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願いが叶った女  作者: 花梨
17/56

№16

後見人が決まった異世界人達、本人はもとより、

今まで身近で世話をしてきた者達も安堵していた。

異世界からやってきたとはいえ、自分の主となった彼女達、

その行く末を案じないわけはない。

皇太子妃候補という、尊い立場だが、

それ以外は何も持ってない彼女達だったからである。


今はそれぞれが家族となった後見人と歓談中であった。



「わたくしの家族になって頂きありがとうございます。感謝してます。」


嬉しそうな笑顔を向けるアイラ。

そのアイラとは対象に、おやっというような顔をしながら


「私の方こそ、選ばれるとは思ってもいなかった、

最後まで残ると思っていたんだが…。まさか、一番に選ばれるとは、あははは」


将軍がアイラの真意を探るように見つめている。


「ご謙遜を、他の方達に先を越されては、わたくし困りましたわ、ふふふ」


何食わぬ顔でかわしていく。


「では、その理由を聞かせてもらおうか?」


ニヤリと笑う将軍。


「あら、気になりますのね、あまり言いたくはないのですが。」


やんわりと逃げていく。


「これでとうだ?何をしたかぐらいわかるであろう?」


逃がすつもりなど毛頭ない将軍であった。


「どうしても…お聞きになりたいようですわね…。」


「そうだ、なんせ今日からお前の父親だからな、あははは」


将軍は自分とアイラのまわりに小さな結界を張ったのである。

呆れたように笑いながら周りの結界に手を触れたアイラ、途端に表情が変わる。


「恐ろしい程の力をお持ちのようですわね…。」


「ん? 伊達にこの国の将軍を任されているわけではないからな。」


ハッと目を見開いては、納得したように頷き目の前の将軍を見据えた。


「私が植物の研究をしていた事はご存知ですよね、

私は、ただ…研究がしたいだけです。皇太子妃の座など興味がありません。

できる事なら、一日中、土にまみれて過ごして居たい…。

大変失礼な言い分ですが、マクダーモット公爵は…、

地位に固執なさるような人物には見えませんでした。

王の御前にその格好…。それが選んだ理由です。」


それは確かに言いにくいなと心内で笑う。


「確かに…、これ以上の地位はいらぬ。アイラ少し勘違いしておるな、

私は仮にも将軍、軍の最高責任者だ。それに家名は四本の指に入る大貴族だ。」


「家名に泥を塗るなと?」


「はは、察しがいいのは良い事だが…。少し違う。」


いったい何が言いたいのか真意が見えない…。

この方は何を考えているのか…。


「わかりません…、教えてください。」


ちょっとだけ座りなおし顔をあげた時にはその表情ががらりと変わっていた。


「お前が…、国に害を及ぼす研究をするのなら……、

いくら父親でも、お前をほうってはおけぬ。

その時は…、将軍としてお前を切る。


可愛い娘にそんな事をさせないでくれないか…。」


「何故そのような事を? ただの研究者に?」


「わからぬとでも思っているのか? 

お前の持ってる魔力…そうとうなものだ…。

上手く隠しておるようだが、私を欺くにはまだまだのようだな。」


血の気が引く。この男が怖いと思った。


「そうでしたか…。仰る通り、

私は…魔術の研究の延長から植物へと興味が沸きました…

以前は…魔術を操る騎士として隊に所属し、戦場にも出てました…。

仲間が何人も傷つき、命を亡くしていくなか…。

女というだけで…、どこか皆から護られ…自尊心がズタズタでした…。

なんとか役に立ちたい、その思いから、薬草の研究に入ったのです…。」


「騎士か……。」


魔術師だとばかり思っていたが…魔術を操る騎士だったとは…。


「はい…。私の家は代々騎士の家系、

それが当たり前だと幼い頃より思ってました。

騎士として国を護るのが私の使命と信じてました。」


ふぅぅと大きく息を吐く将軍。アイラを哀れに思っていた。


「家族はきっとそんな事望んではいなかったであろう…。」


「まったくその通りでした…。父にも母にも兄にも反対されました。」


辛そうに笑うアイラ。


「私も反対だ。娘が騎士など絶対認めない。」


「仲間の役にたちたかった…、国の為に働きたかった…。それだけです…。」


「その気持ちはわかる。でもな騎士だけが国を護ってるわけではないんだぞ

今ここで賊に襲われたら、侍女達はお前の盾と喜んでなるであろう。

アイラは皇太子妃になるやもしれぬ尊いお方だからな、

その意味がわかるか? 未来の国王の妻。国にとって護るべき相手だ。

アイラに付いてる女官はお前を護ってはいないのか?

そんな事はないはずだ、全力でお前を女官として護ってる。そうではないか?

