↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/9

第一話 二回も追放された件!

「もう一回やってみろ」


「いや、今日だけで二十回やってるんだけど」


 十五歳の誕生日だというのに、俺は夕食も食わず、父さんと母さんの前で右手を突き出していた。


「魔力を感じろ」


「だから、その魔力が分かんないんだって」


「身体の中にあるだろう」


「それ今日五回聞いた」


 父さんが眉を寄せる。


 俺だって好きで使えないわけじゃない。


 この世界では、火を出したり水を操ったりする程度の魔法なら珍しくもない。魔法が苦手な奴でも、魔力を身体へ流して力や速さを上げる〈身体強化〉くらいは使える。


 なのに俺は、何一つできなかった。


 十歳なら、まだいい。


 十二歳でも、少し遅いくらい。


 十四歳になると、村のみんなが心配し始めた。


 そして今日、十五歳。


「……火」


 手のひらを見る。


 何も出ない。


「火!」


 やっぱり出ない。


「ほら」


「ほら、じゃない!」


 父さんが大きく息を吐いた。


「本当に練習しているのか?」


「毎日してるって」


「じゃあ、どうして使えないの?」


 母さんまで困った顔で俺を見る。


「知らないよ!」


 そう答えてから、俺は黙った。


 原因なんて分からない。


 ただ、一つだけ普通の人と違うところがある。


 俺には、この世界で生まれる前の記憶があった。


 前世は日本人。


 車も電車もスマートフォンもある世界で生きていた。


 当然、魔法なんて存在しない。


 十五年間、誰にも話してこなかった。話す必要がなかったからだ。


 でも、この世界の人間なら当たり前に分かるという〈魔力の感覚〉が俺だけ分からない理由があるとしたら、それくらいしか思いつかない。


「……たぶんなんだけどさ」


 二人が俺を見る。


「俺、普通の人とちょっと違うんだよ」


「どういう意味だ?」


 言うか迷った。


 でも、このまま毎晩「魔力を感じろ」と言われ続けるのも面倒くさい。


 別に悪いことをしているわけでもない。


「俺さ、前世の記憶があるんだよ」


 二人とも黙った。


「……前世?」


「そう。一回死ぬ前の記憶。向こうには魔法なんてなかったんだ。だから俺だけ魔力の感覚が分からないんじゃないかと思って」


 我ながら、かなり分かりやすく説明したつもりだった。


 これで少なくとも、俺がサボっているわけではないと分かってもらえる。


 ところが母さんは、なぜか少し俺から離れた。


「それ……いつから覚えてるの?」


「小さい頃から」


「赤ちゃんの頃も?」


「まあ、ぼんやりとは」


「私がお風呂に入れてた時も?」


「そんな細かいところまで全部覚えてないって」


 母さんが自分の胸元を見る。


 嫌な予感がした。


「じゃあ……私のお乳を吸ってたのも覚えてる?」


「……」


 考える。


 ものすごく曖昧だが。


 ある。


「あ」


 今まで一度も気にしていなかった。


 前世では大人だった。


 その記憶を持ったまま、母親の乳を。


「……確かにちょっと気持ち悪いな」


「気持ち悪い!」


「待って! 今俺も初めて気づいたんだって!」


「私、着替えも見られてたの!?」


「母親の着替えなんか見ねえよ!」


「前世では何歳だったの?」


「そこ関係ある!?」


「あるわよ!」


「いや、まあ……大人だったけど」


 母さんの顔がさらに引いた。


「大人……」


「その顔やめてくれない?」


 思っていた反応と全然違う。


 魔法が使えない理由を説明していたはずなのに、いつの間にか俺が気持ち悪いかどうかの話になっている。


 助けを求めて父さんを見る。


 父さんは、さっきから黙ったままだった。


「父さん?」


「……お前は誰だ」


「は?」


「本当に、俺たちの息子なのか?」


「当たり前だろ!」


「だが、お前の中には俺たちの知らない大人の記憶がある」


「記憶だけだよ!」


「なら、今ここにいるお前は誰なんだ」


