№13
椅子にちょんもり座り、心もとない感じで座っている。
腕組みをし、仁王立ちの彼は、そんな姿を目の前にしても、その態度を変えるつもりはない。
「悪かったわ……。そんなに怒らなくてもいいでしょ……。」
彼の母は、まるで少女のように口を尖らせている。
彼の母であるこの国の王妃は、確かに聡明であり、国民の信望も厚く慕われている。
しかし、どっか変であった。
彼の父、国王陛下は、そんな母を無条件に受け入れ溺愛している。
彼自身も母である王妃の事は誰よりもよく知っている。知りすぎている。
今更、母のこんな行動驚くはずもないのだが、今回だけは違っていた。
「怒られているという…自覚はあるのですね…。」
見目麗しい顔が怒ると、平凡な顔よりも怖い。
「あるわよ……。デュークの顔を見たら…そのくらいわかるわ…。」
「私が母上に頼んだのが間違いだったようです。」
「デューク…、そんな寂しい事言わないで…。母は…あなたの為を思って…」
「ええ、そのお気持ちは私もわかっています。ただ…、なんであんな時間にっ」
「だって…、あれでも…朝まで一生懸命待ったのよ…。」
息子相手に、拗ねたような口ぶり。
「五時ですよっ、五時っっ。みんなまだ寝てる時間ですっ。」
彼に責められているのに、何かを思い出したように、目が笑っている。
「ええ、ユリアの可愛い寝顔を堪能できましたわ。長い睫毛がふるふる揺れて可愛かったわ、今度はデュークも一緒に行きましょうね。ふるふる睫毛を見に。」
………。…可愛いのは…当然の事…。
長い睫毛がふるふる……。ふるふる……。それは…可愛いでしょうね…。
ええ、勿論私も行きますよ。
………、何を考えてるんだっ、私はっ……。
彼は軽く咳払いをしては、思考を元に戻していく。
「母上…、もう二度とこのような事はおやめください。普通の時間に訪問してください。」
「ええ…今度からそうするわ…。」
「で、例の件はわかりましたか?」
何?と言うように首を傾けてく王妃。
「何をしに行ったのですかっ、朝五時からっ。」
ああっと思い出したように手をパンと叩く。
「そうそう、その事なんだけどね、ユリアは魔法にとっても興味があるみたいよ」
「魔法にですか?」
彼は王妃から、事の詳細を聞いた。彼女が魔法に興味を持ってしまった事を。
「魔法の仕様書ではなく、魔法とは何かを知る事が先ですわ。」
難しい表情で聞いていた彼が
「ええ、そこをわからずに使い方だけ覚えると…、人として間違った方向へいくでょうね」
先程までとはまったく違う厳しい表情の王妃が頷く。
「書物に関しては…、わたくしが選びます。」
「それを、私が彼女へ渡す…。」
「ええ、そういう事です。」
にっこりと笑う王妃。
彼はニヤリと笑い王妃へと視線を合わす。
「私もこの件に関わる…、それが狙いなのですね。母上…。」
「あら、何の事かしら? 私は可愛い息子のお願いを聞いただけですわ。」
ふふふといつものように笑ってはいるが、その纏う空気が違う。
こんな時の王妃は、聡明で博識な部分を隠すことなく
たとえ、それが愛する息子だろうと、何も言わずに黙って従えと威圧している時。
「わかりました。私がユリアに届けましょう。」
彼も王妃の意図するところは理解できている。
突然この世界にやってきた異世界人、愛国心もない者が魔術を学ぶ。
その力量と思考によっては、危険極まりない。
下手すれば、この世界から抹殺されかねないからである。
ユリアの盾となる事には、何の文句もありません。母上だけでなく、私も関わっているとなると、いざと言う時に彼女の盾になる人物は多いほうがよい。
「ただね…、ユリアの魔力が…あまりにも感じられなくて…。」
王妃が辛そうな声をだした。
それに対して皇太子は口角を上げていく。
「良い師が付けば多少は違うとは思いませんか?」
「良い師…そうね…。では、私が、」
王妃の言葉を遮るように皇太子が言い放つ。
「私がユリアの師になりましょう。この国最強の魔術師、適任ではありませんか?」
「え? 皇太子自ら? あなた…本気で言ってるの?」
「勿論、何か問題でも?」
問題大有りでしょ…。皇太子の執務はどうするのよ…。
ユリアを独り占めしようたって、それはこの母が許しませんわっ。
大事な嫁候補だと言う事をすっかり忘れている王妃。
皇太子のこの行動に何故気づかないのか…。
「デュークは執務が山のようにあるでしょ?そんな負担はかけられないわ」
「その事なら問題ありません。空いた時間に魔術を教えますので。」
まあ…、なんて聞き訳のない子なのっ。
母はそんな子に育てた覚えはありませんわっ。
「母上、絶対間違いを起こさない者が教えるのが良いのでは?適任者は私、それと母上。」
えっという表情をした王妃
「まあ、協力体制って事ね、独り占めは認めませんわ。ふふふ」
「話がついたと言う事で、宜しいですか?」
「ええ、勿論よ。」
彼と王妃は言葉なく頷きあった。
「では、母上、失礼します。」
そんな彼に王妃が声をかける。
「デューク、他の三人の令嬢、忘れてはなりませんよ。異世界人は四人居ますからね。
ユリアはあくまで、四人の内の一人なのですよ……、表立たぬよう、こころ配りなさい。」
「わかりました。そのように。」
瞬時に消える皇太子。
四人の異世界人達……。
この世界にて、一人でも生きていける力をつけてくれる事を願う…。
身勝手な言い分だとわかってる…。
この世界に呼び寄せる原因を作ったのは……私なのだから……。
皇太子は一人しかいない。




