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第二話 帝国の料理



求婚された。

いや、求婚というか決定事項?

妃って?

誰が?

私が?


リリィは混乱した。

それはそうだ。

いきなり「我の妃にする」とか言うんだもの。

そもそもあなたは誰?

王宮に居たしとんでもない美形だし主とか呼ばれてたし、どこかの偉いお貴族様なのかと思ってたけれど。

え? 私達会うの二回目だよね?



そんなことをグルグル考えてるリリィを見つめるリーインは相変わらずの無表情である。


だがリーインの心の中は凄まじいことになっていた。


(我の愛しき番……やっと手に入れられる。ああ、なんと可愛らしい。こんな細腕からよくあんなに美味なものを作り出せるものだ。魔法の手か? 我とて魔法は使えるが、こんな幸せな魔法は使えぬ。リリィ……ああ、今すぐにでも我のものとしたい……。だか人間は弱い。こんなに華奢なのだ、壊さぬよう気をつけねば……)



「リリィ」


「は、はい!?」


「我の妃になるのは……嫌か?」


「は、あ、えーと……。ま、まだ出会って間もないですし……」


「嫌……ということか?」


「い、嫌というわけでは……。ただまだお互いよく知らないというか」


「そなたは我の番だ」


「そう、番……番?」


「そうだ」


リリィは思い出した。

最初に出会ったとき、たしかにハイシャンが「番が死にそうだ」と言ったのを。

ということは、この美形さん、リーインは──。


「り、リーインさんて……エクリプス帝国の方、ですか?」


「ああ。皇帝だ」


「こうてい……コウテイ……皇帝!?」


リリィは腰を抜かしかけた。すぐにリーインが支えたためギリギリ倒れなかったが。


「わ、私が番だというのですか……?」


「ああ。間違いない」


「え、え、でも……せっかく料理番になれるかもなのに……」


リリィは昔から料理が大好きだ。

だからこそ王宮の料理番という料理人の誰もが憧れる人になりたいと思った。

夢であったし、それがもうすぐ叶うかもしれなかった。

なのに。


「……料理がしたいのか?」


「したい……です。それを沢山の人に食べてもらうのが……美味しいって言ってもらうのが、夢なんです……」


「ふむ……」


リーインの心の中は複雑であった。

番の……リリィの料理を誰にも渡したくない、自分だけに作って欲しい。

だがリリィの夢も叶えてあげたい。


「……我が帝国で料理番をするか?」


「え?」


「ただし、妃が料理番など前代未聞だ。それゆえに身分を明かさず働いてもらうことになるが……」


「っ、や、やりたいです!」


「……わかった。では我の妃になることは承知ということでよいのだな?」


「あっ、えと……一応両親にも話をしたいのですが……」


「問題ない。すでに話している」


「えっ?」


「帰ってきたらよく話し合うといい。ではまた明日来る」


そういうと、リーインは名残惜しそうにお店を出ていった。



その後、帰宅した両親はリリィを見るなり泣き出した。


「リリィ、あなた幸せになるのよ! 沢山美味しいもの食べていい暮らししなさい! 皇帝陛下に粗相のないようにね!」


「そうだぞ、私達のことは気にするな。沢山結納金やらなにやらいただけるし、なによりお前が幸せならそれでいい」


「お母さん、お父さん……。うん、ありがとう。私、幸せになるね」


両親の涙に釣られて泣き出したリリィは、それが嬉し涙なのか不安からくる涙なのかわからないのだった。





それから三日後。

リリィはまとめた荷物を馬車に乗せ、迎えにきたリーインとハイシャンと共にエクリプス帝国へと出立した。

いい馬車なのか、揺れも少なくリリィはだんだん眠くなってきていた。


それに気づいたリーインは、自然とリリィの頭がリーインの肩にくるように姿勢を変え、ついにリリィが肩で寝ている状況に持ち込んだ。


表には出さないがリーインの心の中は喜びで満ち溢れており、馬車の御者をするハイシャンが見たら生暖かい目で見るであろう。



リリィは目覚めて一番にリーインの肩で寝たことを平謝りしたが、リーインにとってはご褒美なのでもちろんお咎めもなく、「我の身体は好きに使ってよい」と一見危なそうなお言葉をいただいた。


