№24
「ユリア様、お目覚めですか? 気分はどうですか?」
サラが彼女に声をかける。心配顔のサラに微笑む彼女。
「もう大丈夫です。心配かけてごめんなさい…。」
気になっていた事をサラに聞くユリアであった。晩餐会を欠席した事、そのせいで、サラや後見人のオードノギュー公爵に迷惑をかけたのではないかと心配していた。正直晩餐会に参加しなくてはならないと言われた彼女は、想像がつかないその場に不安があり、その事をサラが気付いているのもわかっていた。タイミング良く熱が出て、それも知恵熱だと言われ、晩餐会を嫌がり熱が出たと思われていたからである。嫌がっていても一応皇太子姫候補だという自覚がある彼女は、皆に迷惑をかけたのが申し訳なかった。
「そんな事お気になさらなくてよろしいのですよ。
それよりも、早くご自分のお身体を治す事だけお考え下さい。」
優しいサラの言葉に安心したユリア。サラの目にも安堵したのがわかった。
「殿下がお見舞いに来られました。ユリア様がお休みになっている時に…」
そう言って、テーブルの上の包みとベッドヘッドの書物を指差し
お見舞いの品だと彼女に教え、ローレンと共に彼女の身体をお湯で拭き
真新しい夜着に着換えさせ、軽い食事と薬を飲ませた後、部屋を出て行った。
一人になった彼女は、さっきから気になっていたテーブルの上の包みを開けた。
ふわっと香る甘い匂い。
「あ…、レーズンパイ…。」//////////
途端に真っ赤になっていく彼女であった。
急に昨日の皇太子との事を思い出していく。
……なんで…レーズンパイなの?
もう…………。
なぜレーズンパイなのかと思ってしまうが、
わざとなのはわかってしまう。
「……美味しい……。」
一つつまんで口に入れたら、甘酸っぱい味がした…。
あっ………、…………。
ボンッと頭に浮かんだのは彼の唇のドアップ。
自分の頭の中ながら、ありえないとぶんぶんと首を振る。
手で顔を仰ぐ仕草で申し訳程度の風を送り熱を取ろうとしても、
取れるはずがない。半ば諦めて、ポスンと椅子に座った。
クッションをギュッと抱きしめて、その中に顔を埋めても
いつまでもその甘酸っぱい味が口の中に残っていて落ち着かない。
ふぅと吐き出した息さえも甘く感じてますますその部分が熱を持つ。
次に視線を送った先は、ベッドヘッドに置かれた書物。
手に取り背表紙を見た。
『 魔法の心得 』
その文字に釘付けになった彼女。魔法という文字に心が弾んだ。
パラパラと頁をめくるとハラリと落ちた紙。
何かと思い拾うと、文字が書かれていた。
『 早く元気になれ 』
何なのこれ………。
いったい……昨日から何なのよ……。
彼女はその紙をベッドヘッドの引き出しに入れた。
唯一鍵が付いているそこにしまう。
鍵をかけた、カチッと鳴る音になぜか安心する彼女だった。
翌朝、ユリアはサラから大事な話しがあると言われた。
その内容は、この後宮に他国の姫達が、皇太子の嫁候補として
入りこの後宮内に住むという事であった。
サラは言葉を選び慎重にその事を彼女に告げた。
不安を煽るような事は避けたかった。
平和な世界からやって来た彼女に、
この世界をこれ以上嫌いになってほしくなかったからである。
出来る事なら、静かに暮らせる環境を作ってあげたい。
王妃に泣きながら訴えていた姿を見た時から、それが自分の役目なのだと
サラは思っていたし、それが願いでもあった。
しかし、彼女から返ってきた言葉は予想とは違う驚くものであった。
「わかった…、覚悟をしろって事なのね。
陰謀渦巻く後宮、皇太子妃の座を狙う姫達。
その影には、権力とお金に群がる欲にまみれた人達がいて、
虎視眈々とそのチャンスを狙ってる。
どうしても、皇太子姫の座を欲しい者達は……、
邪魔なものを消していく……。邪魔なものって………、
同じ立場の皇太子妃候補。
失脚か……、それとも……候補者の命か……。
そうね……、手段は、毒殺…、それとも、暗殺。
刺客がやってきたりして、それとも……、
階段から突き落とされたりとか?うわぁぁ、
あっ、頭の上から大きな花瓶が落ちてきたりっ。
どっちにしても、危ないな……。んーー…。
こんな事はしてられないわっ、私、頑張らなくちゃっ。」
「ユリア様、?」不安な声を出したサラであった。
「あっ、気にしないで、
あのね、私が居た世界の劇みたいなものでね
後宮に似た話しがあったの、もう、ドロドロの世界よっ
最悪なんてものじゃなかったの。
女の戦い、まさに女の戦場てとこかな。
