№17
今日、私は朝から不機嫌。
その理由を知ってるサラが面白そうに笑っている。
朝、突然告げられた皇太子の訪問。
それも、欲しがっていた物を持ってくるだって…。
そんな事言った覚えなんかないのに…。
「ユリア様、断れないってご存知でしょう。」
「だって…。何もいらないって言ったのに…。」
バルバラが肩を揺らして笑っている。他人事だと思って……。
「バルバラ…何が可笑しいの?」
「いいえ、笑ってなどいません。」
「こんな事なら…、空の星とか…、とってきてて…言えばよかった…。」
「空の星か?子供のような事を考えるのだな」
ビクッと肩が跳ねた。いつのまに来たのーーーーーっっ?
サラを見たら軽く頷かれた。
「皇太子殿下、お待ちしておりました。ユリア様殿下にご挨拶を…。」
「おはようございます。今日はありがとうございます。」
前もって言われていたように挨拶をした。
私と一緒にローレンやバルバラ達も頭を下げている。
そんな私達を確認したサラが言葉を続ける。
「殿下、この後のご予定は?」
「何もない。ここが最後だ。」
「それでは、時間の許す限りゆっくりしていってください。」
「そのつもりだ。」
ひぃぃぃぃぃぃぃぃっっ。ずっとーーーーっっ。
お姉さま方っ、何で引き止めないのよーーーっっ。
あぅぅぅ、まだ…まだ…。九時半だし……。
王族って、活動時間早すぎだしーーーーーっっ。
確かに早々と三人をまわった皇太子であった。
グリンスのところでは
「ご所望の入浴剤と香油です。」
「皇太子殿下、お待ちしておりました。
色々な種類をありがとうございます。
こんなに沢山…とっても嬉しいです。」
「いいえ、喜んで頂けて私も嬉しいです。」
「どうぞこちらへ、お茶をお持ちします。」
侍女がお茶の準備をしている。良い香りが部屋中に広がっていく。
「どうぞ…。お口にあうかどうか…。」
「ありがとうございます。」
熱々のお茶を魔法で一瞬にして冷まし一気飲み。
ごくごくごくごく。
「ふぅー、美味しいお茶でした。」
「まあ、ありがとうございます。」
「では、先がありますので、これにて失礼いたします。」
十分程で終了。
ガートルードのとこでは、
「皇太子殿下、お待ちしておりました。
申し訳ございません。お時間が予定よりお早いので…
まだガートルード様は準備ができておりません…。」
「そうでしたか、構いません。
私の方こそ、早く来てしまいましたので、申し訳ない。
では、これをガートルード嬢へ、
宜しくお伝えください。」
「殿下、お待ちください。すぐにお連れしますのでっっ」
女官の声に笑顔でスルー。
会わずに終了。
アイラのとこでは
「種と土を持ってきました。鉢もあります。」
「まあ、ありがとうございます。」
沈黙の二人。
「それでは、何かありましたら遠慮なく申し出てください。」
「ご丁寧にありがとうございます。助かります。」
「ではこれにて、失礼いたします。」
立ち話で終わった。
その後アイラは、女官に長々と説教を受けた。
サラが皇太子に声をかけた。
「ご令嬢の皆様はお喜びになられましたか?」
「ああ、皆喜んでいた。…と思う。」
喜んでいたと思う? はあ? そんな事もわかんないの?
「殿下、ユリア様には?」
「ああ、そうであったな。」
欲しい物なんかないのに…。いったい何を持ってきたんだろ…。
「ユリア、これが欲しかったのだろ?」
差し出された一冊の本。優しい絵表紙だった。
「あ…ありがとうございます。」 ボソッと出た無愛想な声。
「せっかく持ってきたのに…、少しは嬉しそうにできないのか?」
いつのまにか目の前にまで来ていた声の主、皇太子を見上げた私…。
うわーー、大きいなーー。
子供にするように、彼が視線を彼女の位置まで下げてきた。
目の前に彼の顔。視線がかち合う。
うっ、イケメンっ…。間近で見たら凄いかも…。キラッキラだし…。
「可愛くて小さいな。」
そう言って視線を元の位置に戻しながら、無造作に頭を撫でていく。
//////// 私…きっと真っ赤だ。
お父さん意外、初めて言われた……。/////////
ユリアの十八年の人生の中で父親意外の異性から始めて言われた言葉。
彼女の事を『 可愛くて 小さいな 』等と言う男性は残念な事にユリアの周りには居なかった。それもそのはず、彼女の身長は186cm、現在の日本では、男性でもなかなかその高さは居ない、それが女性となると殆どいない。特殊な環境に属する者達、アスリートとか、スーパーモデルとかくらいである。
慣れてないとは残酷な事であった。
まったく意識してない相手に対してでも、
簡単に頬を染めてしまう程に乙女の心を揺さぶってくる。
ん? 照れてるのか? ユリア…?
