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「それなら最初から言って欲しかったっす!」
まるで小さな子供のように頬を膨らませて訴える源を狸塚は鼻で笑い、手をひらひらとさせた。
「言ってたら君はその事まで話をするでしょうが。」
想像する。確かに自分なら口を滑らせる自信がある。
「自然に感情を吐露させるには君みたいな無神経な人間がうってつけだったということです。」
狸塚は歯を見せながら笑うと両手で源の肩をぽんぽんと叩いた。
「褒めてないっすよね、それ。」
「手放しには。」
源は未だ笑みを浮かべている狸塚を恨めしそうに見つめると、狸塚は楽しそうに笑い声を上げる。
「狸塚。」
「はい。」
慈鳥の声に背筋を伸ばすと狸塚はピタリと笑うのを止めた。
「あまり、源を揶揄いすぎるな。」
狸塚は肩を竦め、態とらしく胸に手を置くと慈鳥に向かって頭を下げた。
「揺らぎは感情によって発生する。」
慈鳥は真剣な眼差しで源を見たあと、気を失っている野中を見た。野中の額にはうっすらと汗が滲んでおり、少し青ざめているように見える。
「『彼』の感情に共鳴、同調したことによって揺らぎが起きた。似た経験をしたことがあるのだろうな。」
慈鳥は目線をすぅっと蝋燭の炎の先の空間に移した。源、狸塚も追うように目を動かす。蝋燭の橙色に照らされた何かがいる。ベージュのズボン、皺一つない白いワイシャツ、首にはくっきりと青紫に変色した縄の痕、青白い顔に生気のない目。年齢は、野中と近い年頃だろう。紛う事なき人間ではないものが立っていた。
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