だから、正直言うと、後宮って嫌ーーなイメージしかなくて…。
自分の身は、自分で護らないと生きていけないって感じ。
サラ、私、頑張るね。なんとか生き延びて、ここから出なくちゃっ。
だから…、これからもっともっと心配かけるかも……。
でも、私が思うに、あっ、その劇を見ていて思ったんだけどね、
むやみやたらに出歩いたら駄目なんだよね。
だってさ、なんでわざわざそこに行くんだって、
不思議でならなかったんだもん。
サラ、そんな顔しないで、死ぬ時は死ぬ時よ。
でも、私、死にたくないから…。」
私は、目の前の主を抱きしめていた。
「ユリア様、私が命を賭けてお護りします。」
「そんな事しなくていいから…。命は大事にして…。
ありがとうサラ……、気持ちだけ受け取るね…。」
お優しい小さな主に私は、必ずお護りすると誓った。
私は部屋に篭り皇太子からもらった魔法の本を読んでいた。
魔法の使い方は書いてなく、魔法についての心構えなどが書かれていた。
この前もらった本もそうだったけど、今までに数冊もらった本全部が
使い方ではなく、心構えについてを書かれていた。
別に不満はないけど、そろそろ使い方の本とかを読みたいと思うのは
いけない事なのかと思ったりして、とりあえず、与えられた本を
頭に入れる事に集中した。
読んでいると、魔法とは便利ではあるが、使い方を間違えたら危険な代物。
その事について細かな例をあげて書かれているので、
異世界人の私には、必要なんだろうと思ってしまう。
たぶん、日本の子供達に大人気な青いネコ型ロボットも、
使い方を一歩間違えたらとんでもない事になりそうだし…。
魔法とは違うけど、便利すぎる物には制約が必要なんだと思った。
でも…、まずは使えない事には、そんな心配も発生しないんだけどね。
「サラは魔法は使えるの?」
「はい、一応使えます。」
私は、その言葉に驚いた。今まで一度もサラが魔法を使ってるとこを
見た事がなかったから……。
近くにいたバルバラにも同じ質問をしたら、
あっさりと使えると言われた。
「あのさ、さっきから気になっていたんだけど…、何してんの?」
「はい、殿下の執務机一式をユリア様の寝室に移動させてるのです。」
私はびっくりして、何でそんな事をしているのかと問いただしたら、
後宮に他国の姫達が入るので、この机一式を見られるのが
困ると言われた。不思議に思っていたら、どうやら、
お茶会とかいう催しがあるらしい。その為に室内に入ってこれられても
寝室に入られる事はないので、一番安心な場所が私の寝室なんだって…。
「でもさ、ほら、特殊な人達が、天井裏とかから進入とかないの?
私の寝込みを襲うとか、そんな時これ見られたら…。」
私が言うこれとは、そう、皇太子の抜け殻……。
あの鬼畜は、この抜け殻を置きざりにしている。
だから、たまに本人かと間違えてビクッとする。
私だけでなく、皆もビクッとしているのを見た事がある。
正直迷惑だから持って返って欲しい。
「ユリア様の寝室は強力な結界が張られてますのでご安心下さい。」
衝撃の事実、初めて知った。正直ありがたいと思った。
「ユリア様のお部屋は特別に全てが広く作られています。
それに後宮でも一番奥に位置していますので、ここに来る者達は限られてます。
庭もここだけ独立していて、皆様の所とは建物にて隔離されてますので、
庭からの侵入者の危険も少ない作りになってます。」
気になる事を聞いてみた。
「何でここだけ特別なの?」
「はい、先帝の寵姫様の為にここが後で作られたからです。
ですから、ここはある意味この後宮の中でも一番安全な場所なのです。」
なんとなく頷けるものがあった。
あの無駄に広ーーーいお風呂とか、ながーーーいテーブルとか…。
バカみたいに広ーーーい寝室とか…。
正直、旅館とかの大宴会場の襖を開けたすぐそこに寝ているような感じ…。
天蓋つきベッドで良かったと心底思ってる。
空間が狭く感じてすっごく安心する。
それだけ…、寝室が広いって事は…、結界が張ってあるって事は…、
その寵姫様は、一日の全てをそこで過ごしていたのかもしれないと思った。
国王陛下が来ない時はそこで食事もして、軽い運動もそこでしたのかもしれない。
読書も、着替えも何もかもをしていたのかもしれない…。
そう考えたら、無駄に広い寝室も考えて作られていたんだと思えてきた。
うん、やっぱり魔法頑張ろう。
自分の身は自分で護れるようになりたいと思った。




