№29
ヒラヒラのドレープが彼女の動きに合わせて揺れる。
ひょこひょこと動くフードに付いた花のモチーフ。
いつもより大股で歩いてみた。
そうした方が良いと思ったから…。
うん、イケル。自分で言うのも可笑しいけど、イケテル。
それが彼女の正直な気持ち。
戦闘服ではないけど、今着ている服は私にとってはそんな感じ…、
こんな事誰にも言えない、護衛の騎士さん達に申し訳なく思ってしまう。
いつの間にか小さくなってしまった私……。
ここではそれが普通になっていた。
小さい身体は皆から護られる存在。
今の私がそう…。
身長が縮んだ訳ではないけど、今の私は小さい。
今日から変わろう。
昨日まではまったく考えてもいなかった事。
でも、今日はいつもとは違う。
たかが衣服と思っていたけど、違ってしまったからしょうがない。
だって、イケテル。
いつもより背筋を伸ばし、いつもより歩幅を大きくした。
そしていつもより顎を引き、いつもより大きな声を出す。
「魔法の勉強に行ってきます。」
「行ってらっしゃいませ。」
ローレンの寂しそうな声が可笑しかった。
チラッと振り返ったら、変人の異世界人に相応しい傍付き達。
バルバラだけでなく、サラやアビエル、エリアスも私とお揃い。
流石にアビエルとエリアスは男性だからか、同じ色の騎士風の格好。
妙にメルヘンチックで似合っている。
ヒラヒラが少ないけどちゃんと付いているから凄い。
機能的にも差し支えないのか、腰にはなんなく剣が収まっていた。
凄いといえば、王妃様、いったいどんな力技をつかったのか知らないけど、
朝には全員分の衣服が揃えられていた。
きっと、小人の靴屋さんみたいな、職人の魔術師と知り合いなんだろう。
あまり深くは考えない事にした。
どうも底知れぬ何かがありそうであえて見ない方がいいと思えてならない…。
さあ、今日から始まる小さな私の大きな戦い。
魔術との戦い。
得たいの知れない者達との戦い。
ドロドロの女の戦い。
うん、頑張ろう。
待たせていた馬車の前にはアデルが待っていた。
私達を見るなり嬉しそうに微笑む。
奇抜な格好をしているのに、驚く事なく静かに微笑む。
だから私も笑った。
「ユリア様、行ってらっしゃいませ。」
「行ってきます。」
普通に交わされる会話。
これがいつもの事だと思わせる為、既にアデルから幕が切って落とされた。
注がれる視線に気づくけど、それには動じない。
差し出されるアデルの手を借り、馬車へと乗り込んだ。
まずは第一段階が終わった。
情けない事に足がガクガク、産まれたばかりの子馬のようだった。
「アビエル結界を…。」
サラの声にアビエルが頷く。
その途端サラにもたれ掛かった私。
サラは何も言わず、手を繋いでいてくれる。
ありがたかった、何か言われたら弱気な自分が顔を出しそうだったから…。
静かに馬車は進む。
ゴトゴトと軽い振動はあるけど、中は意外と快適だった。
たまに皆が一斉に同じ方向を向く。
私だけが感じない何かを皆は感じている。
皆にとっては、当たり前の世界なんだと思った。
今更ながら、とんでもない所に来てしまったと思う。
でも…、私はここで生きている。
嫌がってもここが今は私の世界。
まじで気づくのが遅すぎる自分にあきれる。
「皆に…聞いて欲しい事があるの……。
今更…遅いけど…、聞いて…。
皆の仕事は私を護る事、私が死なないようにする事。
だから、私の仕事は、生きる事。
かっこよくできないかもしれないけど……、
頑張って生きるから、だから……、
だから、皆も死なないで、これは私からの命令…。
必ず命令守ってください。死なないで……お願いします。」
一瞬の沈黙の後に返された返事。
「承知いたしました。」
サラの声に皆が頷く。
ありがとうと頭を下げたら、一斉にやめてくれと言われた。
「ユリア様、帰ったらローレンにも同じ事を言って頂けますか?」
サラの言葉に不思議そうに首を傾げたら、
「私は今、嬉しくて幸せです。この気持ちをローレンにも感じて欲しいのです。」
そう言われて、皆が喜んでくれているのに気づき泣きそうになった。
「はい。」それだけ言うのが精一杯だった。
皆は思い出していた。
最初に異世界人の傍付きだと言われた日の事を、
召集された後宮には、王妃付きで王城を取り仕切る女官長のサラが待っていた。
女官長のサラが異世界人の女官になったと聞き皆に衝撃が走る。
そのサラが皆に言った事。
「異世界人の主の傍付き、国王陛下の意思により任命された皆の事、
大変頼もしく思ってます。これから宜しくお願いします。
一つだけ私からのお願いです。
異世界人の主は、たった一人でこの世界にやってきました。
心構えもなく、ましてやご自分の意思でもなく、
大切な家族や友人に別れの挨拶もなくです。その意味わかりますか?
本当に一人なのです。誰も頼る者も顔見知りさえもいません。
私達は主が最初に接触し共に生活する者となります。
その点も含めてそれぞれが良く考え、
これから主と向き合ってくれればと思ってます。
既に後宮にはそう言う教育を受けた異世界人の傍付きの者達がいます。
私達は、突然現れた四人目の異世界人の傍付きにと急遽人選された者、
急に王命を任されても、それができる者達だと言うことです、
その期待に添えられるよう主をお護りし一緒に頑張っていきましょう。」
それが何を意味するかを本当の意味で知るのに、
時間はかからなかった。
王妃と対峙し、泣きながら元の世界に戻してと言う主を、
壁越しとはいえ聞いてしまった彼等だった。
正直、彼等を含め王城内の人々は浮かれていた。
国の頭脳と呼ばれている人々が力を合わせた今回の
召還の儀式、それが成功し、国民が心より望んでいた
皇太子妃候補が現れた事に対してである。
それに加え、わが国の魔術や叡智に対して、
レガーナはこれからも安泰だと喜んでいた。
その実、異世界人の彼女達の事まで頭になかった。
今、目の前にいるユリアは、あの頃とは違う。
勿論自分達もそうである。
きっと死なないでと言うユリアの願いを守りたくても、
彼等は自分を犠牲にする事など怖くはない。
いつのまにか想いが重なる彼等であった。




