№21
足はガクガクし、身体は震え、まともに立っていられない。
腰にガッチリと回された腕。
振り払いたいけど、今は無理。それができない状況。
私は今、恐ろしい程高い塔のてっぺんに居る、しかも畳、三畳程の丸い円の中。
屋根もなく壁もない、絨毯が敷かれた丸い円状の床のみ…。危険すぎっ。
なんでこんな場所に居るのかと言うと…、拉致られた。
私を拉致ったのは…、鬼畜皇太子。
二週間くらい顔を見ないで、平和な日々を過ごしていたのに…。
現れたと思ったらこんな危険なとこに……。
「元気にしていたか?」
そんな事を言う為にわざわざこんな場所にまで来たのかとむかついた。
「は…い…」 ガチガチと歯がなる。恐怖でまともに言葉が出てこない。
遥か下に見える街並み。怖い。
「久しぶりだと言うのに素っ気ないな。」
何が言いたいのかわからない。とにかく早く帰りたい。
こんなとこ一秒たりとも居たくない。
「風が来る…。私につかまれ。」
その途端ビューッと凄い勢いで風が吹いた。死ぬかと思った。
「怖いのか?」
その言葉にイラッときた。普通の感覚の人はこんなとこには居られない。
「はは、気づかなくてすまない。」
気づけよバカッ。
「ここから見る景色が私は好きだ。」
へーー…。
「ユリアにも見せたかった。」
…………。ふーん…。
ここ…こっちを見なくていい…。見るなっ…。
「座るか?」
コクコクと頷く私。
マズイ……失敗したかも……。絶対失敗した……。
片方の膝を立てて絨毯に座る皇太子の横に座る私。
腕が…、皇太子の腕が…、私の腰に回されたまま……。近いっ。
じりっと離れようと上体を反らしたら、気づかれて引き寄せられた。
これは……、もっとマズイ状況……。
えびぞりに近い私を辛うじて支えているのは…皇太子の腕だったりする。
うっ……、見るなっ…。こっちを見るなっ…。頼むぅぅぅぅっ。
近いってばーー。
「ユリア、私のそばにいろ。」
いるだろ今…。こんなに近くに…。
「明日、後宮に他国の姫達が来る。」
お客さんか…。珍しいな…。
「何があっても私を信じていろ。」
へ? なんでよ?
「負けるなよ。」
何かの勝負でもするのかな…?
「困ったらすぐに私を呼べ。」
呼ぶわけないじゃん。
「妖艶な美女は私の好みではない。安心しろ。」
それが何か? 安心しろったって…。意味がわかりませんけど…。
「今…私が言った事…、忘れるでない。」
へ? ………。覚えてられるかな…。不安だ…。
「しばらく……、声をかけないが……、我慢してくれ……。」
良かった…。関わりたくないし…。
え? やだ……、だから…こっちを見るなって
「顔をよく見せてくれないか?」
見てるじゃん、今、見てるじゃん。
え?何? あ……。 メガネ…取られた…ちっ…。
だからっ、見るなってばっ。
今…溜息ついたよね…、人の顔見て…なんて失礼な奴なんだっ。
「メガネを取るのは……、私の前だけにしてくれ…。」
「サラは? ローレンは? お風呂いつも一緒に入る。」
ふっ…、やっと話してくれたかと思うと気になるのはそこか?
「私と入るか?」
ぐっと拳を握る私。
「殴るなよ、冗談だ。」
乙女に向かって何て事言うんだこの男はっ。危ない奴めっ。
てか…急に黙り込むな……無駄にかっこいいんだから心臓に悪い…。近いし…。
「ユリア…頼みがある…。きいてくれるか?」
可愛い過ぎるっ、首を傾げるその仕草……。言いにくいではないかっ。
「私の……頬に……、口付けてくれ。頼む。」
!!!!!
メガネを取った可愛い瞳が驚いて大きく見開かれた…。
わかっていたが…、その顔は私も傷つく……。
そんなに嫌そうな顔をしないでくれないか……。
「それは……、命令ですか…。」
怒った唇から出た言葉に…また私は傷ついていく…。
「ああ、そうだ。」
こんな事…できれば言いたくない…。
キュッと結ばれた唇が…震えている。
私が逆らえないってわかって言っているの?
何を考えているのか……わからない……。
「しないと……殿下は困るのですか?」
「ああ…、困る。」
「他の方では……駄目なんですか?」
「ユリアしか駄目なんだ。」
………。…………。私しか…駄目……、なんだ…。
//////////// ヤバイ…今…いきなり意識しちゃった…。
うわ、きっと私真っ赤だっ。顔が熱い…。恥ずかしい…。
思わず下を向いてしまった…。顔上げられない…。
「ユリア…?」
ひっ!!! 何甘い声出してんのよっ…意識するじゃん…。
「す…少し……時間を下さい…。」
それだけ言うのが…精一杯だった…。
赤く……なってるのか? 私の事を想って…その頬を染めているのか?
