№45
「ここを造ってくれたのは…私の祖父だ。とても豪快な人だった…。」
「ここって……、この塔の事?」
私はあれから殿下と二人、またあのとてつもなく高い塔に来ていた。
何かあればここに来ている気がする…。
「私の為にこれを造ってくれた。幼い私が一人で居ても安全な遊び場だと言っては、
笑っていた、この塔が完成するのを高台から私を抱き二人でよく眺めていた。」
「ここには一緒に来てないの?」
「ああ、ここは私しか入れぬ。そのようにしたのも祖父だ。
名目上ここは王族専用となっているが、奔放の祖父が無理強いして造らせた。」
どうして…そんな話しを私に……。
「あの……、殿下しか入れない場所に…私が居てもいいんですか…。」
「ああ、まったく問題ない、私が入る事を認めた者だけが入れる。」
「そうなんですね……。」
「ユリア……、怖いか?」
「高過ぎて怖いです…。結界あると少しはいいですけど…。」
「嫌その事ではない、これからの事……、命の危険に晒される今後。」
「もしかして……私…殺されたりするの……。」
ポロリと出てしまった本音。
自分の言葉に恐怖で震える。
私の部屋のあの強固な作りは…、私を苦しめていた。
あの隙間なく完璧に見える装備が必要な程に……、
部屋の主が危険だったと教えてくれるから……。
魔力を手に入れた私は、北棟の凄さに……打ちのめされていた。
だから……、この男と必要以上に関わりあいたくなんかなかった。
私は日本人で……、裸の財布を片手にコンビニに行ってたような女。
命の危険なんか生まれて一度も経験した事がないから……。
だから…、私に関わらないで………。
「私が先にそいつを殺すから心配ない。」
簡単に言わないでよ……。
「なんなら、今から姫達…全員消しても構わん。
痛みなく一瞬で葬ってやる。」
「冗談はやめて下さい、本当にやりそうで怖いです。」
反論したくて見上げたそこには、いつもの悪魔の笑顔。
「私はいつでも本気だ。簡単な事。」
面白そうに笑っている。この男の事が心底理解不可能になってきた。
王妃様の言葉が本当なら……これも……少し…違うの?
「こう見えても産まれてずっと命を狙われている。
それでもしぶくと生きている。
私も私の周りを利用して生き延びてきた。
楽しい思い出より……怖い思い出の方が多い…。
幼かった私は、怖いぶん優しい言葉に心が傾き…、その度に裏切られてきた。
全ては…己の持つ魔力のせい、成長した私は…脅威だったのであろう…。」
「殿下……。」
この人の……この悪魔のような笑みは……色んな意味があったのかも…。
複雑に絡み合った絶望とか…恐怖とか…嫌悪…。
その度に…この人は…生き延び……未来の国王として笑うしかなかった…。
余裕をかまし続けた結果なんだろうか……。
頑張って…余裕な振り?
この人も最初から大人なわけではない……。
死にかけた大きな傷があるって、そう言えば言っていた……。
「私には有難い事に、父上や母上、そして祖父がいた。
家族が強大な魔力保持者、生き残る術を私に教えてくれた。
祖父は…私に子供としての楽しみも同時に教えたかったようだ。
幼児のくせに笑わぬ私を心配したらしい。」
「笑わない子供?」
「そうだ、祖父にはそれが許せなかったようだ。」
「愛されていたんですね…。おじいさまに……。」
「ハハッ、もう一つ秘密を教える。驚くなよ。」
「秘密?」
殿下が言う秘密とは、驚く真実だった。
先帝の寵姫の為に建てられたという北棟は実は殿下の為だった。
現国王が王妃様と婚姻された後、閉められた後宮に先帝が年寄りの恋だと嘘をつき
建てさせた北棟。あの常識を超えた広さは家族で住まう居住区だったのである。
それまでの王宮は、危険と隣合わせ、あの王妃様の魔力を持っても、
殿下の命を護るのは難しかった。赤子は魔力の存在を隠さないし隠せない。
産まれた皇太子は稀にみる壮大な魔力保持者。他国は必死で彼の暗殺に乗り出した。
間者の数も計り知れない、王妃は一晩中殿下を抱え逃げる事もあったという。
勿論護衛の騎士は何人も居た、しかし日が立つにつれ減っていく護衛の数。
負傷する者達が続出していく中、国の重鎮達も彼を護っていた。
他国がまるで一枚岩のように彼を狙い刺客を休みなく出してくる。
国が安定してない時期、国王が戦場に出て不在の時はサラや宰相、神官長まで、
皇太子と王妃を護り奔走していた。勿論老体達もである。
未来の国王はきっとこの国の希望となると誰もが信じ彼を必死で護っていた。
先帝は自分の奔放さを嘆いた。今まできちんと国政をしてこなかった事を…。
間者に好き放題入りこませた自分の無能さを…。それが大事な孫の命を脅かす。
北棟ができてからは、そこで先帝と彼は過ごす、公務や執務の合間をぬっては、
父と母もそこで過ごす、家族水入らずの時間。
夜も王宮の寝室には寝ず、
北棟の広すぎる強固な結界が張られた寝室にて四人で眠る。
今はだだっ広い空間でも昔は区切りもありそれらしかったと言う。
王宮の寝室には人形が眠り、翌朝には、無残な人形が転がっていたという。
幾度暗殺しても、死なない皇太子に他国は畏怖していくばかり。
そのうち、悪魔だとか、人間ではないと噂が立つほどに、
それを聞いた祖父は、嬉しそうに豪快に笑う。
『デューク、お前は悪魔だそうだ流石は我が孫、無敵だ一つ違うのはお前は天使じゃ』
彼はそんな祖父が大好きだった。
皆の願いとともに今の彼がある。誰にも負けない強い皇太子。
「だから…あそこは…私の数少ない楽しい思い出が詰まっている。
今はもうあの頃のような動きはしていないが、宙に舞う像、わかるか?