その後は馬車で気まずい沈黙……になるかと思いきや、意外とリーインがリリィに質問攻めしたおかげで楽しく過ごせた。


そしてとうとうエクリプス帝国に入った途端、移動手段が馬車から列車へと変わった。


さすが帝国というべきか、エクア王国にはない技術がある。

これは料理の方も学ぶことが沢山ありそうだ、と気合を入れたリリィであったが、それは違った意味で学ぶことが沢山あったのである。




無事に皇帝の住む宮廷へと着いたリリィは、まずは疲れを癒すのが先だとバスルームへ連れていかれ、侍女に裸に剥かれた。

平民であるリリィはそんなことをされた経験がなく、必死に抵抗したがやはり人数には勝てずそのまま隅々まで磨かれた。


そしていつの間に用意したのか、身体にピッタリなサイズのレモンイエローのワンピースを着させられると、これまた豪勢な食事場所へ通された。

そこには同じくお風呂に入ったであろうリーインがいて、そばにはハイシャンが控えていた。


「リリィ、疲れただろう。夕餉の後はゆっくり休むがいい」


「は、はい。ありがとうございます」


リリィは密かにこれから出される料理に期待をしていた。一体どのような美味しい料理が出てくるのだろう。

わくわくしながら待っていると、柔らかな物腰の紳士から料理がサーブされた。


「まずは前菜からでごさいます。サーモンとアボカドのタルタルでごさいます」


「わぁ、綺麗」


細かめに切られたアボカドのうえに同じように切られたサーモンがのっており、上には綺麗なお花がのっている。これは何の花だろう?

そう疑問に思いながら一口食べる。


「!!」


(に、苦い! このお花、苦いよ!?)


パッと顔を上げてリーインの方を見ると、涼しい顔で食べている。


(えーと、これ、苦い……よね? 私の味覚がおかしいの?)


なんとか気合いですべて食べたリリィは、次の料理に警戒する。


「じゃがいものスープでございます」


恐る恐る一口飲む。

すると、今度はとてつもなく甘い味がして驚愕する。


(え! 今度は甘い……!)


