№33
お父様に続き椅子から立ち上がった私に聞こえてきたのは、
聞き覚えのある声だった。
「ユリア、帰るぞ。」
偉そうに、挨拶もなしに、なんて失礼な男なんだろう…。
あんたに迎えを頼んだ覚えはない、と言いたかったけど、
お父様は平気そうだけど、お兄様が困りそうなんでやめる事にした…。
仕方なく振り向いた私は一瞬にして視界を奪われ、
驚きで声も出ない、何があったんだと思った。
ジタバタしていたら、鬼畜に騒ぐなと言われた。
お前が羽交い絞めにしているんだろっと言いたいけど声が出ない。
「宰相、ユリアの眼鏡は何処にある。」
あっ、眼鏡…泣いたから外していたんだ…。
「デューク、眼鏡なくてもいいだろ…。」
「俺の叔母上になにしてる、デューク離せっ。」
ん?……誰か居る…。二人…?
叔母上……、お兄様の子供!!……。
もしかして…鬼畜の傍によくいる二人かも…。
雰囲気的にあの気難しい顔の方が…お兄様の息子かな…。
どうやら私は鬼畜のマントかなんかの中に居るらしい…。
眼鏡なくてもいいだろ…、ここはお父様の家なんだから…、
この密着はありえない…、一応父親と母親の前なのに……。
娘の立場としては……耐えられない……。
「オードノギュー、ユリアが世話になったな、礼を言う。」
相変わらず言葉を知らない男だ、偉そうに…。
まったく、世話になった相手に言う言葉じゃないと思う…。
なんて礼儀知らずな奴なんだろ…。ボソッ
「「!!!!!」」
「ふん、私の娘だ当たり前の事をしたまでっ。」
お父様、良く言った。偉いっ。ボソッ
「「!!!!!」」
「父上言葉を選んでください。すみません殿下…。」
お兄様が謝る事ないのに…、悪いのは鬼畜だっ。ボソッ
「「!!!!!」」
「お前…鬼畜って呼ばれてんの?」
「そのようだな。」
「すげーー…。俺たち以外初めて聞いたお前を鬼畜呼ばわりするの…。」
え?………、…………………。タラリ…。
私はマントの中から必死で手だけ出し、近くの誰かを掴んだ。
「どうかした?ユリア様。」
この声は……、違う…。悪かったけど手のひらで違うと表現させてもらった。
そしてまた手招きをしたら誰かがそばにやってきた、通じたっ。
「どうしたの?叔母上。」
この声も違うっ。手のひらをヒラヒラとして違うと表現した。
「ユリア、どうした?」
!!!お兄様、私はガシッと服を掴んだ。
そして…、ありえないくらいの小声で聞いてみた…。
「私…何か言いましたか?」
「あっ…、イヤ…何も…私には聞こえなかったよ…、はは…。」
途端にガタッと物音がしてなんとなくわかった…。
やはり…、お兄様は良い人……。
嘘が下手。
………非常にマズイ事になったかも……。
刺客に殺される前に死刑になりそうな気配……。
………、………。これで本当に牢屋行きかも……。
もういいや……、ラールさんにも会えたし…。
今日は幸せだったから、今日の思い出を胸に牢屋に行こう。
私は潔く両手を差し出した。マントの中からだけど…。
「あの……、私…不敬罪で…牢屋行きですよね……。」
「うはっ、デューク聞いた?牢屋だって、牢屋っっ。可愛すぎっ。
その両手、もしかして捕まえて下さいって事? ウギャー、まじ可愛すぎっ。」
「オールデン黙れ。」
「何一人占めしてんの、デュークずるいっ。」
「黙れと言ったのが聞こえなかったのか、オールデン。」
オールデンを軽く睨む皇太子。
「お前…なんでユリア様隠してんの?早く出してやれよ。」
「うるさいっ。お前には関係ない事だ。」
「ライナス聞いた?今の酷くね?」
「そんな事はどうでもいい、それよりも叔母上が戸惑っている、
デュークいい加減そこから出してやれ。」
「ユリア、はい眼鏡、三人とも仲良くしなきゃ駄目でしょ。」
「ありがとうございます。」
私はラールさんから眼鏡を受け取った。
出ていいのかな…。なんか…出にくい…。
「あ、ラナ、叔母上はちょっと変よ、ユリアはあなたより年下なんだからね。
ユリア紹介するわね、私の長男のライナス、ラナでいいわよ。」
私はこそこそと鬼畜のマントから出てきた。
思った通り、この人がラールさんの息子のラナ…?。
「突然叔母さんになったユリアです。ラナ…さん。宜しくお願いします。」
「ふふふ、ユリア、呼び捨てでいいのよ、そしてこっちがオーディーよ。」
「オーディーって呼んでね。あっ、ディーでもいいよ。」
あの二人を連れてきた事を悔やんでも遅い、
地の果てまで飛ばしてやろうかと思うのを止められない。
にこにこ笑ってるオーディーさん…、めっちゃ期待した目が怖い……。
私がどうしていいのか困っていたら、お兄様が怖い事を言った。
「はいはい、その呼び方却下ね、ライナスにオールデン、
省略なしで呼びなさい、ユリアは皇太子妃候補、なれなれしく愛称で
呼んでるのを誰かに聞かれたら、大変な事になってしまう。
二人は殿下の傍付き、変に勘ぐられても困る、
細かい事だけど大事な事だからね。」
まったくその通りだと思った…、一瞬の隙が命取りになる…。