口元が緩んでいくのが自分でもわかる。
真っ赤になって照れてるのに、
口を尖らせているユリアから目が離せなかった。
サラが皇太子の様子を見て嬉しそう微笑んでいる。
空気を読んだように、皆を引き連れて静かに部屋を出て行った。
この場合の空気は、勿論皇太子サイドである。
私は余計な事を考えないように、絵本のページをめくった。
文字は数えるほど、殆どが絵。これって……、絵本?
「あの……、殿下…、これって…絵本ですか?」
「そうだ、幼い子供向けの絵本だ。」
「絵本……。……。」不思議そうに首を傾けていく彼女。
「まずは、読んでみないか、そして感想を聞かせて欲しい。」
「感想ですか?」
「ああ、ユリアがどんな風にこれを捉えるのかが聞きたい。
時間はたっぷりある、私はその間ここでゆっくり寛がせて貰う。」
げっ…、ここで待つのか…。帰っていいのに…。
さくさく読んでさっさと感想言わなくちゃね…。
……………。…………。
…………。…………………。
集中できない……。気が散る…。
内容が……頭に入ってこない……。
なんで…そんなに…こっちを見る……。
彼は彼女の様子をただじっと見ていた。
とにかく、見続けていた。意味なく見続けていた。
彼はただ、彼女を見ていたかった…。
そのうち、彼女の表情の変化に気づいた彼。
面白い…、実に飽きない。
あの表情は何なのか…。
あの絵本は、私も読んだ事があるのだが…、
あのような表情をする内容は書かれていなかったと思っていたのだが…。
いったい、どんな風に受け取っているのか…。
早く感想を聞きたいものだ…。
ユリアは文字があまりない絵本なのに既に五回も読み返していた。
何度読んでも、内容がつかめないのである。
原因は皇太子。人から見られるのは今まで慣れていたはずの彼女だが、
異性と二人きりで、その視線が明らかに自分に向けられて、
それが真正面から見られているとなると、気もそぞろになる。
それにしても…何でここが最後なのよ…。
もしかして…、お姉さま達のとこには、王妃様と同様、五時くらいから…
この鬼畜が考えそうな事だな…。
みんな寝室で寝ている時間…、そこにいきなり現れて……。
寝姿のままのお姉さま方……、抵抗するお姉さま方を……。……。
なんて酷い奴なんだーーーーっっ。
「ユリア…、酷いのはお前ではないのか?勝手に人を鬼畜呼ばわり…。」
驚いた彼女は、キッと彼を睨む。
「まさか、魔法ってやつで、私の心を読んだのねっ。」
「………、自分で口にしたではないか…。それに人の心など勝手に読まんっ。」
………。………。口にしていた………。まじ…。心の声が…。
「どの辺りから……。」
「最初からだ、私が五時にだったかな…。寝姿のお姉様方を私が無理やり…」
全部言わんでいいーーーっっっ。やめてくれぇぇ……。
「………。」
もうお終いだ…。私の人生これまで…。
よろよろと立ち上がり、ふらふらと彼の前までやってきた彼女。
「大変申し訳ございませんでした。どうぞ牢屋に入れてください。」
そう言って両腕を差し出した。
「できれば…、狭い牢屋を希望します。」
目の前の彼女の行動、驚く彼。口元は笑っている。
母上と同じタイプか? クックックッ 私も実に間抜けだな…。
逃げ遅れたか……。クックックッ
私に嫌われようと無理に食事を取る姿を見た時に予感はしていた……。
庭で眠りこけていた時に気づくべきだったか……。
父上から言われていたのに…。このタイプには注意しろと…。
まだ少年だった頃の皇太子。
「デューク、王妃のような女性には気をつけるんだぞ」
「何故ですか?父上、」
「ん? 心配で目が離せぬ、」
「そうですか? 私は母上のような女性なら嬉しいです。
聡明で賢くて優しい母上、それにとっても面白いです。」
「あははは、そうだな、言葉にすれば理想のタイプだな。
しかしな、デューク、私から見たら危なげで、危険極まりない。」
「私にはわかりません。」
「もし、母上のような女性を見たら、全力で逃げろ。いいな。」
「はい。でも逃げたくなかったら逃げなくてもいいですか?」
「あははは、その時は、人生が百倍楽しくなるだろうな。」
「それなら、私は逃げません。その手を逆に掴みます。」
「どうしてだ?」
「逃げられないようにです。だって人生百倍楽しくなるのでしょ?」
「あはははは。そうかそうか、それは楽しみだな。」
「はい。」
逃げられないように、クックックッ
その手を掴むとするか……。




