№18
ユリアから差し出された両腕、その腕を前にした皇太子が、
彼女に気づかれないように、呪文を唱えていく。
小さな白竜が出てきた。勿論彼女にはこの白竜は見えてはいない。
その小さな白竜は彼女の両腕にくるりと巻きついていく。
怪しく輝きだしたその白き竜はじわじわと彼女の腕の内部へと入り込んでいった。
そして、彼女の全身はその怪しい光に覆われていく、
覆われた途端、フッとその光は消え去ったのである。
その様子を見ていた彼、満足そうに微笑んでいた。
私は、牢屋に入るのも覚悟していたのに、皇太子は何もなかったように、
『 構わぬ 』と偉そうに言ってどっかに行った。
ただ、本を読んで感想をまとめておくように言われた。
だから今の私は、サラにばれる前に謝ってるとこ…。
「ごめんなさい…。私、牢屋に入れられるとこでした……。」
私から話しを聞いたサラは困ったような顔をし、バルバラさえも真剣な顔をしていた。
もしかして…、とんでもない事をしてしまったの……。汗っ。
「いったい…、何をなさったのですか?」
「とても…口に出せるような事ではありません…。」
いったい…何を皇太子に…。
ここは女官として知っておく方が良いでしょう…。
「ユリア様、正直に仰ってください。そうしないと判断しようがありません」
「決して本人に言うつもりはありませんでした…。無意識に口に出ていたようで…」
「ユリア様、お話しください。」
その顔、困ってるのはわかります。でも話して頂きます。
「皇太子殿下は…、五時からお姉さま方を訪問して…、と…。」
そこまで言って止まってしまった。
もしかして…、お姉さま達のとこには、王妃様と同様、五時くらいから…
この鬼畜が考えそうな事だな…。
みんな寝室で寝ている時間…、そこにいきなり現れて……。
寝姿のままのお姉さま方……、抵抗するお姉さま方を……。……。
なんて酷い奴なんだーーーーっっ。
こんな事言ってしまったなんて言えない…。ここはオブラートに包んで…。
「ユリア様、全てです。お話しください。」
うっ…。見透かされている…。
もう…いいや…、こうなったら全部思ってる事言っちゃえっ。
「殿下が…あまりにも早く来られたので…、その事を考えているうちに…。
もしかして、お姉さま方のとこには、王妃様と同様、五時くらいから訪問して、勝手に部屋の中に入った、この鬼畜悪魔皇太子が考えそうな事…、みんな寝室で寝ている時間に、いきなり現れて寝姿のお姉様方を、無理やり、抵抗するお姉様方に、あーんな事や、こーんな事っ、キャーーやめてーーーっ、そんな叫び声が響く中、あの鬼畜悪魔皇太子は…、お姉様方に口では言えない事をっやらかしたんだわっっ、なんて酷い奴なんだーーーーっっ、
と気づいたら言ってたみたいです…。」
見る見る真っ青になっていくサラと、何故か噴出すバルバラ。
「ごめんなさい…、牢屋行きですよね…。私…。」
「少し増えてないか…。さっきはそこまで言ってなかったはずだ。」
背中に聞こえるこの声、ヤバイ…。
「ひぃぃぃぃぃぃ!!!!! いつのまにーーーーっっ。」
私の声と同時に反応したサラ。それと同時に私はサラに抱きついていた。
「殿下、申し訳ございません。私の監督不行き届きです。罰は私へ…。」
「サラは関係ありません。全て私が悪いです。
牢屋へ入るのは私一人でお願いします。」
彼女とサラは頭を下げ皇太子の言葉を待っていた。
いっその事閉じ込めてやるか…。
ふっ…、それも楽しそうだが…、
今は…やめておこう…。
「そんなに投獄されたいのか?」
頭を下げたまま、私は思いっきり首を横に振った。
「サラ、今後どうしたら良いと思うか言ってみろ」
皇太子の質問にいつになく真剣な表情で応えるサラ。
サラもまた、幼き頃より良く知る彼の事、優しい事も知っている、
だがそれと同じらいに、彼の怖さも良く知っていた。
「はい、ユリア様の誤解を解き、良く言って聞かせます。」
「具体的にどうするつもりだ?」
身震いしたサラ、言葉を選びつつこたえていく。
「はい、殿下の人となりをお伝えします。」
「それでは、ユリアは納得すまい、言いくるめられたとしか思わない。
一番良いのは、ユリア自身が私の事を知る事だ。
そこでだ、」
ニヤリと笑う彼、口角がゆっくりと引きあがっていく。
その表情にギクリッとするサラ。咄嗟にユリアを自分の背に隠した。
「明日から私はここで執務をする。」
皇太子の爆弾発言。サラは勿論の事その場にいた者達全員が固まった。
何を言い出すんだこの男は…。自分が牢屋に入らなくてはならない情況の中、
私は、皇太子の発言にものすごく嫌な顔をしてしまった。
「ユリア、嫌そうな顔をしているな?」
彼のその言葉にサラが反発をした。
「殿下、お言葉ですが、ユリア様は驚かれているだけです。」
その言葉に彼がサラにユリアの方を見ろと言うように顎で彼女を指した。
顎で指されたそこには、思いっきりしかめっ面の彼女が居た。
「ユリア様っっ、」
おもわずサラは彼女の頬を両手で隠すように覆い視線を合わせる。
そのまま、頬を解きほぐすように両手を上下していく。
ぶにぶにと動く彼女の顔。サラが必死の形相で彼女を見つめる。
「ユリア様、明日から殿下がここで執務をされます。よろしいですね。」
有無を言わせないサラに、コクコクと頷く彼女。
「殿下、色々と行き届かない事もあるかと思いますが、お待ちしております。
その変わり、ユリア様の投獄はなかった事に…。」
サラが彼女の頭を押しながらに一緒に深々と礼をした。
「わかった。私の事は気にしなくていい。勝手にさせてもらう。
サラはユリアの事だけ気にしてくれ。」
「わかりました。殿下…、この事はご内密に…。ここは後宮…。」
「全てを言わずともわかっておる。そのつもりだ。」
なにーーーっっ、せっかくサラが何かを助言しているってのにっ、
偉そーーに、何様のつもりっ、と怒ってはみたが、冷静に考えたら…
偉いんだ、皇太子だった…。
くそっ、どこまでも好都合な奴めっ。
と強気で毒づいてはみても、サラの後ろに半分隠れている自分…。
情けない…。
やっぱり…、魔法を習得しなくちゃ…。サラ達をこの鬼畜から守りたい。
うんうん、そうだよね。私がつよーーくなったらいいんだよね。
いつか…、この鬼畜を叩きのめす為に…。最強魔法使いになってやるっ。
その日、力強く決意した私だった。
決意に燃える彼女だったが、その視線の端に見えている人物が気になっていた。
不適な笑みを浮かべ、ダークキャラさながらのオーラを出している。
時間はたっぷりある。
ゆっくりと私の事を知るがいい。
いや…、知ってもらおう。
その瞳、そらす暇もない程に…。
「アーーハッハッハッハッハッ……」
その場に居た者達の心臓がビクッと跳ね上がる。
仁王立ちの皇太子、心の声は聞こえないが、
悪魔のような笑い声に慄くユリアとその側近達であった。




