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「集団心因反応です。」
「しゅうだんしんいんはんのう?」
源がぽかんとした表情で狸塚を見ていた。狸塚は腰に手を当て俯くと盛大にため息をつき、源を見やると唇に指を当てた。源は真一文字に口を結び、激しく頭を縦に振る。
「それって集団ヒステリー、ですよね。」
狸塚に視線を戻すと、狸塚はひとつ咳をすると頷いた。
「強い不安や暗示によって、複数人が似たような症状を訴えるアレです。」
狸塚の説明に違和感を覚えた。確かに、世界中で同じ症例はいくつもある。だけど。
「あれはまったく同じものを見ることはありえません!」
野中は首を横に振る。狸塚を見ると依然変わらず笑みを浮かべ、スマホをしまうとゆっくりと床を軋ませながら近づいてくる。目の前で止まると首を傾げた。
「どんな容貌をしていましたか?」
「え?」
「幽霊は、どんな、容貌を、していらっしゃいましたか?」
一言一句、はっきりと発しながら目を細めて野中を見下ろした。
野中は眉を下げ、忙しなく視線を漂わせた。何故か焦った気持ちが込み上げてくる。
「男性で、年齢は、僕と同じくらいで。」
そう告げると狸塚は鼻につく笑い方をする。踵を返すと足元だけを照らしながら野中から離れていく。ピタリと止まると、振り返った。
「そうですか、男性。」
小さく笑い、確かめるように呟く狸塚に眉を顰める。そして、狸塚はこちらを伺うように首を傾げた。
「老婆、だったみたいですよ?」
「え?」
「子供が見た幽霊。」
口元を綻ばせると狸塚は手を開いて見せた。
「ある子はしわくちゃな腰の曲がった老婆だと言い。」
親指を折る。
「ある子は髪の長い白い服を着た女の人だと言う。」
人差し指を折る。
「また、ある子は白衣を着た年配の男性。」
中指を折る。
「ある子は赤いスカートをはいたおかっぱの女の子。」
薬指を折ると狸塚は、指し示すように野中に手のひらを向けた。
「そして、同年代の青年。」
にやりと笑い、野中を覗き込むように腰を丸めた。
「あの場にいたみなさん、見たものが違いますね。」
声を弾ませる狸塚に、ただただ茫然とするしかなかった。
「じゃあ、悪夢はなんだったんすか?」
手を上げ、呑気に質問をする源に狸塚の口角が僅かに震えた。その様子に源はするする手を下ろすと、そのまま口を覆った。熊野は源を睨みつけている。
「確かに、悪夢については説明できていませんっ。」
なぜか焦燥感に駆られる。霊のせいじゃないなら、それはそれで良いはずなのに。
「症状が出ているのは野中さんだけですよ。」
ぴしゃりと言い切られると息を呑み、後ずさると忙しなく腕をさすった。
「子供たちは悪夢も見ず、特に変調もなく毎日元気に過ごしているみたいです。」
一歩、また一歩と狸塚が近づいてくる。そのゆったりした歩調に、追い詰められている気がする。狸塚に肩を叩かれると、耳元に唇を寄せた。
「心配事、おありですよね?」
見透かされている。狸塚を見ると薄ら笑いを浮かべていた。




