18万円と、ぶつかられおじさん
数か月後。
杉山を真似する人間が現れた。
そして、その中から、正義の味方を自称する人間も現れた。
その日、杉山とは近くの定食屋でご飯を食べていた。
営業部と経理部が一緒に食事することは珍しいが、杉山は弁当から定食屋に変えたので、時々付き合っている。
「いや、弁当持ってぶつかられたら、傾いたり中身ぐちゃぐちゃになったりするんだよ。」
「やっぱり、弊害あるじゃないか。やめればいいのに。」
と話しかけたところで、ちょうど吉岡たちは席を案内された。
この定食屋は、暑い中、外で待たされることもあるが、日陰になっていることや、目の前の薬局の冷気があること、何より美味しいランチにありつけることから、サラリーマンの憩いのスポットになっている。
定食屋に入ると、テレビはニュースを映していた。
「ぶつかられおじさん」
思わず、吉岡は杉山を見た。杉山は、水を飲みながら黙ってニュースを見ていた。
ニュースのインタビューで、その男性は語っていた
『でも私のような多少頑丈な人間が轢かれて子どもが轢かれないならまだマシかなって。』
どうやら、最近轢かれたらしい。
ニュースは続く。
ぶつかられおじさんを模倣?したインタビューをしている。
内容からなのか、顔はモザイクがかかっていたが、杉山ではなさそうだ。
杉山を模倣する人間の中には、損害賠償を請求する人も現れたのだ。
「ほら」
「何が」
「当たり屋が出てきた」
杉山は画面を見る。
横断歩道。
接触。
診断書。
慰謝料。
示談金十八万円。
そこで、料理が到着した。杉山はこんな暑い日にも関わらずカニクリームコロッケだ。
「これは僕とは違う」
「向こうは、杉山と同じように言ってるぞ」
画面の男が、インタビューに答えていた。
『私は普通に横断歩道を歩いていただけです』
吉岡が杉山を見る。
「お前じゃん」
「違う」
「何が」
「目的が違う」
「外から分からないだろ」
杉山は黙った。
杉山は、熱かったのだろう、カニクリームコロッケを一口齧ると、水を啜っていた。
今回の放送について、杉山にとっては、彼の理論の中で初めて、少し面倒な問題だった。
吉岡が言った。
「お前は社会を良くするために避けない」
「そうだ」
「こいつは十八万円欲しくて避けない」
「そうだ」
「自転車側からしたら?」
杉山は答えなかった。
「どっちも避けないおっさんだよ」
杉山は、食後に出てきたコーヒーを飲んだ。
ズズズ。
「しかし」
「まだあるの?」
「結果は同じだ」
「何が」
「横断歩道で、自転車が止まるになる」
吉岡は、財布を取り出しながら杉山に聞く
「結論、それでいいの?」




