№50
いつのまにか誰もいなくなった室内には殿下と私の二人だけ…。
色々と考え込んでいた私はそんな事にも気づいていなかった。
驚いて回りを見渡す私にクスリと笑う。
無駄に顔が良いから心臓に悪い、顔に熱が集中していくのがわかる。
「逢いたかった。」
ふいに告げられた言葉。
たった一言だけどそれが堪らなく嬉しくて仕方がない。
急に恥ずかしくなり下を向いてしまった。
いつのまに私はこんな風になってしまったんだろう……。
ついさっきまでは、空気を読めない変態だって罵っていたはずなのに……。
それでも素直じゃない私は、私も逢いたかったとは言えない。
「こっちにおいで。」
なんか今…とんでもなく甘い声で言われたような……。
恐々と視線を殿下に向けたら………、ダメだ……、濃厚すぎる……。
猛烈に妖しい妖気を噴出している。
はい、そうですかと簡単には行けない…。
普通だと好きな人から言われたら喜んで行くのかな?
イヤ待てよ……、それだと慣れていると思われるかも……。
物凄く一人で葛藤していたら、
「私がそっちに行こう。」
ニヤリッといつもの嫌な笑み。
そう言って恥ずかし気もなく堂々と私の隣に座る殿下。
この人は何でこんなに照れもなくできるんだろう……。
私が異常なのか……、どこが基準かがマジでわからない…。
殿下の重みでソファーが微妙に傾き自然と彼に寄りかかってしまう。
鼻を擽る殿下の香りに、胸がキュンとなった。
私……マジで変かも……、絶対おかしいよ……。
「二人きりの時は……、眼鏡……外そうな…。」
私にとってピーッと笛が鳴りそうな反則行為もあまりにも自然過ぎて困る…。
ふいに取られた眼鏡、そのまま、むぎゅっと抱きしめられた。
妖しげな妖気は意図も簡単に私を殿下で一杯にしていく。
「ずっとユリアを抱きしめたかった…。」
産まれて初めて言われた言葉にマジでキュン死しそうになった。
わざわざ口に出さなくてもいいから……、日本人は余計な事を言わなくても
心が通じる、……たぶん……、民族なんだと教えたい……。
でも……嬉しい……。やっぱり言葉って大切だと思う…。
わかってしまった今でも、いざ自分が伝えるとなると恥ずかしくて言えない…。
だから…お願い……こんな私を理解して……と願ってしまう…。
その事を伝えたくて……、殿下の背中に腕を回した……。
私の腕では殿下を包み込むように抱きしめる事は無理だけど…、
それでもわかって欲しくて力を入れた…。
私だって、認めたくないけど…………、同じ気持ちだって事を………。
ピクリと彼の身体が動いた。
彼女の顔にかかる髪の毛を両腕でうしろに梳き、
間近にまで顔を近づけては視線を合わす。
見詰め合う二人。
彼には彼女しか見えない。
勿論彼女も同じ事。
視線を合わせた時には気づいていた。
彼が何をするのかは…。
濃密駄々漏れな彼は、危険すぎて眩暈がしそう。
可憐で真っ白な彼女は、清純すぎて手折ってしまいそうで危険。
それでもお互い危険なそれは甘く瞳奪われていくのを止められない。
彼が少しだけ顔を傾けた。
唇に触れる感触にビクッと肩が跳ねる彼女。
目を閉じる事も忘れただ目の前の彼を見つめていた。
超接近の彼とバッチリ目が合った。
バツが悪いというか……、なんとも微妙な空気が漂う。
それでも触れているそこに意識が集中して赤を通り越して青くなりそう。
こんなに接近しているのに、嫌な笑みをされたのがわかってしまう。
目を閉じるタイミングを逃した私は、この後とんでもない事になってしまった。
私の目をジッと見つめながら、彼のキスが続く。
目から妖術並みの光線でも出ているのかと思う程妖艶な瞳から逸らせなかった。
マジで食べられると言う言葉がピッタリな程に続くキス、
しかもジッとお互い見つめ合いながら………。
微妙に何をされているのかが視覚として見たくなくても見れるから堪らない、
もう死んじゃうかと思った。それも自分の事…………、悶絶死寸前…。
視覚だけじゃなく、聴覚からは音として伝わってくる、
音…これがまた他人が出している音ならいいけど、これもまた自分の事…。
触覚からは直に唇に感じる激しい行為、それになんか変だけど味覚も……。
加えて嗅覚……、彼の爽やかな柑橘系の香りがまたとんでもなく効果的だし…。
キスってこんなに凄いものだとは思わなかった……。
五感を総動員するなんて知らなかったし……。
初心の私に対してこれはどうよとか思う暇もない……。
途中から意識が飛びそうになるのを必死で我慢した…。
「こんな官能的なキスは初めてだ。」
と…、信じられない言葉が耳に聞こえた。
瞬間にはまたぎゅーーっと抱きしめられていた。
あんたがしたんだろと言いたいけど、もうそんな気力なんて残ってない。
今更目を閉じても、浮かんでくるのはさっきの彼の熱い視線と息使い。
それに色々浮かんでくる。色々……五感って…凄いです。
ずっとこうしたいと思っていた。
ユリアを抱きしめ、めちゃくちゃキスしたいと……。
異世界とは恐るべし…。住んでる世界が違うだけでこんなに違うとは…、
目を開けてのキスだとは思ってもいなかった…。
ユリアが今まで官能的な世界に身を置きよく経験もなく無事でいたと安堵するも、
この先が楽しみでもある……。
可愛い顔がいつのまにか女の顔になっていた。
ユリアの綺麗な顔がだんだんと艶を増し、私を煽ってくる。
頬を染め潤んだ瞳…、時折苦しそうに眉をひそめ私を見つめる
そんな顔もできるのかと思うと…ついその先を見たくて、
理性が飛びそうになる口づけをしてしまった…。
昨日よりも今日…、イヤ違う、さっきよりも…もっと…、
ユリアに溺れていく自分がいる。
この私がキスだけでここまで気持ちを揺さぶられるとは……。
このどうしようもなく小さな可愛い女が愛おしい。
あ………、………。
………。
………。
………。
興奮しただけなんだが……。
今のは防ぎようがなかった。
あんなエロい顔間近で見て正気を保てる男などいない。
タキーノ国……まさかな…。
もうあんなに遠い国になど行かぬ。
離れてなんかいられない。