女官としてやるべき事でお前を護り支えてくれてはいないのか?」


優しく諭すように語り掛ける将軍。


「………、私は…護られて……る?」


あぁ…。私は……。

そうだったと言うように頷く。


「そうでした…、私は…護られてました…。

突然見ず知らずの世界に呼び寄せられ…

不安で眠れず…気がおかしくなりそうな私を…

必死で護ってくれてました…。今も…この時間も…。」


うんうんと頷くとその大きな手でアイラの頭をくしゃと撫でた。


「これからは、私もアイラを護る。父親としてな。」


何も言わずに頷き、両手で顔を覆うアイラであった。

将軍は、そんなアイラを目を細めてみていた。


落ち着いたアイラに将軍が話しかける。


「で、これから何が望みだ。皇太子妃の座はいらぬのか?」


「皇太子妃の座は必要ありません。

私は、自分の身は自分で護れます。迷惑はかけません。

ただ…、野山に…、研究材料があるところへ自由に行かせて下さい。」


「今は無理だ、その位はわかるであろう。そのうち…時が経てば…。

それまでは、ここでおとなしくしていておくれ、父がたまに遊んでやろう。

森にて、魔獣と格闘のオプション付だがなっ、あはははは。」


「ありがとうございます。私はこの国に害を及ぼすつもりはありません。

それだけは信じてください。」


「これからのアイラを見せてもらう。私も娘を信じたいからな…。

それに、私は約束を守れない子にはお仕置きはきっちりする。

勝手に王城より、いや、後宮より出てはならない。よいな。」


将軍の子供扱いの言葉が妙に嬉しいアイラだった。


「皇太子殿下にもお願いいたしましたが、植物を土をください。

没頭できる物が欲しい…、研究で時間の感覚もない程に疲れ…

くたくたになり…眠りたいのです…。」


それは彼女の本心だと将軍は思った。

落ち着いて見えても、まだ二十代。

自分の運命を嘆き、苦しんだアイラを垣間見たのであった。


「アイラよ、このベネディクト・マクダーモットの名が

お前をこれから護るであろう。

私を選んで正解だったな。あはははは。」


「はい。」


嬉しそうに微笑むアイラに上機嫌な将軍であった。




笑顔の紳士と妖艶な美女。


「グリンスと呼んでもいいかな?」


「はい。バグウェル公爵。」


「私を選んでくれてありがとう。安心して過ごしなさい。」


「はい、ありがとうございます。

わたくしも、皇太子妃になれるよう一生懸命頑張ります。」


「あはは、そんな頑張らなくてもいい、気楽に構えてなさい。」


何をこの人は言っているの?どうして頑張らなくていいの?

皇太子妃なのよ、身内から王族に嫁がせたくはないの?


