№32
私は朝からいつもより綺麗なドレスを着せられていた。
今日の練習は休みだと言われてがっくりしていたけど、
その変わり、宰相さんが私に話しがあると言われた。
宰相さんは私のお兄さんになった人…。
取っ付きにくい人だと思っていたけど、お父様を見たら、
顔は怖いけどとっても優しいので似ていたらいいなと思った。
「ユリア様、お久しぶりです。元気そうでなによりです。」
いきなりの超他人的な挨拶……それはないだろ……。
「あの…、お兄様になられましたので、様はやめてください。」
一応抗議してみた。やんわりと…。
「あはは、そうですね。それでは改めて、
ユリア、我がオードノギュー家へようこそ。私はとっても嬉しい。」
やればできるじゃない…、意外とフレンドリーなのに驚きっ…。
「ありがとうございます。私も嬉しいです。家族になれて…。」
私はそれから、お兄様に明日からの練習の事や場所の事、
そして、私の魔力について説明をうけた。
正直言って、信じられない…、その事もお兄様に伝えた。
昨日の事は自分でもわからなかった…。何が起きたのかさっぱり…。
魔力を集中しようと頑張ったのは本当だけど…。
自分が魔力を出したのかと聞かれたら…わからない…。
まったく自覚なし……。
「ユリア、今日は君を我が家へ招待しようと思っている。
陛下の許しも出たから安心していいよ。
それにセイレンみたいに離れてないけど、我が家へ一緒に魔力を使い、
移動してみよう、明日の予行練習にね。
私の家族は皆、ユリアが来るのを楽しみに待っている。」
私は突然の事にびっくりした。そしてとっても嬉しかった。
いつのまにか、サラがお土産を用意してくれていた。ありがたや~~
王城の料理長特性のパンケーキ。
これは中々手には入らない一品らしくて、これが一番喜ばれると言われた。
うん、これは本当に美味しい。
瞬間移動は皇太子の拉致で経験済みだけど…、なんとなく言いそびれた…。
しっかり掴まってと言われ、お兄様の腕にしがみついた。
私はビュンって本当に一瞬で、気づいたら大きなお屋敷の玄関に立っていた。
玄関にはお父様とはじめて会うお母様、
それと…びっくりしたけど三つ子の少年?青年?
こっちの世界では、この大きさだと少年なのかな、私を待っていた。
可愛い、大きいけど、とにかく三つ子が可愛い。
玄関で熱烈な歓迎を受けてしまった。家族ていいな…。
何故かお父様とお母様、三つ子とはその場で別れて、
私はお兄様に連れられてある部屋の前まで来ていた。
「ユリア、私の妻が待っている。女同士、ゆっくり話しておいで…。」
「え? お兄様は一緒にこないのですか?」
「妻が、どうしてもユリアと二人で話しをしたいと言ってね。」
「はい、わかりました…。なんか緊張してきた…。」
「大丈夫、妻はユリアの味方だよ、それに一番の理解者だよ、安心して…。」
私はいきなりの事でなんだろうと不安になったけど、お兄さんを信じて、
ゆっくりと扉を開けて部屋の中へ入って行った。
部屋の中に入った私は、驚いて声も出なかった。
そんな私に近づいてきたお兄さんの奥さん…。
私より背が低くて、私のような肌の色。
物凄く見慣れた背格好に顔……。これって……、まさか…。
心臓がバクバク鳴りだした。息をするのも忘れそうだった。
「はじめまして、須藤ゆりあさん。逢えてとっても嬉しいわ。
カメハメハー、昨日したんだってね。笑っちゃった。
やっぱり掛け声はカメハメハーよね。私はゴムゴムのーーーっ、
とかも使ったわ。あはは、驚いたでしょ、私は正真正銘の日本人よ。」
私は、いつのまにか声を出して泣いていた。
子供のように泣いていた。嬉しくて嬉しくて本当に嬉しくて泣いた。
この世界に来て、サラ達には申し訳ないけど…今日が一番嬉しい。
「ユリア…、辛かったわね…。心細かったでしょ…。
もっと早くに私が決断してれば良かったわ…。ごめんなさい…。
本当は…すぐにでも会いに行って、安心させてあげたかった…、
でも……あなたは……、皇太子妃候補…、
これからのあなたの人生を邪魔してしまいそうで…
意気地なしでごめんね…。
家族になれて良かった…、ずっとこれからは一緒よ…。」
私とお兄さんの奥さんは、抱き合って二人で泣いた。
お互い、『嬉しい』、『良かった』と何回言ったかわからない。
落ち着いて顔を見合わせたら、二人とも目が腫れて酷かった。
「私がこの世界に来たのは…、今から27年前よ…。
私のあっちでの生まれた年は、平成元年…。
平成21年にこっちの世界にやってきたわ…。丁度二十歳…。
名前は、鈴木薇薇瑠……。」
「え?嘘……、……まって……私と6歳しか……かわんない…?。
てか、ららる? ららる? 本名なんですか?」
「え?本当? 今年は何年なの?
