№22
人々は笑い、笑顔で語らう、道行く人々も身奇麗な服装で行き交う。
この光景はどこにでもあった、それが彼等のこの国に対しての印象。
市街地から離れた農村地帯においても同じであった。
多少違うのは、従事する仕事による服装くらいである。
田畑にて作業する者達はそれに沿った服装ではあるが、決してボロボロとかではない。
見えない部分にて格差はあるかもしれないが、眼に見える部分だけ見たら
貧困とは無縁の豊かな国。政に関わる者からしたら羨ましい限り。
この国の中心部、国王の住まいがある王城の城下にある都、それは今まで見てきた以上の賑わいで彼等を迎えた。整備された道、その脇には様々な店が立ち並ぶ、そんな道が何本も何本も縦横に走っている。それだけでも凄いのにさらに、王城から一本際立って大きく立派な道が伸びている、都のメインストリート、綺麗に飾られた店先に明るい声が響く。洗練された街並み、すっきりとした外観。これがレガーナの都市であった。王城へと向かう馬車の中でそんな光景をこの国に入ってからずっと見てきた皇太子嫁候補の一団。その姫達一行が続々と城へと到着するのであった。
いつもの様に愛しい妻と朝食を取っているが、どうも妻は機嫌が良くない。
何か言いたげな視線を向けられていた。
「王妃よ、どうしたのだ?」
「分かっているのでしょ?言いたい事は。」
プンと横を向く顔が可愛いと思ってしまうのは不謹慎だなと思うが
それでも可愛いく思えてならない。
そんな王妃は最近何度も手を変え品を変え、同じ話題で私を困らせる。
「何故今更後宮に…。書状にて知らせていたというのに…。陛下、お言葉ですが、陛下の書状を見ても諦めぬ心…、あまり良いとは思えません。胸騒ぎ以外おこりません。」
国王は王妃の言葉に否定はしない、国王もまったく同じ思いであったからである。
「その事には気づいておる。勿論皇太子にも話しておる。案ずるな。」
「後宮はかつてない位に平和だったというのに…。皆仲良くしていると聞いていたのに…。皇太子の時代にあのような愚かな場所を…作るのかと思うと…心が痛みます。」
「王妃よ、私はあの場所があったお蔭でお前と出逢えた。」
「陛下……。」
「それに、我が息子はあの、デュークハインヒル・ワーズナー・ボイトだ。何も恐れる事はない。私と王妃の息子だ。賢く強く、そして抜け目ない。他国の姫とその家臣ごとき、赤子も同然。」
「でも…あそこに居るのは…皇太子ではありません。異世界の令嬢達です。」
「お前は後宮で辛かったのか?」
「あら、私はマイペースでしたわ、それに私は誰にも負けませんから。」
「あはは、そうであったな。なら、異世界の令嬢達にもそうなって欲しいものだ。幸い後宮には優秀な人材を送り込んでおる。あの者達を敵にまわしたら怖いものだぞ。それに気づける程、賢い家臣を連れて来るかはわからないがな。」
「まあ、既に策士なのですわね。私も勝手に参加させて頂くわ。」
「好きにしてもいいが、危険な事だけはしないでくれ、良いな。」
「あら、私を心配なさるのですか?」
「私はいつも心配しておる。安心など一度もした事はない。」
「それは気づきませんでしたわ…。」
納得いかない王妃の可愛らしい抵抗に苦笑いの国王であった。
「国王陛下、王妃様、そろそろご準備をお願いいたします。」
その言葉に食事を終え動き出す二人であった。
謁見の間、他国の姫とその代表の家臣が国王と王妃そして皇太子の登場を待っていた。
流石はレガーナとその豪華な室内に驚く各国の家臣達。どこもかしこも一級品、上質な物で溢れている。王城内でもそうだが、来る道すがら眺めた、田園、田畑には、作物が豊作状態、城下の賑わい具合にこの国の繁栄を見せ付けられ、何がなんでも我が姫を皇太子の正妃にと心底願っていた。
その姫達は、無論家臣達と同じ思い。国力と財力に魅せられ、皇太子に対して寄せる想いとさらに別の思惑もふくらみ、正妃の座への想いを募らせて行くのであった。
謁見の間内部では互いを探り合うような視線が絡み合っていた。
勿論レガーナの者達もその中で静かにその様子を伺っている。
いくつもの眼が、各国から来た者達へと向けられていた。
どんな些細な事でも見逃さないように注意深く。
将軍が宰相と並び
「それにしても凄い顔ぶれだな。自国は大丈夫なのかと心配になる。」
将軍の言葉に頷き
「それだけ、我が国に対して僅かな失態もしたくないと言う事では…。見事に全ての国が宰相自ら乗り込んで来るとは、余程レガーナは欲しい獲物なのでしょうね。」
「ああ、そうだな。そうなると……心配なのは娘だ…。」
「将軍のお嬢さんは心配ありませんよ。そう聞いてます。心配なのは我が妹…。はぁぁ…、出来る事なら我が家へ連れて帰りたい。女の戦いなど…考えただけで不安でたまらない…。」
宰相の妹、オードノギュー公爵の娘となったユリアの事である。
将軍もその事に関して異論はない。異論どころか連れて帰れと言ってやりたい。
闇からの情報でも、一番危険察知能力がないと報告されていた。
「宰相の妹殿は、平和な世界から来たのだろうな。」
「そうでしょうね…。平和な…世界から…。」
本当に心優しい方達、国王陛下の心遣いに感謝したい。
異世界人の彼女達に、色んな意味で心強い後見人を授けてくださった。
家族となってまだ間もない彼女達を本気で心配してくれるのだから。
