№12
ん……、誰……?
ポンポンと寝かしつけるように身体に受ける感触。
きっと母親だろうと、安心しきっていた。
その優しいリズムが気持ちよくて、また意識を手放そうとしていた。
まてよ……、ここは……異世界っっ!!!
眠気が一気に吹き飛んだ、リズムを奏でる人物……誰?
恐る恐る目を開けてみた。
「ぎゃーーー、おうひさまーーーーーっっ。」
飛び起きた私の目の前で、驚いて目を大きく見開いている綺麗な人。
………、なんで……居るの…。
「ユリア…どうしたの? 叫んだりして…怖い夢でも見たの?」
勝手にユリアの寝室に入り込んでる自分の事は棚に上げて、心配顔で問いかけた。
いいえ…、あなたの存在が怖かったのです…。王妃様……。
なんて事はさすがに言えません…。
「すみません…。驚かせて…。」
こんな時も立派に日本人な彼女、謝る事を忘れない。
近づいてくる足音。
「ユリア様、大丈夫ですか?」
「ユリア様、どうされましたか?」
バタバタと寝室に入ってくる、サラと護衛の騎士たち。
王妃の存在に彼等も驚いた様子だったが、王妃を目の前に立ち尽くす事しかできずにいた。
王妃様……、何故ここに……、しかも…こんな早朝から……。
動いたのは女官のサラであった。
「王妃様、おはようございます。」
サラのじとっとした視線に気づいた王妃が
「おはよう、サラ…。ふふふ、少し早く来すぎたみたいね…。ふふふ。」
「王妃様…、少しどころではありません。まだ六時前です。」
「まあ…、私…時間を間違えたようですわ…。ごめんなさい…。」
まったく反省してない様子の王妃に、それでも遠まわしに小言を言うサラであった。
「私共も、まだこのような格好です。着替えてすぐにお茶をお持ち致しますので、お待ちください。」
優雅な動作で頷きいつも通りの微笑みを浮かべて楽しそうな王妃。
サラの遠まわしな小言に気づきもしない。
「ゆっくりいいのよ、私はユリアの寝顔を見ているだけで楽しいのですから…。」
「ユリア様、もう少しおやすみになってください。まだお召し物の準備ができておりませんので…」
「はい…。」
…て言われても…、王妃様を前にして眠れない…。
いくらこの国の者じゃなくても、王妃様の凄さくらいは認識できている…。
だって…、この国の王様のお嫁さん…。
相変わらずマイペースな王妃が突然声をあげる。
「ジャジャーーン、料理長特性のパンケーキよ。さぁ一緒に食べましょう。」
パンケーキッ!! まさか…料理長を起こしてまで作らせたとか……。
この人ならやりかねないかも……。なんて迷惑な…。
「ああー美味しそうな匂い、ほら、ほかほか温かいのよ。ふふふ。」
彼女の目の前にパンケーキを差し出しては、嬉しそうに笑っている。
「クン……、あ……、甘い匂い…。」
おもわずその匂いを嗅いでしまう、きゅるるとお腹が鳴り、恥ずかしくて堪らない。
うぅぅ、王妃様の前で…。
「甘い匂いでしょ~~。絶品で美味しいのよ~。ふふふ。さあ、食べましょうね」
差し出されたふわふわのそれを遠慮がちに受け取ると、焼きたてのようにほかほかしていて驚いてしまった。王妃様が持ってきた籠…。保温機になってるのかな?、いたって普通の籠だと見た目で判断した自分を反省してしまった。文明が発達してなさそうで、実は、高性能機器が城のあちこちに隠れているんじゃないかと思ってしまう。それくらい、このふわふわでほかほかのパンケーキは焼きたて感に溢れていた。
しばし至福の時間の二人。はふはふとパンケーキを食べている。
「王妃様っ、パンケーキ!!」
いつものきちっとしたサラが、王妃に向かって叫んだ。
「サラ達の分も持ってきたのよ。沢山あるわよ~~~。」
「あぁぁ、寝具の上で……。せめてテーブルで食べてください。」
「あはは…、そうね…、ごめんなさい。」
「悪いとお思いでしたら、ご自分で後片付けお願いしますよ。」
「後片付けね、任せて。」
二人の会話にオロオロとしている私にサラさんが大丈夫と言ってくれた。
でも…、王妃様に後片付けなんて、不敬罪とかで捕まりそうなんだけど…。
ベッドから出るように言われ出たけど、どうしたらいいのかわからない…。
「王妃様、私が片付けます。」
彼女は王妃とサラへと視線をいったりきたりさせている。
「ユリア様、これは王妃様にやって頂きます。」
キッパリと言い切るサラに何も言えない私…。
「はいはい、では後片付け致します。」
パチン その場で王妃が指を鳴らした。
え?何が起こったの? パチン?……。
彼女は王妃が鳴らす指の音とともに、ぐちゃっとなり、パンケーキのくずが散乱していた自分のベッドが
瞬時にして綺麗にベッドメイキングされたのを目の当りにした。
「お見事でございます。ユリア様、王妃様がなさるのが一番早いんですよ。」
え? 何がおきたの? 何を言ってるの?