ちょっと待って、名前後で言うから、まず年齢が気になっちゃう。」
「うん、平成25年…。……………、
………………、…………。
ええーー、って事は…出てきた時間?年?…が違う…?」
「待って……なんか…衝撃過ぎて……、混乱してきた……、
…………、…………6歳しか違わないのね……。
……私って随分昔に出てきたみたい…。」
「……なんか…びっくりです。」
私達は笑いあった。お互い実際はあんまり年齢かわらないのに…、
今の見た目はお母さんと娘だったから…。
でもこのららるさん、とっても綺麗、同じ日本人として…、
なんか…肩身が狭い……。
「あっ、そうそう、名前は鈴木ららるよ、呼びにくいでしょ…。
これで随分寂しい思いをしたわ…、友達が呼びにくいってだけでね、
鈴木って呼ぶのよ…。せっかく最先端な名前なのに…鈴木よ、鈴木…。
懐かしいな~~~…、鈴木ららる……久し振りに口にした自分の名前……。」
最先端………。
「確かに…、ららる…、呼びにくいです。」
「そうなの、あっ、ここではラールっていうのよ、可愛いでしょ。」
「うん、ラール、呼びやすいし可愛いです。」
「私ね…、この世界に来た時、ティナと一番最初に出会ったの…。
あっ、ティナって王妃の事よ。当時は後宮に居て王妃じゃなかった…、
ティナもユリアと同じよ、皇太子妃候補だったわ、
でもユリアと違うのは、ティナは一生後宮から出られない側室だったからね。
ティナが…私を全力で護ってくれたわ…。誰にもばれないように…。
ふふ、懐かしい……。そして…サラもよ…。」
「え?サラも…?」
「今はユリアを護ってくれているのでしょ?
当時、サラはティナの侍女だったの。楽しかったわ…、でもね、
物凄く綱渡り的な生活よ…、私の存在は秘密だっから…、二人は必死よ。
ほら、あの二人とてつもなく凄いからね、特にティナ、今もだけど、
部屋に結界勝手に張りまくって、随分女官長に怒られていたわ…。
それにね、皇太子に逢って気に入られたら困るって、
ティナが、髪はボサボサにわざとして、ドレスは陰気なねずみ色、
顔にそばかすを筆で書くのよ、もう可笑しくって…、
ティナとサラが居たから…、気が変になりそうな時でも大丈夫だったの…、
なんで自分だけがこんな辛い想いをしなくちゃならないのって…
八つ当たりみたいに二人に酷い事も言ったわ……。
二人のせいじゃないのに…、それもわかっているのに…。」
ラールさんは懐かしそうにその当時の話しをしてくれた。
初めてここに来た時は、何がなんだかわからずに、
頭がおかしくなりそうだったって…。私と同じ……。
「あれは…、家に帰る途中、気づいたらまったく知らない場所に居たの…。
一番驚いたのは、大きな鳥…。バッサバッサ羽根をならして飛んでいたわ、
食べられるかと思った…。怖くて怖くて、何処をどう歩いたかもわからない…、
歩き疲れて人目につかない場所に隠れていたの…。
それが…後宮の庭だったみたい…。
後宮の庭の隅で震えていたら、いきなりティナがやってきて、
『ここは寒いでしょ、外に居ては風邪を引くわ』とかなんとか言って、
あの一見細い腕に、ガシッと抱えられてヒュンって気づいたら部屋の中よ…。
そして同じような大きなサラに私をヒョイって渡して、
湯浴みと着替えお願いって、偉そうに言うから、ますます驚いて…。
私ね…、最初はティナが怖くて…、サラもよ…。
物凄く大きくて、それに綺麗で、魔法使いみたいに何でもできちゃうし…、
唯一私を助けてくれる二人なのに…怖かった……。」
その後もラールさんは私に色々と話しをしてくれた。