場内に国王陛下の登場を知らせる声が響く。
その途端、さっきまでのざわめきが嘘のように静まり返っていく。
ゆっくりとそして厳かに登場した国王に皆が一同に跪き礼をとる。
威厳ある国王と美しい王妃、そしてその横に立つ皇太子、噂では見目麗しいと聞いていたが、実際の彼はその噂以上、皆の想像を遥かに超え神々しい程の姿をしていた。
その姿に見惚れる姫達、誰もが心奪われていく。
『 欲しい その愛を手に入れたい 』
姫達の心、嫌でも同じ想いになっていくのであった。
粛々と進んでいく中、上の空で聞いているのが周りからも知れる程、
皇太子から視線を外さない姫達。もう既に戦いは始まっていた。
「先の書状で断りをしたものの、望んでここに来た姫達、ご苦労であった。
我が国の意思は未だ変わってはいない。皆の気持ちに門扉を少し開けただけだ。
皆も承知していると思うが、今回の後宮入りは、あくまでも正妃候補、
側室ではない、しかと心しておくように。こちらもそのつもりでいる。
長旅疲れたであろう、ゆっくりと休み、早くここに慣れる事を願っている。」
強国の国王は、その言葉に少しばかり、自身の意思に背いた者達に苦言を言う。
この国王も大国を統べる者、優しい顔は自国の国民へのみ向かう。
他国へ向ける顔は、皇太子とあまり変わりはしない。
皇太子の冷酷無比な噂によって今は影を潜めているが、
以前は国王こそが、冷酷な王として恐れられていたのである。
影を潜めていただけで、本質が変わる事はない、現に最強な国王は健在だからである。
その事に気づいた者がどのくらいこの場にいる事か、
彼等は既にしてはならない事をしでかしていた。
国王の言葉に背筋を凍らせる者は、残念な事に自国の家臣達。
各国の宰相達はその意図を汲み取る余裕がない。
目の前にある獲物があまりにも大きくそして旨味が有りすぎた。
思考は手に入れる事のみへと向かっていくのである。
しかしここに一人だけ違う想いで国王の言葉を聞いていた者が居た。
ザルザスの宰相ダリウス、彼は聞く前から国王の考えは知っていた。
『 ああ、やはり… 』 と微かな期待を見事に砕かれただけであった。
我が王に厳しくだが事実を進言したレガーナの国王。
私は…謝罪したい気持ちでいっぱいになっていた。
リディーアーヌ姫を…ここまで連れてきてしまった罪を…。
大国だと言われていたが、やはり別格、全てが違う。
昔から大国ではあったが、それを維持していくのは…
国を統治する者の采配。国王も素晴らしいが、周りを固める者達も同様。
一分の隙もないと言う事か……。
そして私は、周りに目をやった。
無抵抗を装い、捕食者の顔をしている者達を見て哀れにさえ思えてくる。
何故気づかぬ、この力の差に、国の脳とさえ言われている宰相の顔もあるというのに…
私はここである一つの事に気がついた。
だからなのか、レガーナの国王や、家臣達は、この顔を見慣れているのかと…
善人面して寄って来る、捕食者者の顔をした者達を…。
私はこの場に居合わせた事が幸せに思えた。
なんとか、姫を無事に国へ帰す事ができそうだからである。
姫には申し訳ないが、正妃になる事を考えて差し上げる事はできない。
国王達が去った場では、各々が食事と休憩の為にあてがわれた部屋へと向かう。
夜の晩餐までの時間ここで過ごす事となる。
各国の姫達が後宮に入るのは実質明日からであった。
その為、これから姫達は夜の晩餐に向けて自身を着飾らせるのに必死となり
大切なこの時間を家臣達と話し合う事もせずに過ごすのであった。
「あーーあ、疲れましたわ。いつ見ても嫌な気持ちにしかならないわね。
欲にまみれた者の顔なんて、ねー陛下。」
「そう言うな、確かに私も気持ちの良いものではないがな。」
「父上には言う権利はありません。あの者達を許したのは父上でしょう。」
怪訝そうな顔の皇太子に苦笑いの国王。
「相変わらず視線はお前に釘付けだったな。笑ってしまいそうになったぞ。」
「鳥肌が立ちましたよ。気持ち悪い。」
その会話に将軍が入ってくる
「陛下、後宮に居る我が娘が心配でなりませぬ。」
ふははと笑う国王
「お前の娘は大丈夫だ。森に一人で居ても無事に帰ってくるであろう。
私は先日、オードノギューから責められた。話しが違うと、凄い剣幕で…。」
その言葉に将軍が
「宰相も先程同じような事を申してました。心配で家に連れて帰りたいと…。」
そこで何かを思い出したように皇太子へと視線を向ける国王
「そうであった、オードノギューの娘が今朝から体調が悪いらしく、
今夜の晩餐は欠席させて欲しいとオードノギュー自ら頼みに来た。
皇太子よ、知っていたか?」
首を横に振る皇太子、今初めて知った彼であった。
王妃が言葉を続ける。
「なんでも知恵熱らしいですわ…。いったい…何があったのかしら?」
将軍が
「後宮に他国の姫が来ると知りその恐怖からか…。可愛そうな…。」
「そうですわね…、知恵熱とは精神的な事によるものが多いですものね…。」
心配そうな顔で王妃も将軍の言葉に同意するのであった。
一人その理由を知ってる皇太子。
精神的に病ませた張本人。
ユリア……大丈夫か……。
熱は下がったのだろうか………、心配でたまらない……。
…………。でも………舌いれなくて良かった…。
と、まったく反省してない事を考えていた。