信じられないと言うように途端に怪訝な顔になるグリンス。


「グリンス、言いたい事があるのなら、ちゃんと口に出さないと

私は、わからないよ。」


「どうして…、頑張らなくていいって言うのですか?皇太子妃の座です…」


「そんなに皇太子妃という立場は大事なのかな?」


「え? 一族にとっては喜ばしい事ではないのですか?」


ますます目の前で先程から笑顔を絶やさない紳士の事が不思議でならない。

不思議を通り越して、頭がおかしいのではとさえ思えてくる。


「皇太子に心から愛されて嫁ぐのであれば、勿論それは喜ばしい事、

しかし…、一族の為だとか…そんな理由で愛のない婚姻はありえない。

皇太子に愛がなくグリンスとの婚姻の話しが出た場合、

私は父として全力で反対させてもらう。こっちからお断りする。」


「どうして……。愛……。愛がそんなに大事なのですか?」


グリンスのその言葉にさっきまでの笑顔が消えていく。


「一生そばに居る相手、愛がないと無理でしょう。

子供なんかとてもじゃない、作る作業すらできないはず。」


きっぱりと言い切るバグウェル公爵にますます眉間の皺を深くするグリンス。


「そんな事…許されるのですか?国を挙げての召還ではなかったのですか?」


「そうだね、国を挙げての事業だった。私はその中心に居た人物なんだよ。

これでもこの国の神官長ですからね。」


「え? 神官長様? 」


「ええ、そうです。だが我が国の国王陛下は、もしこの召還で

皇太子殿下の正妃が決まらなくても、それで罰を与えるような方ではありません。

殿下と女性の間に愛が生まれての婚姻だというお考えなのです。

こんな事、異世界から召還したあなたに言うべきではありませんね…。」


急に泣きだすグリンスに、神官長は


「大切な家族と住み慣れた家から無理に連れてきた事申し訳なく思ってます」


神官長の言葉に首を横に振るグリンス。

違うとだけ言い泣き続けている。


「私は…、幼い頃より…王位継承権がある王子に嫁ぐよう厳しくしつけられました

父、母…一族の期待を背負い、皇太子妃になるべく教育を受けてきました。

それが私の存在価値だと、父から言われ…

母からは、何が何でも皇太子の寵愛を受けろと言われ続けました…。

でも…、皇太子妃が選んだのは…私ではなかったのです…。」


唇を噛み必死で堪えながら、それでも言葉を繋げていく。

今まで心の奥底に隠していた言葉。

一生、誰にも言う事はないと思っていた。


「存在価値がなくなった私は…、必要とされなくなりました…

父も母も…、私を見ようともせず…。

家にいながら…居場所がなくなりました…。

私は…、何の為に産まれてきたのか…。

どこかで…わかっていました…。ずっと…見ないようにしてきました…。

ただの…、権力を得るための…道具だと言う事……。


だから…、この世界に連れてこられて…私は嬉しかったのです。

今度こそ…、皇太子妃にならなければと……、思いました…。

もう…二度と…失望させたくなかった…。家族を…。」


静かに聞いていた神官長。

グリンスの心の痛みを感じとっていた。


「そうでしたか…。よくわかりました。

グリンス、安心しなさい。私はそれを望んではいない。

お前が皇太子妃にならなくても、困る事など一切ない。

神は、愛ある婚姻を一番にお考えです。

私は神官長、神の教えを信じてます。

ましてや、我が娘、父として、娘の幸せが一番の願い。

心より愛し愛される相手と結婚はするべきです。

私もそれをあなたに望んでます。」


ずっと…夢に描いていた…。

ずっと待っていた……、私が一番欲しかった言葉…。



「ありがとうございます。

私は……あなたの娘になれて…嬉しい…です。」


にっこり微笑む神官長。


「私も幸せです。私達夫婦には、子供が授かりませんでした…。

妻は、今回の事を聞いて大喜び、あなたに会えるのを楽しみにしています。

皇太子妃の嫁候補だと聞いて、がっかりしてまして

一生嫁に行かなくてもいいと言ってるくらいですよ。」


その言葉に嬉しくてまた涙がでてきた。

ぽっかりと空いた心に染み込んでいくような感覚…。


「私も会いたいです…。」


「すぐに会えますよ。」


神官長が嬉しそうに言葉を伝える。


「グリンス、こんな風に感じませんか?

私達は会うべくして会ったと…。

神はこの召還で、私達に家族を与えてくれたと…、ね。」


グリンスが現実から逃げる為に頭の中に作り出した優しい父と母

自分を守る為にその父母と妄想の中で暮らしていた。

それが現実となっていく。


夢なのかと手のひらを抓ってみたら…、ふふ…痛かった…。







ふうふうと噴出す汗を拭いながら、にっこりと微笑んでいる。

まん丸とした身体に愛らしい目鼻が印象的である。

意外と若い後見人、父親とは言えない感じであった。。


大きいですわ…。近くで見ると…。迫力があります…。


ガートルードは後見人に決まった紳士と向かい合い

そんな事を考えていた。


「はじめまして、私はバートラム・ダベンポート、

家族となれた事嬉しく思ってます。」


「ありがとうございます。私の方こそ感謝しています。」


目の前のお茶をぐぐっと飲み、また汗を拭く。


「あはは、太っていると汗をよく掻いてね、喉も渇いて大変。」


「大変ですね…。」


それしか言えないガートルード。


「美味しい物って、それだけで幸せになるしね。そう思わない?」


「そうですね。」淡々と返事をしていく。


「だから、ガートルードも、難しく考えないで

好きな事を見つけて、気楽に楽しく過ごして欲しい。」


「え?」


「だって、たった一度の人生、笑っていれたら幸せ、ほら、笑ってごらん。」


笑ってごらんって言われても…、一応笑顔なんですけど…。


「私……、笑えてないですか?」


「どうだろ…、それは笑っているのかな?

確かに口角はあがってる、でもなんか違う。

ガートルード、怖がらなくていいから…。」


「私…怖がってますか?」


なんなんだろうこの人……。


「私にはそう見えてるんだけどな……。

だって、それは怖いでしょう。当たり前です。

見知らぬ場所で、いきなり家族になれと言われ、

怖がらない人はいません。普通の感覚ですね。」


「普通……、普通にしてなさいって事ですか?」


「勿論、そしてやりたい事を見つける事です。

私は、お金だけは無駄に持ってますので遠慮しなくていいですよ。」


びっくりして驚いている私に


「あはは、その顔はいいですね。それでいいんです。」


私の後見人になった人はとっても変だった。

でも、表も裏もなく正直みたいでホッとした…。


太った人は、嫌いではないと思った。

汗かきも可愛いと思えてきた。


「ガートルード、今度陛下から許しが出たら、美味しい物を食べに行こう。」


嬉しそうに話す太って汗かきの紳士。

私は、今日からこの人の家族なんだ。










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