「サラもできるでしょ。」
何の事なの…? 私はまったく理解できずに、綺麗になったベッドを見ていた。
「ここで魔法は使っておりませんので、手作業では時間がかかります。」
「えっ?まほーーーーーーっっ?パチンって、ええーーーーっ!!!」
彼女は、初めて目にした光景よりも、魔法と言う言葉に思考が停止したようだ。
「ユリアっ、ユリア? 大丈夫? ユリアーーっ。」
肩をがくがく揺さぶられてやっと我にかえった私……。まさか魔法だなんて…。
いくらなんでも…ファンタジーすぎるーーーーーーっ。
何度も目をパチパチと瞬きをしていたかと思うと急に王妃へと向き距離を縮める。
「王妃様っ、凄いです。もう一回見せてください。そのパチンてっやつ。」
興奮したのか、真っ赤になっている。
「まあ! ふふふ、ユリア、魔法は初めて?」
「はい。もう夢みたいです。信じられないです。」彼女の瞳はキラキラと輝いていた。
「では、いくわよ~~~。それっ」
パチン 王妃の手に馬のような人形が現れた。
「おおーーーーーっっ☆彡 お人形がーーーっっ。」 キラキラキラキラ
パチン 綺麗な鉢植えの花がテーブルの上にポンと出てきた。
「キャーーーーー、まほーーーーーっ、まほーーーーっ。」キラキラキラキラ
「そんなに喜んでくれるなんてっ、わたくし嬉しいわ~~。」満足顔の王妃。
「王妃様、魔法について教えてください。」キラキラキラキラ
凄い、凄い、すごーーーーいっっ。魔法ーーーーっっっ。
自分でも、おかしい程にテンションが上がっていくのがわかる。
でも、でも、知りたいっ。魔法に対しての欲望が半端なく湧き上がってくる。
ドキドキと心臓がまだ落ち着かない彼女。
頭の中は魔法でいっぱいになっていた。
サラの厳しい視線を浴びている王妃。王妃にもその理由はわかっていた。
しかし、彼女のそんな瞳を見てしまったら、断る事などできない王妃であった。
王妃の言葉を待っている彼女の瞳、期待で満ち溢れ輝いていた。
「まずは知る事が大事ね。わかりました、魔法についての書物をユリアにプレゼントするわ。」
「ありがとうございます。」何度も何度もお礼を言う彼女。
サラが気にしている事、それはユリアに魔法を使う事のできる魔力が殆ど感じられない事であった。
努力でどうにかなるかと言われたら、ならない事もないが、ユリアのように無いに等しい者にとっては血の滲むような努力と修練が必要となるからである。幼少の頃より魔法に親しんでいる者と違い、魔法についての発想やイメージもゼロからのユリアにとっては、修行の前に、王妃が言うように知る事が先決であった。
生きる希望と言っては、大袈裟かもしれないが、今の彼女にとっては、一番大切な事。
何か目標ができる。それがどれほど彼女に必要な事かは、王妃もサラもわかっていた。
ああーーーーーん、魔法ーーーーーっっ、楽しみーーーーっっ。
そんな楽しげなものがこの世界にあるなんて、
地獄に一筋の光だしーーーっ、ぜーーーたい、魔法使いになってやるーーーっっ。
箒に乗れるかも、魔法学校とかに行けるかも、キャーーー、最高っ。
やっぱ、電車に乗って行くのかな? 何番乗り場だったっけ…。
どっかの映画の世界へと入り込んでいる彼女だった。
場は変わり、ここは王の寝室。
「父上、父上、起きてください。」
「んーー…、おはよう…。デューク……。」
「母上は、何処に?」
「早くに出かけて行った、私も一度起こされて眠くてかなわんよ…。」
やはり……、早朝から……。いったい何時に……。
「母上は何時に出かけらたのですか?」
「五時くらいかな…。たぶん……」
「五時っっ!!!………。」
ありえない……。迷惑な……。五時だなんて………。
今頃……。ユリア……。
自分の迂闊な行動を思いっきり反省し、頭を抱える皇太子であった。




