20
「源くんも早く片付けてください。」
懐に数珠を乱暴に入れ込むと懐中電灯を持って狸塚の側に腰を下ろした。狸塚は手を止めず、慣れた手つきで蝋燭を消していく。
「狸塚さんって、ちゃんと作法分かってるっすよね。」
お前に言われたくないと言わんばかりに顔を歪めたのを見て、言わなくていいことだったと気がついた。取り繕うと口を開くが、狸塚は源の眉間を人差し指で小突いた。
「そういう所が無神経だというんですよ。」
手をひらひらと揺らし呆れた声で言うものの、どこか楽しそうに口角を上げていた。
「この業界にいると他宗教でも所作は身につけなければいけませんからね。」
蝋燭立てから一本、また一本と蝋燭を外しダンボールの中に収めていく。源はそれをじっと眺めた。指の先まで神経が張り巡らせているかのように、滑らかな手つき。狸塚の顔と相まって所作まで狐が人間に化けたみたいだ。
「源、自分が持ってきたものだろう。自分で片付けろ。」
「はーい。」
間延びした返事をすると魔法陣が描かれた古紙を手に取った。いったいなんでこんなものが、倉庫に置いてあったんだろう。準備のために立ち寄った機構の倉庫の中で見つけた怪しげな魔法陣をまじまじと見つめたあと、折らないように気をつけながら丸めていった。
「この後、どうするんすか?」
丸め終わった魔法陣をダンボールの中に広がらないように縦に納める。古紙の匂いが鼻に残っている気がして軽く鼻を擦った。
「野中さんを送り届けて解散です。君、一応未成年ですし。」
懐中電灯の光を床に滑らせながら狸塚は答える。慈鳥も狸塚の反対側を確かめるように光を当てている。源は何の気なしにその光を目線で追った。
「忘れ物はなさそうですね。慈鳥さん、お任せしても?」
「ああ。」
慈鳥は軽く頷くと診察室へと進んでいく。真っ暗なその先は、なんだか慈鳥を飲み込むように口を開いているように見えた。
「慈鳥さん、何をするんですか?」
よいしょ、と年寄り臭い掛け声でダンボールを持ち上げた狸塚は、表情が読み取れない顔で源を見上げた。
「後始末ですよ。ほら、源くんは野中さんを運んでください。」
そう一言早足で出入り口に向かってしまう。腑に落ちないながらも口に懐中電灯を咥える。野中の腕を掴むと首に掛け、背中に腕を通す。
ぱん、と手を叩いた音がした。音が聞こえた方へ反射的に顔を向けた刹那、風が吹いた。まるで全てを吹き飛ばすような突風。あまりのことに目を閉じてしまうが、心地良さを感じ恐る恐る目を開けるとどこかさっぱりとした空気が漂っていた。それにどこか明るい気もする。
あの口のような暗闇から慈鳥が音もなく出てくる。いつもと変わらない慈鳥の顔。目が合うと慈鳥は怪訝そうに眉間に皺が寄る。
「何をしている。早く行くぞ。」
そう声を掛けると源の横を通り過ぎる。源は慌てるように野中を支えるように立ち上がると慈鳥の背中を追いかけた。
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