№28
ふるふると震える指を拳に変え、目の前の金縁メガネを睨んだ。
表情が動かないその顔に余計怒りが増す。
「アデル、それは本当なのですか?」
サラが怒りを滲ませアデルに詰め寄る。
「もう決まった事。既に動いている。」
「なんてことなの……。」
サラの心配をよそに淡々と話すアデルであった。
事の詳細を知ったサラは不安で仕方がなかった。
魔術を学ぶ事に対しては何の不満もない、
サラもオードノギュー公爵とまったく同じ理由でユリアを心配していた。
「時間がないんだ、サラ、お前もその事はわかっておるな。」
アデルが言いたい事、それはサラにもわかっていた。
魔術を学ぶという事は、そう簡単な事ではない。
やると決めたら一刻も早く学ぶのが良い。
「従者は、女官が一人と護衛が三人。それ以上は逆に怪しまれる。」
「移動魔法ではダメなのですか?」
「ダメだ。異世界人…、しかもユリア様は小柄…。
身体が持つかが……わからない…。」
「私や公爵殿ならできるかもしれないが……。」
「アデル、移動しながら結界を張る事なら私もできます。」
「そこまで過保護にしたら……、
余計にユリア様を危険にさらす事になりかねない。」
黙り込むサラ。アデルが言いたい事はわかっていた。
「では…いつから?」
「明日からだ。大丈夫だ。心配するな…。」
「わかりました…。明日は私が付き添います。」
「承知した。それとだ確認だが、ローレンはもともとは騎士だったよな。」
「ええ、そうです。バルバラと力は変わらないかと思います。」
「バルバラは王妃つきの近衛で、ローレンは陛下か…。」
「はい。二人とも男性の近衛と変わらないか、もしくはそれ以上かと…。」
「お前が一番強いだろ。サラ…。」
「滅相もございません。私は、女官ですから。」
突然現れた四人目の異世界人に急遽あてがわれた傍付きの者達、
王妃の気持ちを汲んだ国王が指示した結果の人選であった。
アデルはサラを従えユリアの前に立っていた。
「ユリア様、国王陛下より魔法取得の許可を頂いて参りました。」
最初信じられないような顔をしていた彼女だったが、
両手を挙げシャーッと奇声をあげたと思ったら、目の前のアデルとサラに
ハイタッチを強要し喜びを全身で表したのであった。
「早速ですが、明日より王城のオードノギュー公爵の執務室まで通って頂きます。
魔法の手ほどきは公爵様がなさいます。厳しいお方ですのでお覚悟して下さい。
その間、ユリア様には女官が一人と護衛が三人つきますのでご安心ください。」
「え?後宮から出ていいの?ウソッ!!!」
サラが間違いではないとつけくわえる。
その言葉に彼女は嬉しそうに微笑む。
「王城との往復、多少制限をもうけますので、それを守って下さい。」
アデルが言う、その制限とは、決して馬車の窓を開けない。
付き添う者意外とは言葉を交わしてはならない、視線も合わせてはいけない。
興味が引く物があっても、立ち止まったりしてはならない。
簡単そうで、意外と大変な内容であった。
「わかった。なんだかわくわくします。ふふふ。」
やる気を出す彼女に不安な顔のサラ。
「どうせなら、変わり者の異世界人だって思わせようかな~~。
どっちにしろ注目されているわけだし…。うん、それがいいかも。
王城へ行く話しがなかったら部屋から出ないで過ごそうと決めていたしね。
これはチャンスかも…。」
その言葉に驚くアデル、ますます心配そうなサラ。
「ユリア様、何を考えておいでなのですか?」
アデルが彼女に問う。
「だってさ、後宮ってそういう所なんでしょ?」
「そういうとは?」アデルがとぼけたような声を出す。
「やだな~、アデル、わかってるでしょ。後宮の統括責任者さん。」
にっこりと笑い『わかりません』とこたえるアデルに彼女は、
「女の戦いは、既に始まってるって事よ。
正直、早々と戦線離脱したいんだけどさ。
勝手に敵の一員に入れられてるから、
敵じゃないって思わせないと大変だもん。
でも、のこのこ敵の手中に出て行くのも嫌だから、
部屋に篭って魔術を学ぼうと思っていたの…。
今の…私には…太刀打ちできるものなんか何もないから…。
サラ達を巻き込むだけ……。
異世界人のお姉様達にも迷惑かけてしまいそうだし…。」
「ユリア様は賢いお方なのですね。」
