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正義と、ぶつかられおじさん

真似する人間は、途切れなかった。

一部で、英雄視する声があったからだろう。


最初は、大阪。

次に、名古屋。福岡。札幌。


彼らは、自転車に向かっていくわけではない。

ただ、先に譲るのをやめた。

横断歩道を、一定速度で歩く。

自転車が来る。

歩く。

止まれば、何も起きない。

止まらなければ、危険になる。


---


一部のYouTuberが「令和のぶつかられお兄さん」を自称するものも現れた。

そのYouTuber、SNSで同じく活動をする人には、黄色い腕章を配り始めた。

数字稼ぎのためかもしれない。


SNSでは、一部

ぶつかられ隊

と呼ぶ動きもあったようだ。

吉岡から見ると、揶揄したようにも見えるのだが、呼ばれる側は、画面の向こうで、まんざらでもない顔をしていた。


人気YouTuberの後押しあってか、参加者は、黄色い腕章をつけるようになった。

そこには、こう書かれていた。

「私は避けません。」


当然、自転車利用者の間にも、

情報が回った。

○○駅東口、黄色いるから注意

商店街前の横断歩道、朝ぶつかられ隊いる

あそこマジで避けない


すると、不思議なことが起きた。

黄色い腕章がいる横断歩道だけ、自転車の停止率が、急上昇した。



---


ある大学が、調査した。

ぶつかられ隊が活動する横断歩道。

自転車停止率、活動前、18%。

三か月後、71%。

半年後、89%。

活動していない周辺横断歩道。24%。


ニュースになった。

「ぶつかられおじさん、効果あり?」

自治体は、

困った。

推奨できない。危険だからだ。

しかし、効果は出ている。


---


「どうするよ」

杉山は数字を見ながら、吉岡に向かって言った。


「何が」

「当たり屋が一番社会の役に立ってる」

「役に立っているとは言ってない」

「でも数字は?」

「89%、勝ちだ。」

「交通安全を勝ち負けで考えるな」「お前が始めたんだろ」

杉山は資料を見る。


しばらく考えた。

「なるほど」


吉岡は嫌な顔をした。


「正義には、弱点がある」

「何」

「正しいことをしても、報酬がない」

「普通そうだろ」

「悪いことにも、普通は報酬がない」

「うん」

「ところが当たり屋は、交通ルールを守らせると同時に、本人にも金銭的利益がある」


「犯罪スレスレだけどな」

「だから強い」

杉山は言った。


「善意より、承認欲求や金銭報酬など欲望の方が持続可能性が高い」



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