私の事を……見てくれたのだな……ユリア…。
うぅ…こうなったら…さくっと終わらそう。
せいのっで顔を上げるぞ。せいのっ。
!!!!!……キラッキラだ…。それに…近いし…。
「ここ…丸見えです…。恥ずかしいです。」
往生際が悪い私だった…。顔を見た途端恥ずかしさで変になりそう。
「そうか…ここを覗けるような者はいないと思うが…。」
ええ、確かにそうでしょうね…。こんな高いとこ…。
言ってみて自分でもそうだと思いましたよ。でも…恥ずかしいからいいのっ。
「これで良い、結界を張った。外からはまったく中はみえない。」
反則だよ……、そんな顔しないで…、はにかんだように笑わないで…。
いつもの意地悪でいてよ……。俺様でいてよ……。
私を見つめる瞳が愛おしい。すまないユリア…。無理をいって…。
「目を……その……、目を閉じてください…。」
これって…女が言う事なのぉぉぉ…。うぅ…泣きたい…。恥ずかしい。
「こうか?」
うわー、睫毛ながっ。て感想言ってる場合じゃないっっ。
さくっと…、さくさくっと…。身体が震える……。
私は…そっと…頬に軽く触れるだけのキスをした。
近づいてくる気配の後、頬に伝わる熱…。震えているのか?
遠ざかる気配に引き止めたい気持ちを押さえ込んだ。
「ありがとう…ユリア…。」
下を向き恥ずかしそうにしているお前が可愛い…。
あと…もう少しだけ…付き合ってくれ…。
ありがとうって言われても…返事のしようがない…。
だから…無視した…。
無視したのがいけなかったのか、とんでもない事になってしまった。
ぐいっと無理やり顔を上げられ切れ長の目が私を見ている。
視線を避けたいけど…できない……。恥ずかしい…。
今日何度こんな想いをしたのか…。心臓がかなりヤバイ事になってる…。
来るなっ、来ないで…。お願い…。
鼻がっっっ、触れちゃうっっ。
「目を閉じてくれ…。」
!!!!! これって…、仕返しーーーーっっ。
「それって……命令…ですか?」
「違う……、私がそうして欲しいだけだ。」
あ…息がかかる…。
命令じゃない……たったそれだけの事が…ちょっぴり嬉しかった。
だから…魔法にかかったの……。
これは…魔法のせい…。
鬼畜が…私に……魔法をかけた……きっとそう……。
静かに私は瞳を閉じた。
瞳を閉じていくユリアの顔を見ながら嬉しさで走り出すかと思った。
走り出す…、まるで十代の青年のような気持ちに自分で自分に照れてしまった。
ふっ…柄にもなく心が震える。
え? え? 今…どこに触れた?////////
思わず眼を開けた。うわ、目の前っ
と思った瞬間、ピカーーーッて絨毯から光が出てきた。
光はすぐに消えたけど、
出てきた光と同時にギュッと抱きしめられた。
私の肩にうずくまってるこれは何? 鬼畜?
ズルイ……、これって…てっぱんシチュ……。////////
乙女な心がやられそう……。
頬だと思っていたのに……。
初めてだったのに……。
でも…初めてだって思われたくなかった…。
バレバレでも…、嫌だった…。
私だけ……初めてだってのが……むかつくから…。
拘束を解かれた私、色々言いたい事はあったけど、
自分もいっぱいいっぱいだったので黙っていた。
「光が出たな。」
事実出たのでそのままこたえた。
「出ましたね。」
「見たか?」
実際見たのでそのままこたえた。
「見ました。」
私のその言葉に嬉しそうに笑う鬼畜。何がそんなに嬉しいのか…。
それよりも、勝手に人のファーストキスを奪った事はどうなるのかと言いたい。
「もう少し…ここに一緒に居てくれるか?」
無理、すぐにでも帰りたいと言いたかったけど…。
普段と違い、偉そうな態度を取らない鬼畜に言えなかった…。
黙り込んでいると、嬉しそうに笑うから、胸が苦しくなった。
鬼畜は遠くの方を指さして、あそこが何でとか色々と説明をしてくれていた。
でも、いつからこの話しになったのか気づいたら
戦の話しを熱っぽく語る鬼畜。血生臭いリアルスプラッターな話を延々と聞いた。
まだ魔術が上手く使えなかった頃に受けた傷の話しだとか、
よく生きていたなと感心してしまった。
かなり小さな時から、戦場に出ていたと気づき、怖くなった。
それと、この人も大変だったんだと何故か冷静に思ってしまった。
鬼畜は…鬼畜になれないと生きていけなかったのかも……。
そう思ったら…つい口に出てしまった。
「大変だったんですね…。」
最初は驚いた様子だったけど、嬉しそうに笑う鬼畜に何故か良かったと思った。
「見ていてくれるか?」
と言われ、意味がわからず、何をっと首を傾げたら…。
「何でもない。」
と言って、また、優しく笑うから、私もそのままにした。
なんだか鬼畜が優しいから、気になっていた事を聞いてみた。
本当は聞くつもりなかったけど…。
「殿下…、……、レーズンパイ食べましたか?」
「よくわかったな、食べた。」
やっぱりと思った。……。
ニヤリッと笑う鬼畜と眼が合った。やめろっ、何も言うなっ。
「私の唇の味か?」
!!!!! /////////
こいつ、バカなんじゃないかと思った。よくも平気でっ。
「やめて下さい。恥ずかしくて死ぬかもっ。」/////////
「ユリア、それでは死なん。」
わかってるってばーーーっっ。
バカッーーーーっっ。
温度差はかなりあるが、彼の事を意識してしまったユリアであった。