あれが音楽とともにくるくると回り動いて、巨大なオルゴールメリーだった。
私を笑わせる為だけに造ったらしい…、呆れるだろ。」
呆れるだろと言う皇太子は嬉しそうに笑っていた。
「北棟は殿下の為だったのね…。」
「でも今はユリアの為にある。お前があそこに入り本当に良かったと思う。」
「私なんかが……申し訳ないです……。」
「どうしてそんな事を言う、喜んでいればよい。」
「でも……あそこは…本来なら……殿下の大切な人が入る場所…。」
「だからお前が入って私は良かったと言っておるではないか。」
「だから、私じゃなくて、殿下の大切な人だって事です。」
「お前であってる。間違ってはない。」
「…………。」
「…………。」
「え…………?」
「なんだ、気づいてなかったのか?」
「えええええーーーー?????」 ちょっと待って、今の何?
「そうだとは思っていたがな。やはり鈍いなお前…。」
「ええええええええーーーー?????」 まじで何を言ってるのかがわからない
「アイラもグリンスもガートルードも知っておる。」
「えええええええええええーーー?????」これって……。
「知らないのはお前だけだ。」
「ええええええええええええええええーーー?????」 告白っ???
「あきらめろ、そして私に堕ちてこい。」
「ぎゃーーーーーーーーーーっっ!!!!!」//////
「逃がしはしない。もう決定事項だ。」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」心臓がぁぁああ。
「ユリア、私と婚姻しろ、良いな、返事は『 はい 』しか受け付けぬ。」
「………。」 もしかして……、結婚???
「返事は、『はい』だ…。」
「……無理……。」 無理無理無理無理
「無理ではない。大丈夫だ。」
「……………。」 簡単に言わないでよぉぉぉお。
「私は、父上や母上、祖父が大切な家族が居たから生き延びて今がある。
私がお前の家族となる、私の為に生き延びて欲しい頼む。
私が家族から全力で護られたように、これからは私がお前を全力で護る。
だから、安心しろ。」
顔に熱が集中していく。きっと真っ赤だ。どうしよ…。
本気なの…? 真顔でそんな事…言わないでよ………。
ドキドキしすぎな心臓が煩い。
やっと言えた…。
それなのに…私は愛想もかけらもない言葉しか伝えられぬとは…、
もっと色々と考えて準備していたはずなのに…、
実際は横暴な言葉しか告げられず…、ユリアにちゃんと通じただろうか…。
こんな私ではないはずなのに、臆病な自分が嫌になる。
断られるのが怖いとは…、このデュークハインヒルもただの男だったというわけだ。
驚いたような顔が、私の心を不安にさせる。
その後に浮かべる冷ややかな表情を予想させるからか……。
ユリア…赤く染まった顔は………私は喜んでいいのか?
こんな時でさえ……それさえも聞けぬ…。
勘違いなら途中で止めてくれ。
私はお前の気持ちが知りたい。
だから私はお前に触れる。
近づく私にピクリと動く、でもやめたりはしない。
視線を外さない私にユリアの瞳が大きくなっていく。
お前の瞳の中の私は、……不安な顔をしていた。
煩い心臓が耳につく。
「ユリア……。」
もう触れそうな距離。
あぁ…、良かった…。
私は………お前が…。
「好きだ。」
閉じられた長い睫が揺れている。
重ねた唇が柔らかいから、どうにかなりそうで…、そのままユリアを抱きしめた。
ガキのような告白しかできなかった。
おまけにガキのようなキスをした。
気を緩めたら、どっかの国を潰しそうなくらいの魔力が噴出しそうだ。
ヤバイ…。
「泣くな…。」
え?……泣いてないし…。
不思議に思い頬に手をやると……。
あ……、確かに泣いてる……。
私……今日は…可笑しい。
色々あり過ぎたからだ。涙腺ゆるくなってるんだきっと…。
ピシッとしわ一つないハンカチが殿下らしい。
優しく涙を拭いていく。
こんな事もできるんだと他人事のように見ていた。
目の前の殿下は、恐ろしいほど優しい顔で笑っていた。
なんか……不吉なフラグがたった気がするのは……私だけ?
でも…目の前の殿下が嫌ではなかった。
乙女な私の心は、目の前のキラッキラにマジでやられそう。
うぁぁぁああ、思い出してきた……。///////
結婚っっ!!!!!
必要以上に密着している自分に今気づいた……。
色々思い出したら、命の危険とかぶっ飛んで恥ずかしくて気絶しそう。
全力で護る………だって…。
好きだ……………て言われた…。
私は……異世界人……。
寄りかかれる人はいない……。
もし……、突然また……一人になったら……。
臆病な私が邪魔をする。




