チーターと、ぶつかられおじさん
ある市役所の会議。
「絶対に公式支援はできません」
「当然です」
「でも停止率は?」
「92%です」
「事故は?」
「むしろ減っています」
「……なんで?」
担当者が答えた。
「自転車側が、かなり手前から減速するようになったので」
沈黙。
「じゃあ……」
課長が言った。
「色付きの腕章だけ配ったら?」
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先行した自治体では、腕章を配り始めた。
やや色物な市長だったため、全国的にも反応を見ている節はあった。
当然ながら、「ぶつかられ隊」という名称を使わなかった。
おそらく世論に配慮したのだろう。
新しいキャンペーン。
「歩行者優先イエロー運動」
黄色い腕章。黄色い旗。黄色い路面表示。テレビCM。
「横断歩道では、歩行者優先。」
自動車に乗る身からすれば当然なのだが、それだけ自転車の危険運転を問題視していたのかもしれない。
黄色を見る。
自転車が思う。
避けない人かもしれない。
減速する。
止まる。
それだけで、十分だった。
徐々にYouTuberの扇動していた、ぶつかられ隊は、全国から姿を消していった。
最初こそ、目新しさから、名乗っていたが、だんだんと自治体が真似をするようになり
「自分たちの役目は終えた」
と言うようになったし、
「自分と同世代の若い人が政治に関心を持ってくれて嬉しい」
とも言っていた。区議会議員を視野に入れているらしい。
まあ、若い人が野望を持つのは良いことだよな、と吉岡は思った。
徐々に事故率も下がっていったらしい。
杉山の包帯を見ることも無くなった。
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さらに数ヶ月後、保険会社もこの動きを受けて発表を出していた。
当たり屋対策AIと自転車のドライブレコーダーの普及だ。
もちろん、道交法を守らない自転車が悪い。
ただ、中には、率先して当たりに来る当たり屋も増えた。
自治体の制度になったことから、追い風を得た、と勘違いしたのかもしれない。
自転車にドライブレコーダーをつけるようにもなった。
事故映像、歩行速度、視線、過去の接触歴、通院歴。
AIが、故意性を判定する。
道交法を守らない自転車側の過失を可能な限り低くする考えだろう。
ただしばらくすると、当たり屋側も研究した。
自然な歩き方。
自然な視線。
自然な驚き方。
AIが進化する。
当たり屋も進化する。
そのニュースを見ながら、杉山が言った。
「これは自然界と同じだな」
「え、何が」
「捕食者が速くなると、獲物も速くなる」
「当たり屋をガゼルみたいに言うな」
「保険会社がチーター」
「どっちにも失礼だよ」
「進化というのは、善悪を判断しない」
「お前も最近、善悪の判断をしなくなってきたな」