「俺だって!」


 まずい。


 説明すればするほど悪化している。


 母さんまで不安そうに俺を見る。


「もしかして、悪魔に……」


「違う!」


 父さんが立ち上がった。


「神父様に相談する」


「なんでそうなるんだよ!」


「俺たちだけでは判断できない」


「いや、判断も何も俺は俺だから!」


 結局、その日の夕方。


 俺は両親に連れられて村の教会へ行くことになった。



 神父は最初こそ穏やかだった。


 前世とは何か。


 どんな世界だったのか。


 誰かの声は聞こえるか。


 身体を乗っ取られている感覚はないか。


 聞かれたことに全部答えた。


「だから、普通に俺なんですって」


「なるほど」


「悪魔じゃないですよね?」


 神父は黙った。


「……え?」


「少なくとも、私の知る祝福ではありません」


「じゃあ何なんですか」


「分かりません」


「分かんないなら終わりでいいじゃないですか」


「そういうわけにはいきません」


 神父は俺ではなく、父さんを見る。


「前世の記憶を持つ者など、この地方では聞いたことがありません。それに、この子は魔力をまったく感じ取れない」


「はい……」


「悪魔憑きとは断言できません。しかし、異端である可能性は否定できない」


「ちょっと待って」


 話が大きくなってきた。


「異端って何?」


 その日の夜、神父と村長、それから村の年長者たちで話し合いが行われた。


 俺は家で待たされた。


 母さんはほとんど喋らない。


 父さんも落ち着かない様子で酒ばかり飲んでいた。


「いや、大丈夫だって」


 誰に言ったのか自分でも分からなかった。



 翌朝。


 玄関の外に荷物が置かれていた。


 剣。


 着替え。


 干し肉。


 水袋。


 少しの銅貨。


「……何これ」


 嫌な予感しかしない。


 家の前には神父と村長が立っていた。


 父さんと母さんもいる。


「昨夜、話し合った」


 村長が言った。


「お前には、しばらく村を離れてもらう」


「……俺が?」


「ああ」


「なんで?」


「教会から、異端の疑いが晴れるまで村へ置くべきではないと判断が出た」


「疑いだけじゃん!」


「皆が怖がっているんだ」


「俺も怖いよ! 十五歳で急に追い出されるんだから!」


 父さんを見る。


「父さん、さすがにこれは止めろよ」


 父さんは目を逸らした。


 母さんも泣きそうな顔をしている。


 でも、止めなかった。


「十五年一緒にいたじゃん」


 それでも何も変わらなかった。


 俺は荷物を背負い、剣を腰へ差した。


 村の出口まで歩く。


 一度だけ振り返る。


 昨日の俺は、説明すれば分かってもらえると思っていた。


 我ながら名案だと思った。


「いや、マジか……」


 余計なことを言わなければ、少なくとも今日追い出されることはなかった。


「ミスった」



 村を出てから二日。


 途中で犬みたいな魔物三匹に追いかけ回され、通りかかった馬車の護衛に助けてもらいながら、俺はどうにか近くの町カルナへ辿り着いた。


「仕事どうしよう……」


 持たされた金では、一週間も暮らせない。


 農作業くらいしかやったことがない十五歳を雇ってくれる店なんて、そう簡単には見つからなかった。


 そこで目に入ったのが、剣と盾の看板だった。


 冒険者ギルド。


 魔物討伐や護衛、薬草採取なんかの依頼を受けて金を稼ぐ場所だ。


 俺には剣がある。


「……これしかなくね?」


 受付へ行く。


「十五歳?」


「はい」


「魔法は?」


「使えません」


「身体強化は?」


「使えません」


「剣術は?」


「村で少し」


 受付の女が困った顔をする。


「正直に言うね。冒険者、あんまり向いてないと思う」


「俺も今そう思いました」


「家へ帰った方がいいんじゃない?」


「追い出されました」


「何したの?」


「前世の話したら異端になりました」


「……」


「あ、その顔もう見慣れました」


 それでも登録はできた。