「アデルそれは違うよ、
私は自分の事は自分がよく知ってるだけ…。
何の役にも立たないってわかってるから…。」
「お役に立ちたいのですか?」
「勿論よっ、今のままではただの足手まとい…。」
「一つだけお役に立てる事があります。多少危険を伴いますがね。」
アデルの言葉にサラが遮るように咎めた。
「アデル、何を言ってるのですかっ。それ以上はおやめください。」
そんなサラにユリアが、
「サラ、黙って、アデル続きをお願いします。」
サラの止めるのもきかずにアデルは、
「ユリア様、王城との往復の道にて待ち構えてるかもしれない、
ふとどき者を、罠にかけたくはありませんか?」
「え?それって、…………、ふふ…、囮作戦って事ね。」
「はい。正解です。」いつもの口調でアデルがこたえる。
「そうね、怖がっているより、そんな奴等先に見つけた方がいいかも…。
見つけられるの? 危ない橋なんか渡らないからね。
私の犠牲に誰かが傷つくようなら、やめる。」
その言葉にアデルは、
「はい、仰る通りでございます。
その為には先ほどユリア様が言われたように、
ユリア様自身が自分は関係ないんだと、他者に知らしめる事が大事です。」
「ふふ、アデル。楽しくなりそうね。」
「はい、ユリア様。」
にっこり笑うアデルに楽しそうな顔をしているユリア。
サラはますます不安を募らせていくのであった。
私は気になってる事を聞いてみた。
「アデルはどうして私の事心配してくれるの?」
「はい、国王陛下より任されている、
私が北棟の担当執事だからですよ。」
「ふーーん、意外と範囲広いんだね…。
物理的な物だけかと思っていたから…
案外大変なんだね…。ありがとう、アデル。」
「私の事、気にかけてくれるのですか?」
「そりゃそーよ、だって私は、北棟の住人なんだもん。」
金縁の奥の目がわずかに細まる。
いつものようににっこり笑うと、アデルは部屋から出て行くのであった。
「ねー、これなんかどうかなーーー。」
衣裳部屋にてさっきから、一生袖を通さないと思っていたものを手に取り
ローレンとバルバラに問うユリアであった。
「はい、それも宜しいですが、こっちはどうですか?」
と、三人で箱から出しては広げる、を繰り返していた。
一生袖を通さない服。
彼女がそう指す服とは、何気に山のように贈られてきていた王妃からの贈り物。
王妃は何を考えていたのか、女児に着せるような可愛らしいものを、
ユリアに届けていた。実際、この国の女児には大人気なそれらだった。
女児だけでなく、大人の女性にも隠れた指示を得て最近では大人の物も
あるという。それを着用している女性は一般的に奇抜な服装を好む、
今時と呼ばれる女性達、どの世界にも人と異なる服装をしたがる者は居る。
流行に敏感な貴族のご令嬢達の間でも密かな人気であった。
可愛らしいフードがついたロング丈の薄手のポンチョ風ドレス。
揃いの手袋と靴がまた可愛かった。
色んなデザインがあり、動物をモチーフにしたものもあった。
「これって耳までついてる。ほら靴も蹄の模様がある。可愛いかも…。
キャーー、手袋見てよっ、肉球がーーっ。ぷにゅぷにゅだし。」
ユリアは意外と可愛いそれらに嬉しくなっていた。
「ユリア様、毎日色んなものを着て皆様を驚かせてあげましょう。」
ローレンの言葉に頷くバルバラ。
「そだ、二人も着たら? それこそ、バカな異世界人に無理やりやらされている
哀れな者達って思われて、私の変人ぶりが証明されていいかもよ。」
「「 喜んで着させて頂きます。」」
今時の女性は身近にも居た。
「それじゃー、あなた達のは私が用意しますわね。」
「「王妃様ーーーーっ。!!!!!」」
いつからそこに居たのか、
王妃が三人が広げたドレスの隅に皆と同じように座っていた。
「ふふふ、ユリア、楽しそうな事をしているわね。
是非、私も仲間に入れてほしいわ、ねっ。
私って意外と便利よ~~、お金は持ってるし、権力もあるから、
使い勝手いいわよ。ああー、これから楽しみですわ。
早速ドレスを手配しなくては、
明日は昼過ぎにはこれると思うわ。」
既に仲間入りをしている王妃。
「あの……、明日から魔法の勉強で一日いません…。」
ユリアの言葉にがっくり肩を落とした王妃。
そんな王妃を見送った三人であった。




