ぶつかりおじさんと、ぶつかられおじさん
その週末、杉山の動画が拡散された。
ネットニュースの見出し。
『自転車にわざとぶつかる“ぶつかりおじさん”いて草wwwと話題に』
月曜日。吉岡がスマートフォンを見せた。
「お前、ぶつかりおじさんになってるぞ」
杉山は記事を読んだ。
記事になったのは、拡散された動画が元になっているようだった。
吉岡は、動画を見ながら杉山だと気づいたのは途中からだった。
杉山から話には、聞くが、ぶつかられている様子を見るのは初めてだった。
動画で見るとなかなか衝撃である。
そして、おじさんはぶつかられた後、淡々と持論を述べていた。
「理屈っぽい奴がいるんだな」と思っていると杉山だったので、思わず吹き出しそうになった。
動画は、確かこのような内容だった。
撮ったのは高校生。スマートフォンの動画だった。
横断歩道をずんずん歩く杉山。
遠くから近づく自転車。
避けない、杉山。
止まらない、自転車
ドン。
杉山、倒れる。
正直結構痛そうだ、と吉岡は思った。
自転車の男性。
「なんで避けないんだよ!」
杉山。
「横断歩道なので」
動画は、そのままSNSに投稿されていた。
「自転車にわざとぶつかるおじさんいて草www」
あんまりSNSを見ない吉岡でも、再生回数には驚いた
翌朝380万再生。
翌夜1200万再生。
事故の様子が衝撃的だったからなのか、その後の杉山の様子が淡々としていたのがネットミームになったからなのか、とにかく再生されていた。
コメント欄は、
真っ二つだった。
>当たり屋じゃん
>いや自転車がぶつかってるだろ
>普通避けるだろ
>普通止まるだろ
>正しいけど怖い
>正しいなら何してもいいの?
>これどっちが悪いの?
ネットニュースが、
杉山をこう呼んだ。
「自転車ぶつかりおじさん」
一連の説明しをネットニュースを読み終わった杉山が眉をひそめた。
「間違ってる」
「何が」
「僕はぶつかってない」
「そこ?」
「重要だよ」
杉山は紙に図を描いた。
直線。
人間。
自転車。
矢印。
「僕はこの方向に歩いている」
「うん」
「自転車はこっちから来る」
「うん」
「僕は進路変更していない」
「うん」
「接触する」
「うん」
杉山はペンを置いた。
「僕のどこに『ぶつかる』という能動性がある?」
吉岡は図を見た。
「避けるという能動性がない」
「...まあね。確かに。」
「褒めてないぞ」
「だから正確には」
杉山は言った。
「ぶつかられおじさんだ」
吉岡は、気づいたら口をついていた、
「もっと嫌な名前になったな」




