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願いが叶った女  作者: 花梨
44/56

№43

うぅ…、誰か助けて……。

もう……視線に殺される。


視線に殺傷能力があるなら、今の私は既に死んでるに違いない。

ズタズタに切られて、内臓なんかもバーンッと飛び出し、酷い姿のはず…。

その位ビシバシッと鋭い視線が飛んできている。


今すぐこのドレス脱いでもいいですか?

下着姿の方がよっぽどましだし………。


何処を見ていいのかもわからない…、何もしてないのに罪人の気分…。

とりあえず目立たぬように後ろ向きになろう。

背中はあきらめた、私の背中、耐えてくれぇぇ。

誰かまじで私を助けてーーーーーーっっ。





こんな事をするのは……母上しかいない……。

まったく何を考えているのか………。

さて……、どうする。

姫達の視線がユリアと私を往復している。

そんなに二人を見たいのなら……。




「何故背中を向ける。」


え?…………。…………。

あんた…、私には話しかけないって言わなかった???

なんで、このタイミングで話しかけてくるのよっ。

だから、思いっきり嫌な顔をして見上げた。



『 誰かお願い…、この男を注意指導してください。』と心の中で懇願した。



見上げたそこには、いつもの無表情な顔はなく、珍しく笑う殿下がいた。



あぅぅぅ、笑ってるし……。どうしよう……、笑ってるよ……。

私には笑う余裕なんかまったくないのに……。

そんな時、パンパンと手を叩く音が室内に響く。



「はい、皆様お茶の準備ができましたのでお席について下さい。」



アデルの声に救われた。お前ナイスタイミングだよ。

と…思ったのも一瞬だけ、私はまた奈落の底に落とされた。


私の手をとり歩き出したこの空気を読めない馬鹿男。

小学校から行きなおせと言いたい。


いっそ思いっきり振りほどき不敬罪で牢屋行きでもいい、

でも…そうなるとお父様やお兄様、ライナスに迷惑がかかる…。

小心者の自分が嫌になる…。


「久しぶりだな、こうやって歩くのも。」


え? 何言ってるの、一度もないし。

手を繋いで歩くとか、一度もしたことないしぃぃぃーーっ。

抗議の視線を向けたら………。


キラッキラな笑顔で私を見下ろす馬鹿男と視線が合った。

しかし…、私はこの顔には見覚えがある…、意地悪全開悪魔の笑顔だよ…。

背筋に悪寒が走る。危険だと知らせる。


「殿下と手を繋いで歩いた事など一度もありません。」声が震える。


「忘れたのか? 私は覚えているぞ、相変わらず冷たいな…。」


そう言ってベタ甘顔で私の顔を覗き込んでくる。

…………、……………。

嘘つき……、なんでこんな時に嘘をつくの……、絞め殺してやりたい。



『誰かお願い……、この男を止めてください。』と心の中で土下座した。



心臓がもたない…、いつ止まってもおかしくない状況。

命の危険にさらされたお茶会、それも鬼畜に命を奪われそうだし…。

予想外過ぎる…、姫様達に殺されるより前に殿下に殺されそうだし…。



向かい合わせのテーブル、何故か目の前を陣取るのはお姉様方、

アイラ様とグリンス様、私の隣にはガートルード様。

いつもなら、殿下の正面と両隣は姫様達が座るのに…。

そして、一番不可解なのがアデル、何故殿下の横に座っている???


