№47
『好きだ』
『逃がしたりはしない』
『私と婚姻しろ』
こっ恥ずかしい言葉が頭の中をぐるぐるかけまわり消防車が必要なくらい
脳内が火事状態だった。
目を閉じるとキラッキラな顔が浮かんできて、死にそうになるし。
命の危険とは違う意味で昇天しそうな心が騒ぎ立てて困る。
ずっと顔に熱が集まり、のぼせそう……。
夢だと思うことにした。
あれは夢、脳内を必死で現実から夢へと移行させる。
簡単な作業ではないのは十分わかってるけど、それが最善だと私の何かが叫ぶ。
ヨレヨレの私はベッドの上でボーッとしていた。
そのままヨロヨロと寝室から出て、いつものようにお風呂に行こうと
部屋を横切っていると
「おはよう、ユリア。」
爽やかに挨拶をする殿下に身体が固まる。
ソファーに座り優雅にお茶を飲んでいる姿にびっくりした。
「寝癖か? 可愛い過ぎるだろ。」
朝っぱらから甘ったるい言葉を平然と吐くこの男は既に完璧な身なり。
今の私は、寝癖に加え髪はぼさぼさ…、おまけに子供用の動物がついた寝着。
誰か私をここから連れ出して…、………。
サラがダダダッと勢い良く走るように歩いてきたかと思うと、
私を抱えてダッシュしてくれた。
サラ、ありがとうーーーーっ。
「ユリア様、私がお迎えに行くまで寝室でお待ちください。」
「はい…、今度からそうします…。」
ゆっくりと湯船につかりのんびりとした時間が幸せだな……。
とは言わせないサラがあっと言う間に私を湯船から出しては身支度をしていく。
気持ちはわかるけど…、約束していたわけでもなく勝手にやってきた相手に
私は不機嫌さを隠せない。サラに笑って下さいとお小言めいた言葉を言われ
朝から酷い顔だと鏡の中の自分にげんなりしていく。
あれは夢、もう一度しっかりと鏡の中の自分に言い聞かせる。
今、私は当然のように座っている殿下と朝ご飯を食べている。
私の三倍はあるかという量の食事をモリモリと食べている姿に圧倒されていた。
二人きりの室内、もそもそと食事をしながら、タイミングを見計らっていた。
先に口にしたのは私、……この気持ち…間違わずに伝えたいから……。
「一晩……考えました…。」
ゆっくりと言葉にした…、怖くて声が震える。
「それで、」
「どう考えてもおかしいです。」
「何がだ?」
「婚姻とか…、」
「好きな相手に婚姻申し込んでどこがおかしい?」
私の言葉を遮るような殿下の言葉。
ビクリと身体が跳ねる。
「そんなに簡単に選んでいいんですか?」
「それが一番大事だと私は思うが、違うか?」
間違ってない殿下の言葉に抗えない自分がもどかしい…でも私も譲れない。
「ものには……順番ってものがあります…。」
だって…そうでしょ? いきなりお付き合いもなしに結婚とか……、
「順番? ユリアの世界ではそれが必要なのか?」
コクンと頷く。
「どうしたらよいのだ?教えてくれないか?」
「うまく…言えないけど…、これだと…会っていきなり結婚するようなもの…」
恋愛って……この人の中にはないの……。………。
「そうか…、ここでは生まれた時から婚約者がいることもある…。
結婚の儀の数日前に始めて顔を見るとかも普通だからな…。」
殿下の言ってる意味も理解できる。私が普通というようにここではこれが普通。
「何が一番重要なんだ?」
「それは……お互いの……気持ち…。」
「私の気持ちは決まっている。ってことは……。」
その後の言葉を聞くのが怖くて視線を逸らした…。
「ユリアの気持ちか…、…。」
思案するように黙り込む殿下に自分で言っておきながら心が落ち着かない…。
「お前は…私の事が……、好きではないんだな………。」
あまりにも辛い言葉に…、言わせたくせに泣きそうになった。
そんな事を……言わせたいんじゃない……。違う…。
「それでは……婚姻など…無理か……。」
そんな顔しないで……、違う……。
ズキンと心が痛む……。殿下の辛そうな顔……見れない…。
「一つだけ……聞いてもいいか?」
何を聞かれるのか不安で顔を上げることもできずにいた…。
ふいに浮いた身体に驚く暇もなく気づくと、どこまでも広がる景色、
ここは……あの塔………。
絨毯に座る殿下に横抱きにされたまま私は動けなくなっていた。
「少し…私も勇気が必要だ…この場所に連れてきてしまい…すまない…。」
首を横に振る事しかできない。
私の顔を伺うような視線に耐えられなくて下を向いてしまった。
「昨夜……ここで……キスした時なんで抵抗しなかったんだ?」
「………。」
それは………、…………。
「お願いだ…こたえてくれないか?」
切ない殿下の声が鼓膜を震わすから……泣きそうになった。
顎をあげられ視線を無理やり合わせられてしまい、
私の心を見透かすような瞳に軽くパニックになりそう…。
今にも溢れそうな涙、瞬きもできずに殿下の瞳を見る事になり、
心臓が壊れそうなほどドキドキと響いて騒がしい…。
優しく髪を梳く殿下の指、……私の心を……乱さないで…。
懇願めいた視線を送っても…、殿下の瞳は…私を見つめたまま…。
何を考えてるの…? 問いかけるように傾く私に
ふいに掠めるように頬に触れた唇。
「頬へのキスは嫌か?」
突然の事に…そんな問いかけにも心が騒ぎ息がとまるかと思うほど苦しくなる。
額にこめかみに降ってくるキスが優しすぎるから、涙が溢れていく。
私の涙を親指が拭くようになぞっていき…『泣くな』と小さく囁くから、
ますます涙が止まらない。
「ユリア……」
名前を呼ばれて、たったそれだげて…心が震える。
瞳を開けると、目の前に殿下の瞳
髪を梳いていた手が……、私を支えるように頭の後ろに動くから…
それを気づかせる殿下は……まだ不安気で…気づいた私は……瞳を閉じた。
重ねられた唇、まわされた腕、………トクントクンと高鳴る心臓。
「ちゃんと私を好きではないか……、」
私の瞳を覗き込んでは嬉しそうに笑う。
「私もユリアが好きだ、伝わったか?」
あまりにも嬉しそうに笑うから……小さく頷いた。
「そうか、良かった……。」
ぎゅっと抱きしめるその腕は……、私に好きだと教えてくれる。
「私は…これから頑張らなければ、
もっとユリアに好きになってもらわなければならない。」
そんな事を真剣に言うから、顔が熱くてたまらない…。
「もしかして…今…、好きが増したか?」
サラリとハートを撃ちぬくような言葉を言われ、また顔が熱くなる。
近づく気配に抵抗できないのは…ばれてるみたい……少しだけ悔しい…。
言葉通りかわからないけど…、触れるだけのキスが少しづつ変化していく。
好きが増したと思われたみたい……。
唇を唇で軽く何度も挟むようにキスされ、慣れてない私はうまく息もできない。
荒く呼吸をする私に
「キスは私が初めてか?」と平然と聞くからプイと横を向いたら、
一瞬の間の後、ギューッて抱きしめられて、「そうか、そうか」と何度も言い
至極嬉しそうに微笑む殿下は「幸せだ」と言う。
もう…反則的な破壊力は…恋愛スキルがない私には危険すぎ…。




