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願いが叶った女  作者: 花梨
38/56

№37

緩く描かれたカーブの裾を摘んで王妃は立ち上がった。


「陛下、とりあえず今後の事はそれで良いと言う事ですわね。」


確認の為に今一度問いただす王妃。

それに対して頷く国王、にっこりと笑みを浮かべた王妃はアデルへと向き、

明日、また来ると告げた。

そのままユリアの寝ていた傍まで行くと、彼女を軽々と抱えその場から消えた。




「サラ、たぶん朝まで起きないと思うわ…。このまま起こさず寝かせてあげて…」


「そうですか…、わかりました。」


「明日の朝、私が迎えに来ます。サラ…心配しないで…、ユリアは大丈夫よ。」


「はい、王妃様が仰るなら間違いないでしょう。」


「既にアデルから聞いたのね。怖い者知らずは相変わらずかしら。」


肯定も否定もしない笑顔のサラに


「だから…アデルはあなたを信頼しているのよ。勿論私もよ。」


それだけ言うとにこりと笑いその場から消えた王妃、

サラはユリアのベッド脇の椅子に座り眠る主の顔を見ていた。





どこまでも穏やかな空気は新緑の季節のせいなのか、

開け放たれた窓からは少しだけ風が入る。

窓辺に飾られた花々が揺れ、微かな香りが漂う。

作られてないその動きが一時の安心に繋がると思うのは、

今はまだ何の変化もないおかげか…。

目の前の姫を見て少しだけホッとしている自分に気づいた。




後宮の一室、あてがわれた部屋は狭くはなく、居心地もいい、

ある意味豪華で歓迎されていると勘違いしてしまいそうな雰囲気だった。

贅沢な日々は変わらず、何不自由なく暮らしている。



姫は綺麗に着飾り、傍の侍女に可愛く問う。



「ねー…、皇太子殿下は何時に来るの?」


「もう何回も聞かないでよ、午後とだけ聞いてるわ。」


姫は侍女から少しきつい口調で返答されて肩をすぼめた。

大きなつり目がちな目を見開き、それでも文句を言う事はなく、

テーブルのカップを手に取り口もつけづにまた置くとさっきと同じ質問を

侍女にしては、また冷たい視線を向けられていた。


「だって……、早く会いたいんだもん……。」


呆れたように侍女はチラッと視線を姫へと送ると、

返事もせずに読んでる書物に視線を落とした。



今日は皇太子が始めて他国の姫の部屋を訪問する。

四人全員を順番に回ると言われ、各国の姫達は着飾る事に余念がない。

勿論この西の棟に居る姫も朝からたっぷりと時間をかけ準備をし、

今か今かと皇太子の訪問を心待ちしていた。



そろそろかと立ち上がると、姫の前髪に優しく触れ、

その指を頬へと滑らせる。安心させるように優しく触れていく。

優しく微笑み声もかけずにバルコニーからそのまま降りられる庭へと進めば、

振り返る事なくあてもなく歩き出した。




待ち人は約束どおりやってきた。

小さな手土産を薄く笑って手渡すと、即されるまま入ってくる。

チラッと部屋を見回した後、問われたのは、



「ここの生活に少しは慣れましたか?」



意外と普通の言葉であった。




頬を染め上目遣いのそのしぐさにも眉ひとつ動かさない皇太子に、

後ろに控えた侍女の方が眉を動かしそうになる。

見目麗しい主の想い人は、完璧なまでの姿で現れ、絵画のように動きがない。

それでも会話は成り立っているので喜ばしい事だと思い込むしかなかった。

主の喜びは確かに伝わってくる。

その声、その表情、どれをとっても幸せだと分かるほどだった。


相手も笑ってはいる。

普通の会話もこの耳で聞いた。


でもこれが噂の冷徹皇太子。そう簡単に心内を表情に出すはずがないと、

自分に言い聞かせていく。まだ初回、初めての訪問。

何事もなくこの時間が過ぎる事だけを願っていた。




予定の時間よりも早く切り上げた皇太子は次の姫が待つ棟へと進む。

時折すれ違う者達が道を開け、彼が通り過ぎるのを待っていた。

それはいつもの事、本人も気にもとめてはいない。

廊下を曲がり次の棟に入った瞬間、彼はその場から消えていた。





首根っこを捉まれた女は、頭上から来る冷えた視線に震えた。




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