ヒーローと、ぶつかられおじさん
その日の昼食時に、杉山は、昨日の晩飯について話をするように
「そういえば、テレビ局から出演依頼が来た」
と言った。
「やめとけ」
吉岡は止めた。咄嗟のことで、なんとか口から出た言葉だった。
「なぜ」
「お前は文章にするとギリギリまともだけど、喋っていると危ない」
「どういう意味だ」
「昨日、自分を法律だと言った男をテレビに出せるか」
「機能的に、と言った」
「もっと危ない」
が、杉山は出演した。
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司会者が聞いた。
「杉山さん、自転車にぶつかられるのは、危険だと思いませんか?」
「思います」
「では、少し止まれば、いいのでは?」
「それでは、僕が事故のコストを負担することになります」
「コスト?でも止まるなら、事故は起きないですよね?」
「はい、事故は起きません。ただ、僕が立ち止まる」
「そうですね」
「時間を失います」
「たかが数秒ですよ」
「全員が数秒ずつ失う」
「……はい」
「一方、止まらなかった人間は時間を得る」
司会者の表情が、少し曇った。めんどくさい、というのがやや見てとれる。
杉山は続けた。
「つまり、交通違反に近い行動をする人間へ、社会全体が一回数秒ずつ寄付しているわけです」
「寄付ではないと思いますが」
「善意による時間移転です」
またまどろっこしい言い方をしている、と吉岡は思った。
スタジオの端で、コメンテーターが笑った。
頭のおかしなおじさんがきた、と思ったのだろう。
司会は、2,3言葉をつづけたが、これ以上はテレビうけが悪いと思ったのだろう、切り上げてCMに移った。
その日のSNSは、自転車ぶつかりおじさんが少し話題に上ったが数日前の動画の拡散ほどではなかった。
ネットの話題の移り変わりは激しい。
吉岡は、テレビの街頭インタビューでやや肯定的な意見があったことが意外だった。
「子連れだと、信号無視や横断歩道無視の自転車が本当に怖くて...」
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営業部では、不人気なウザ杉山。
だが、経理部では杉山のおかげで、営業部が渋々マニュアルに従うことが増えたそうだ。
経理部では、処理が円滑となり、案外人気らしい。
適材適所ということなのだろうか、自分の部署で人気があって何よりだ。人事部はいい仕事をする。




