落ちた学生証 ~写真が呼び起こす昔の記憶~
「楓ちゃん!」
彼女にまた逃げ出されないよう、まずは様子を見ることにした。
楓ちゃんはブランコに座ってゆらゆらと揺れていて、とても楽しそうだ。
その時、不意に私の携帯が鳴り響いた。
音に気づいた楓ちゃんは、ブランコを揺らす手を止めた。
「だ、誰! 誰かいるの!」
楓ちゃんは鋭く声を張り上げながら、音のする方へ視線を向ける。
キョロキョロと辺りを見回して、明らかに動揺している様子だ。
やがて携帯の音は鳴り止み、彼女は再びブランコを揺らし始めた。
私は茂みの中に身をかがめ、息を殺して緊張していた。
このままじゃダメだ。これじゃいつまで経っても彼女を呼び戻して、仕事を割り振れない。
意を決して茂みから立ち上がり、楓ちゃんに声をかけた。
「楓ちゃん……」
声に気づいて、楓ちゃんがこっちを向く。
「佐藤くん!? どうしてここに……!」
楓ちゃんはブランコから飛び降りると、また逃げ出そうとした。
「もう逃げないで、楓ちゃん。戻ろうよ」
楓ちゃんは走り出し、私は慌ててその後を追いかけた。
楓ちゃんが遊具のエリアから別の場所へ移動する際、ちょうど工事中のデコボコした地面を通りかかった。慌てていたせいか、わずかに盛り上がった土块につまずき、彼女は勢いよく転んでしまった。
「楓ちゃん、楓ちゃん! 大丈夫!?」
私は急いで駆け寄り、彼女の怪我を確認した。
幸い大事には至っておらず、膝を少し擦りむいただけのようだった。
「楓ちゃん、保健室に行こう」
楓ちゃんが返事をするよりも早く、転んだ衝撃でまだ痛みがあるだろうと思い、私は彼女を支えて保健室へ向かった。
その時、足の下に何かが当たったような感触があった。
拾い上げてよく見ると、それは学生証だった。誰のものか確認して紛失物係に届けようと思い、目の前に掲げてじっと見つめる。
……えっ、これ楓ちゃんのじゃないか。
学生証には本人の写真の他に、もう一枚別の写真が挟まっていた。
写真には小さな女の子が写っていて、どうやら楓ちゃんの幼い頃のようだ。写真の半分は折り返されていて、中身は見えない。
写真の女の子をじっと見つめ、こんなに可愛かった楓ちゃんの幼少期に思いを馳せていると――
突然、脳裏に稲妻が走るような感覚に襲われ、ある記憶が蘇ってきた。
私がまだこの学校に通う前、地元の小学校に通っていた頃のこと。隣に住む親友も同じ学校で、いつも一緒に登下校し、川遊びをしたものだ。だがその後、親の仕事の都合で彼女は引っ越してしまい、それっきり音信不通になってしまった。
その思い出に浸り、私は思わずにやりと笑ってしまった。
「佐藤くん、何を笑ってるの?」
楓ちゃんはさっき足を痛めたせいで痛みを堪えており、いつもなら私が何をしているか気にする余裕もないようだった。
私は慌てて答える。
「いや、何も。さっき地面で学生証を拾ったんだ。多分、転んだ時に落としたんじゃないかな」
「よかった、なくさなくて」
「この学生証、私にとっては大切なものだから」
楓ちゃんの口の端が、ほんのりと緩んだ。
「もうすぐ保健室だよ、楓ちゃん、大丈夫?」
「うん、まだ大丈夫」
やがて保健室に到着した。今日は優花先生が当番のようだ。
「優花先生、楓ちゃんが工事中の地面で転んでしまったんです。見てあげてもらえますか?」
「ええ、もちろん。先生の仕事だからね」
「じゃあ、まずは怪我の状態を見せてもらおうか」