ずーと口も聞かず、無視続けて、口はきかないのに、
毎日泣き喚いて二人を困らせたって…。
それでも王妃様とサラはそんなラールさんに対して怒ったりせずに、
困ったように笑っていたって……。
「ユリア? やだー、また泣いてるの?」
「そう言うラールさんも泣いてますよ…。」
「あはは…、私達泣きすぎね…。でも…ティナに一番に会えて良かった。」
私はその言葉に頷いた。
王妃様、物凄く変わっているけど、とっても優しいのは私にもわかる。
「何か私に聞きたい事はない?」
ラールさんの言葉に浮かんできたのは…言っていいのか悩んだ…。
「……わかってるわ…、元の世界に戻れるかって事でしょ…。」
びっくりしてラールさんの顔を見たけど、哀しそうに笑っていたので…、
聞かなくてもなんとなくこたえはわかった……。
「私がいまだにここに居るのがこたえかな…。
でもね…、今の私は戻れても…戻らないわ……、
ふふ…、だって…、窓の外に居るでしょ…。可愛いのが…。」
嬉しそうに微笑むラールさん、
窓の外から三つ子がひょこひょこ顔を覗かせていた。
「一番は…、優しい旦那様かな……、かっこいい長男もね、
お義父様、お義母様、ティナもサラも大切な家族が居るから…。
私の中では二人とも、ティナとサラは家族なの、
ティナは私の後見人でもあるのよ…、
だから本当にお姉さんになったわ…。
それにね…、私の事情を聞いても…、お父様もお母様も何も言わず…、
受け入れてくれたの…、本当の娘のように大事にしてもらってる…感謝しかない…。
私は皆が大好き、この世界にきて…良かったって思えるようになった…。
ちょっと持ち上げすぎたかしら…、ふふふ。
さてと…、悪趣味な事をしている人達のとこに行きましょうね。
心配でたまらないって顔しているわよきっと。」
「悪趣味? 」
そんな私の問いにラールさんはクスクス笑うだけ、
そして私の手を引いて部屋を出た。
連れていかれた場所は、すっごく広くて立派な部屋だった。
「あなた…、お義父様、お義母様まで……。
……ね、ユリア、とっても素敵な家族でしょ?
ここから離れる理由なんかないわ。
でもっ勝手に話しを聞くのは許しませんっ。
今回だけは大目にみるけど、二度としないで下さいね。」
悪趣味だと言われた人達は、
三人とも目を真っ赤に腫らし、泣いたんだと誰が見てもわかるのに、
三人がとても嬉しそうなのが印象的だった…。
優しい家族に囲まれてラールさんが幸せだったから、
私は自分の事のように嬉しかった。
私はその後、三つ子とたっぷり遊んだ、
軽々と私を抱えて走る三つ子…。
木の上に登ったり……、飛び移ったり、飛び降りたり…。
死ぬかと思った…。
おやつにパンケーキも食べた。
パンケーキにラールさんのテンションが上がったのにはびっくりした。
サラはラールさんの為に用意したのかなって思った。
なんとっ、夕飯まで一緒に食べた。
もう、今日は幸せ過ぎかも、だって肉じゃがもどきが出てきたし!!!
思わずうるうるとなったら、皆もうるうるになって困ってしまった…。
帰りは後宮から迎えに来てくれるって聞いて、
きっとサラが来るんだと思った。
サラもラールさんに久しぶりに会えると思うと私まで嬉しくなる。
でも…、まだ帰りたくない。
もっともっと沢山話したい事があるから…。
皆と楽しくおしゃべをしていたら執事さんが慌ててやってきた。
お父様と執事さんがなにやら話している。
「ユリア、迎えが来たようだ…、来なくていいのにな…。」
そう言ってお父様が立ち上がったので、私も席を立った。
急に寂しくなってきた…。
その時…、あの忌々しい声が聞こえてきた。




