に話しかけている。その顔を見て、思った。ああ、自分と一緒だと。母親に向ける、幼い頃の自分の顔と一緒だと。
熊野と源、二人に感じた既視感はこれだったのか。一人納得すると瞼が重くなり、ゆっくりゆっくりと体の力が抜けていった。
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