それも何とか気合いで飲み干す。


「メインの牛肉のステーキでございます」


「……」


リリィはそっとナイフで肉を切る。すると中がほぼレアであった。

そして味付けは塩のみ。


「デザートでございます」


デザートはりんごのタルトであった。見かけはとても美味しそうだが、とにかく甘い。甘すぎる。


「……ごちそうさまでした、とても美味しかったです」


「口に合ったようならなによりだ。さて、そろそろ寝──」


「リーインさ、様」


「様はつけなくともよい」


「……リーインさん。少し2人きりで話せませんか?」


「……皆のもの、下がれ」


他の人々が下がったのを確認した瞬間、リリィはリーインにこう尋ねた。


「このお料理は皆が食べてるのですか?」


「いや、基本は我らのみだ。他のものは別に作ったものを食べている」


「なるほど……。リーインさんは味覚が他の方と違うなどはあるのですか?」


「いや、変わらぬと思うが……」


「そうですか……」


「なにか思うところがあったか?」


「そうですね……。あの、お願いがあります」


「なんだ?」


「市民の食事も食べてみたいのです」


「ふむ。いいだろう。明日出かけよう」


「え、リーインさんも行くんですか?」


「無論。我の魔法で姿は変えられるからな」






翌日。


皇帝の魔法で姿を変えたリリィとリーインとハイシャンは、街の中心部へと来ていた。

皇帝は茶色の髪に翠の瞳、リリィは赤茶の髪に青みがかった瞳、ハイシャンは黄色がかった髪に茶色の瞳だ。

姿が変わった時には感動した……のだが、一つ問題点がある。

それは色は変わっても顔の造形が変わらないことだ。

おかげで美形の男性2人に平凡な少女1人というおかしな構図となっていた(実際リリィも可愛い方ではある)。


「と、とにかく街の一般的な食事を食べてみたいです!」


「それならこのハイシャンにお任せを。街のことなら詳しいからね」


「よろしくお願いします!」


「はいは〜い」


一同が向かったのは『かぼちゃ亭』というなんともいえない名前のお店だ。

店主はかぼちゃが好きなのだろうか。


カランカラン


「いらっしゃいませー! 何名様でしょうか?」


「三人だ」


「かしこまりました、こちらのお席へどうぞー!」


案内されたのは奥のテーブル席。

まだオープンして間もないくらいの時間であるのに、すでに席は埋まりつつあった。

ハイシャンが店員に声をかける。


「すみません、ここのおすすめはなんですか?」


「あ、はい! ここはかぼちゃグラタンがおすすめですよー!」


「なるほど、あとはありますか?」


「あとは鹿肉のステーキに、じゃがいものスープですかね!」


「あ、じゃあその三つをください」


「はい! お待ちくださいねー!」


リリィは内心ドキドキしていた。

ここでもあの甘ーいスープや苦いグラタンとかだったらどうしようと。


しばらく経って、料理が運ばれてきた。

取り皿もきちんと三つある。


「さぁ、召し上がれ」


「ありがとうございます。いただきます」


まずはじゃがいものスープから飲む。


「!! 美味しい!」


「お、良かった!」


じゃがいものスープには濃厚なコクがあり、ただじゃがいもをミルクで伸ばしただけではないようだ。


「これはなんだろう……玉ねぎを炒めて甘みをだして、あとは……鶏肉の出汁?」


「おっ、ねえちゃん鋭いねぇ! うちは三日間煮込んだマレー鶏の出汁を入れてるんだ。うまいだろ?」


「ええ、とっても!」


リリィは次にかぼちゃのグラタンに手をつける。


「ふー、ふー、はふっ。……んー、美味しい!」


かぼちゃの甘味とチーズの塩味が相乗効果となり、とても美味しい。


これだけ美味しいのだ、きっと鹿肉のステーキもさぞ美味しいのだろう。


リリィは期待して鹿肉にナイフを入れる。


「……? やっぱり結構レアね」


一口食べてみる。

鹿肉の旨味とふってある塩の味はたしかにする。だがそれだけ。先ほどのような感動する美味しさは感じられなかった。


リリィは何故だろうと疑問に思う。

この国ではステーキはレアに焼くものなのだろうか。


「店主さん、すみません! 何故このステーキはレアに焼いているのですか?」


「んー? そりゃあ龍神様の好物がレアに焼いたステーキだからさ。素材の味を楽しむのがお好きなんだ。龍神様はこの国の守り神だからな、うちらも敬愛の意味を込めてレアで焼くのよ」


「なるほど……」


リリィはちらっとリーインの方を見やる。

相変わらず涼しそうな顔をして鹿肉のステーキを食べていた。




宮廷へと戻った一行は、リーインの執務室で変身を解いた。


「あの、リーインさん。お聞きしたいことがあるのですが」


「なんだ?」


「リーインさんは昨日の料理、全部お好きな味なんですか?」


「……。いや、好きではないな」


「え! では何故あのような味に仕上げてあるのでしょう? かぼちゃ亭では至極真っ当な味でした」


「……歴代の皇帝の好みに寄せているのであろう」


「歴代の……?」


「ああ。前菜にのっていた花、あれはハナニガナといって食べれるがとても苦い。だが初代皇帝は好んで食べていたという」


「ハナニガナ……」


「次に甘いスープだが。二代目皇帝はスープは甘くしないと飲まなかったそうだ。そしてレアに焼いた肉が好きなのは三代目。甘い甘いりんごタルトは四代目が好んだ。そして我は五代目だ」


「な、なるほど……。では料理番の方々は皇帝陛下が好みそうな味だと認識して出しているのですね」


「おそらくな」


リリィは納得すると同時に、では今の皇帝であるリーインさんの好みの味はどうなのだろうと思った。


「リーインさん。今まで食べた料理で一番美味しかったのはなんですか?」


「リリィの作った料理だ」


リーインは即答した。

嘘ではない。番のくれたものならなんでも美味しいが、特にリリィが作った料理が美味しいと感じたのだ。


「そ、そうですか。ありがとうございます。……あの、私は料理番に入れていただけるのですよね?」


「ああ。すでに席は用意してある。結婚式の日取りやらなにやらを決めねばならぬから、その後になるが」


「結婚式……」


リリィはハッとした。

そうだ、私はこの超絶美形な皇帝と結婚するのだ。


「日取りやドレスなどを決めさえすれば、あとは自由にしてよい。妃だからといって仕事をする必要もない。ただ──」


リーインの瞳がキラリと光る。


「もし他の男に懸想などすれば、許さぬ」









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