お姉様方は顔色一つ変えずにすましていつもの微笑み。

んーー、これもある意味不気味だし……。

そして一番不気味なのは、隣に座るこの男。


まるでサラが乗り移ったみたい……。

甲斐甲斐しく世話を焼かれている。

どんだけ意地が悪い男なんだろ……。

その目は、私が困るのを面白がっている。


生き地獄ってこんな時の事をいうって初めて体験したよ…。

誰かこの生き地獄から私を救ってよぉぉおお。




ユリアの八の字に困ったように下がる眉がなんとも言えず可愛い。

その抗議に満ちた目が私を惑わす。

ユリアはその目が違う意味で危険だと気づいてないようだ。

男というものは、そんな視線に弱いというのに…、バカな子だ。

自ら危ない事をしていようとは思ってもいないはず……。

赤らむ頬に眼鏡の奥にある惑わすような瞳。

今日はなんと楽しいのだろう。母上に礼を言いたくなった。


クッ、楽しすぎるではないかっ。

そして私は、フォークに突き刺したケーキをユリアの口元に運ぶ。


「食べろ、美味いぞ。」


『 食べませんか、美味しいですよ 』、なんて言ったりはしない。


この場で私に逆らえないユリアは嫌そうに口を少しだけ開ける。

そして、食べ切れなかったケーキのクリームが口元に残る。

計算通りの光景に笑いが漏れそうになる。

私は当たり前のようにそのクリームを指で拭うとそのまま自分の口に運んだ。


驚いたような瞳、思いっきり大きく見開いている。

その後、もの凄く嫌そうに眉間に皺を寄せて目を鋭くさせたユリア。

クーーーーッ、心臓に悪い、可愛いを通り越して、言葉が見つからない。



女というものがこんなに可愛いとは、ユリアに出逢って発見したが、

この小さな目の前の可愛い子、どうしてくれよう。



それにしても、嫌な視線を送る姫達が煩わしい。

お揃いを着ている時点で、私とユリアが特別な関係だと勘違いするはず、

王族と同じ生地など、有力貴族でも許可なく使用する事は不可能。

この国では、それが当たり前。いくら金を積んでも手にする事などできない。

それをユリアが着ている、となれば、私が贈ったとしか思わない。

ユリアに対する風当たりが悪くなるのは避けられない、



私は隣に座るアデルに耳打ちをする。



「皆様、これから移動致しますので私についてきてください。」



何処からともなく出てきた三人のアデル、その後ろに着いて行く。

………、相変わらず私の手を取り歩く殿下。

人が近くに居ないのでこれ幸いと抗議してみた。

ていうか…、お姉様方が微妙な距離で後ろに居て、姫様達をこれなくしている。

有難いです。本当に嬉しいです。



「私に話しかけないって言ったのは何だったんですか?」


「ん? そう言うな、今は状況が違う。」


「私……、何も知らなかったんです。

ただ……今日は…これを着るように言われて……。」



誰から贈られたものだとは言わないのか?

その贈り主を非難しないのか?



「王族と同じ生地など、宰相でも許可なく手に入れる事はできない。

それに、宰相一家は、間違っても王族と同じ生地など手に入れようと

考えたりはしない。それがどういう事かわかるか?」


…………、…………、そんな……、嫌な事しか頭に浮かばない…。


「もしかして……、殿下からだと……。」


「そうだ、それしかない。」


「そんな……、私……、これからどうなるのですか……。」


「だから、私はお前を護ろうとわざと皆に見せ付けている。

ユリアに手出しをしたら、私の耳に必ず入ると教えているのだ。」


………言葉にならない恐怖が沸いてきた。

そう考えると殿下の行動は……、否定できない……。

ごくりと喉がなる。


「そう怖がるな…、私がついておる。」


私の頭を優しく撫でる殿下の大きな手が不安を少しだけ消してくれた。


「だから、ユリアも覚悟を決めて、自分の身を守る為に私を利用しろ。」



私は殿下の顔を見上げた。

いつものふてぶてしい顔はなく、心配顔で見下ろす不安な目に自分の危機を察した。

この人を…信じていいの……、わからない……。どうすればいいのか…。

必死で考えてみても……、答えは出ているのが悔しい…。

この羞恥プレイは納得いかないけど…、

もう……殿下を頼るのが一番安全だと私も気づいていた……。



「迷惑ばかりかけてすみません…、これから…殿下を利用させて頂きます。」


「ああ、私を遠慮なく利用しろ、私も楽しみだ。」


咄嗟に見上げた顔は、………………。……………。

判断ミスだったかも………、あの悪魔のような笑顔の殿下が私を見ていた。




アーメン






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