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願いが叶った女  作者: 花梨
39/56

№38

私って天才かもしれませんわ、

この世界にやってきて始めた刺繍とやらに夢中なの、

この出来栄え、自分で言うのもなんですけど、上手過ぎますわ。


あぁ…、私の至福の時間…、午後の日差しのまどろんだ一時…、

美味しい紅茶と焼き菓子、そしてこの刺繍。

幸せをしみじみ感じますわ……。







首根っこを捉まれた女は、恐怖のあまり震えていた。

体感温度が下がっていくように感じ背中を冷たいものが走る。

身長差のせいか、浮きそうな足を必死に床へと繋ぎ止め、

徐々に絞まる首に手をやり顔を苦しそうに歪めていた。


「ここで、何をしている。」


頭上から低い声がかかる。

恐怖で身が震えた。


「聞こえぬのか、ここで何をしている。」


喉に手を当て必死で声を出す女。


「……っ……、ただ…、廊下を…歩いて…いた…だけです…。」


顔を上に上げて表情を見るのも怖い女は視線を下げ息を大きく吐き出した。


「もう一度聞く、ここで何をしている。」


もう…ダメだ…、諦めるしかないのか、女は悔しそうに唇を噛んだ。



「あの……、殿下こそ…ここで何をなさっているのかしら?」


まったく人の至福の時間を邪魔してくれちやって…。むかつく…。


「ん? グリンス、すまないが少しの時間場所を貸してくれないか?」


必要以上に甘い声で問われたグリンスは驚いた。

振り向いた皇太子の顔は声に負けないくらいに優しい笑顔だった。

この顔にピンときたグリンスは、成り行き上突然舞台に立たされた状態、

でももう引きずり出されてしまっては引き返せないと覚悟を決めた。


「まあ、こんな昼間っから侍女を部屋に連れ込むなんてっ、殿下……、

しかも…私の部屋だなんて……、あんまりです…。」


自分でやっていて、たまらなく恥ずかしいのに、

中途半端にしたらもっと恥ずかしい気がしてしまい、

大袈裟に哀しそうなふりをしてしまいましたわ…。


「妬いてるのか? 可愛いやつだな…。」


くぅぅぅー、このタラシが人前で平然と何を言っているのかと言いたいけど、

グッとここは、我慢をするのが大人としてのたしなみかしらね……。


「当たり前です。私以外の女性に触れないで下さい。」


ふふ…、我ながら臭いですわね。

ほーらお返しですわよ、すっごく恥ずかしいでしょ…。


「フッ、待っておれ、用事が済んだら可愛がってやる。

それとも…、待てないのか?」


なっっ、この男はなんて事を言うんのっ。誤解されちゃいますでしょっ。


「殿下…恥ずかしいです…。その…侍女の前で……。」


あんたそこに侍女がいるの忘れているでしょ…。

それとも……、わざと……ですわね…。きっとそうですわね。

この男はそういう男でしたわ……、私とした事が忘れるとこでしたわ…。


侍女が居る事などわかりきってる彼だが、

大袈裟に思い出したように視線を侍女へと向けた。


「おい、私の質問に答えてないのはわかっているな。」


さっきまでとは違う、地を這うような低い声に女は許しを乞うように

震える指を必死に動かし皇太子の袖を掴んだ。

腕を離された途端、喉の奥から溜まった息が出てきて咳き込む女。


皇太子はくるりと身体を翻し、グリンスの元へと向かう。

咳き込む女の声を背に聞きながら、グリンスの腰を両腕で抱きしめ顔を覗き込み、

ニヤリッと笑う、その後グリンスの頭に自分の顔を寄せた。

背中に女の視線があるのを知ってた上で見せ付けるように、

密着したその状態で皇太子は女へと視線を向けた。


「お前はここで何をしている。」


もう逃げられないと思った女は…口を開いた。


「姫を……お世話する為……。」


「まだそんな事を言うつもりか?さっさと話してくれないと、私も困る、

グリンスが待ちきれないと言いだす、なぁ、グリンス?」


クソォォォォォ、この男調子に乗りやがってっ。

人を肉欲な女にするなっ。

あら失礼、私とした事がついカッとなってしまいましたわ


「私はそんな事思っていませんわ。」


プイと横を向いてやった。あまりにもむかついたので…


皇太子はニヤリッと笑うと、グリンスの顎に自身の指を一本添えた。

その指をゆっくりグリンスの胸元までなぞりながら下ろしていく、

楽しそうにそれも目の前の侍女を見ながら…。


ヒッ……、ここで…負けるわけにはいきませんわ……。

私もいつもの事と…殿下と同じように楽しそうに笑って見せた…。

この男…、人前だと言うのに、ホントッ酷い奴…。最低ね…。


「ん?そうか?私はお前の心の中は分からないが……、

そのドレスの中身は…よく知ってる……。クッ」



鬼だ…、完璧に遊ばれている。悔しいぃぃぃっ。

私は一人プリプリとしていた時、鋭い視線に気づいてしまった。

あぁ…、この女性は殿下が好きなんだと…。

殿下もその事に気づいている。

全てを理解した私は、鬼となった。


「殿下の…いじわる…。もう……わかってらっしゃるんでしょ…。」


鳥肌が立ちそうだけど、頑張る事にしたわ…。

わざわざ侍女に見せ付けるって事は…何か理由があるはず……。

耳元で囁くように言う言葉も静かな室内には響いてしまう。

聞こえないと…意味がないですけでねっ。


「いじわるか? それが望みか?」


うわぁぁ……、ほら見てよ、もう…泣きそうなんですけどあの子。

そんな事を思いながら、私は、殿下の胸に擦り寄った。

勿論、目の前の侍女を見つめながらね…。


「嫌です…、優しくしてください…。」


私は殿下の顔に手をそえ、自分に向かせ熱く見つめた。

そんな私達、鬼二人はしばらく見詰め合っていた。言葉もなく熱く。

いじわるな鬼二人を目の前にしている、この侍女に、

私は少し同情した。


鬼はさらに追い討ちをかけてくる。

私の額に自分の額を当てて、触れそうな距離で囁く。


「わかった…。待っていろ。」


この鬼は容赦がない…。わかっていても、心臓が煩い。

目の前の侍女はもう、違う意味でやられてるし…。


あなた…、この男には勝てないわよ、戦う前に負けるのよ…。

勝負を挑む相手を間違えたらダメでしょと…、言いたいわ…。


それと浮かんできたのは妹のように可愛いあの子。

殿下と対等に戦う事など…あの子にはできないなと、

可愛そうになってしまいましたわ……。

まあ…多少は見てみたい気もしますどね……。


今の殿下で迫られたら…、この私でさえ、崖っぷち状態。

物凄く雰囲気が悪い中、私は一人まるで第三者のように冷静に考えていた。





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