途端に気分が沈んでいく…。今日一日楽しかったから忘れるところだった。
私は常に危険と隣り合わせだったという事を…。
急に現実と対面したからなのか、皆の顔も暗くなった。
「オードノギュー、そろそろ失礼する。ユリア帰るぞ。」
鬼畜が私に帰ると言うから頷いた。
「今日はお世話になりました、とっても楽しかったです。」
私の言葉にお父様もお母様も皆がまたおいでと抱きしめてくれた。
ラールさんが後宮に遊びに来るって言ってくれた。
私は嬉しくて泣きそうになった。
三つ子が離れたくないと駄々をこねる。なんて可愛いんだろ…。
新しい家族……。必要ないと思っていたけど…間違いだった。
「殿下、ユリアを頼みます。」
「わかっている。」
お兄様と鬼畜の会話の後に私は鬼畜の小脇に抱えられ、
その途端、皆が私の前から消えた。
「うっ…、なんで…また…ここなのよっ。」
移動してきた場所は、あの塔のてっぺんの丸いとこだった。
「ん?夜ここから見る景色は最高だぞ、ほら、見てみろ。」
鬼畜に言われて見渡した景色は本当に綺麗だった。
………、怖い…足がすくむ…。
急に風が止んだ。鬼畜の顔を見て首を傾げたら結界を張ったと言われた。
よし、これでひとまずは安心だ。鬼畜が座ったので私も座った。
正直、こんな怖いとこに長居はしたくないので座りたくなかったけど…、
立ってると下の方まで見えるのが怖いので座る事にした。
「楽しかったか?」
私は頷いた。
「良かったな。」
鬼畜を見ずにまた頷いた。
自分で声も出さず頷くだけの返事をしたくせに、
沈黙が息苦しい…、何か…話さないと……。
「ラールさんに会えて良かった…。嬉しかった…。」
「そうか…。良かったな。」
「殿下は知ってたの?」
「いや、知らなかった、今日知った、
子供の頃からあの家にはよく行くが…、聞かされてはいなかった…。
ライナスも知らなかったようだ…。あいつは…かなり驚いていたな…。」
「そうなんだ…。」
「ラールは信頼できる。ユリアの気持ちも一番理解してくれるはず、
今後何かあったら相談すると良い。」
「うん、そうする…。」
「明日からセイレンだな…。」
「うん。」
「自分の身は自分で護りたいと言っているそうだな…。」
「うん…、そうなりたい…、そうならないといけない気がするの……。」
「何故だ?」
「何か起こってしまってからでは…遅いの…。私のせいで誰かが犠牲に…。
そんな事させられない、 させたくないのっ、絶対嫌…。」
「自ら戦うと言う事に対しては…怖くはないのか?」
「怖いよ…、物凄く不安…、でも…勘違いしないで、
私が怖いのは…私の為に誰かが犠牲になること……。
それよりは…、戦える自分になりたい…。」
「ならば、死ぬ気で頑張れ。」
「うん。」
「母上のように自由に何処へでも平気で行けるようになれ。」
「王妃様は…規格外だよね…。」
「はは、それは認める。でもお前も母上のようになれ。強く賢く優しくだ。」
「誰だってなれるものならなりたいよ…。」
「だから死ぬ気で頑張れと言っている。セイレンでの時間無駄にするつもりか。」
「っな、無駄になんかしないっ。」
「それでよい、諦めた風な口ぶりだったからな、
お前に力を貸すもの達をがっかりさせるな、一つだけ良い事を教えておく、
お前の指南役の者達は、この私にもついた事がないような魔力保持者だ。
あの者達の技、技術を全部吸収してこい。一つも取りこぼさずにだ。」
「っ…」無意識に息を呑んでしまった。
私はびっくりしたと同時に少し不安になった。
頭ではわかってる…、やらなければいけないって事も…。
「不安か? 」
顔に出ていたのかと驚いた。でも…そうだとしても…
ここで頷くなんてできない…、私は首を横に振った。
「なら…覚悟しておくことだ。一人で立てれるようになれ。
どんな場所にも、誰が居ようが、隠れずに堂々と立てるようにだ。」
鬼畜が言う事は厳しいけど…、当たっている。
今の私は一人で行動する事もできない……、情けない。
言い返せないのが悔しいっ…。
「死ぬ気で頑張る。」
鬼畜がそれでいいと言うように頷く。
私は絶対一人で立ってやると決めた。
ユリアを甘やかすのは容易い、
私がいないと生きていけないと思わせる術は知っている。
そうする事も今の私には簡単な事…。
いっそ…、そうしてしまおうかと思った事もある…。
私に全てを差し出させ、安心と言う名の檻を与え、その変わりに自由を奪う。
しかし、これはそれを望んではいない。
それなら…、自由に動ける力をつけさせてあげるだけだ。
でも…それは全て…お前次第…。
無理だとわかったら……、遠慮なく甘やかすのみ…。
心配で堪らないくせに、一人で立たせようとしている…。
見守ると言う事がこんなに辛いとは…、
私は……ユリアに出逢って…また一つ知る事ができた。
こんばんは、いつもありがとうございます。
あの…週末の更新はお休みします。
自サイトに篭る予定と友人と麻雀をする予定なのです。
麻雀…、久しぶりだぬ…。負けるな…きっと…。
天鳳に練習に行こうかな…。
では、また来週です☆彡