 最初はF級。


 薬草を採った。


 荷物を運んだ。


 小さな魔物を倒した。


 怪我もした。


 金もなかなか貯まらなかった。


 それでも続けた。


 三か月ほど経った頃、四人組の冒険者パーティーに誘われた。


 剣士。


 槍使い。


 弓使い。


 魔法使い。


 そこへ俺が入って五人。


「身体強化は?」


「無理」


「じゃあ前には出過ぎるなよ」


「分かった」


 最初はそれだけだった。


 でも俺は、そのパーティーに残りたかった。


 一人より安全だったし、報酬も安定した。


 何より、仲間がいるのが思っていたより嬉しかった。


 だから真面目にやった。


 荷物を持った。


 野営の準備をした。


 夜番も多めに引き受けた。


 誰かが怪我をすれば肩を貸した。


 魔法が使えない分、できることは何でもやった。


 半年。


 一年。


 二年。


 十七歳になった頃には、俺たちもC級目前まで来ていた。


 俺の剣もそこそこ使えるようになった。


 魔法だけは、相変わらず一つも使えなかった。



 その日の依頼を終えたあと。


 いつもの酒場でリーダーに呼ばれた。


「話がある」


「何?」


「新しい奴が入ることになった」


「へえ」


「魔法剣士だ」


「いいじゃん」


「身体強化もできるし、剣もお前より上手い」


 そこで何となく分かった。


「だから悪いけど、お前もういいわ」


 少しだけ、酒場の音が遠くなった。


「……俺?」


「ああ」


「抜けろってこと?」


「そう」


 他の三人を見る。


 誰も俺と目を合わせなかった。


 二年間。


 一緒に戦った。


 雨の中で野宿した。


 報酬が少なくて、五人でパンを分けたこともあった。


「俺、何かやった?」


「いや」


「役に立ってなかった?」


「そういうわけじゃない。ただ、もっと使える奴が見つかったんだよ」


 分かりやすかった。


「……そっか」


「悪いな」


「いや。いいよ」


 本当はよくなかった。


 でも、その場で怒鳴ったところで何も変わらない。


 俺は荷物を持ち、酒場を出た。



 宿へ戻り、ベッドへ座った。


 十五歳で村を追い出された。


 それでも腐らなかった。


 魔法が使えなくても、別のことで埋めればいいと思った。


 二年間、真面目にやった。


 できることは全部やった。


 それで。


『もっと使える奴が見つかった』


 だから、もういい。


 しばらく天井を見ていると、だんだん笑えてきた。


「二回目じゃん」


 十五歳で村。


 十七歳でパーティー。


 真面目にやっても、結局いらないらしい。


 腹の奥に溜まっていたものが、ゆっくり上がってくる。


「……なんなんだよ、このクソ世界」


 もう誰かに選んでもらうのはやめる。


 魔法が使えないなら、使えるまでやる。


 弱いなら、強くなるまでやる。


 誰にも合わせなくていい場所へ行こう。


 町の北には大きな山がある。


 魔物もいるし、人もほとんど来ない。


 ちょうどいい。


 俺は壁に立てかけた剣を見る。


「三年くらい、こもるか」


 口にしてみると、思ったより悪くなかった。


 それに。


 魔法そのものは十五年間、一度も使えなかった。


 でも、使えるようになった時に何をするかだけは、昔から死ぬほど考えてきた。


 前世で見た漫画。


 アニメ。


 ゲーム。


 手に集める。


 拳にまとわせる。


 地面から吹き上げる。


 両手の間へ溜めて、一気にぶっ放す。


 やってみたいことなら腐るほどある。


 問題は一つだけだった。


 俺は自分の手を見る。


「魔力さえ分かればなあ……」

ここまでお読みいただきありがとうございます!

少しでも「面白そう」「続きが気になる」と思っていただけたら、ページ下部の【ブックマーク追加】や、評価欄からポイント(★★★★★)をいただけますと大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。