第99話 見え始めた戦いの構図
ここから先は生き残った兵士たちから聞いた話だ____。
激戦の末。
シールは血の海に沈んでいた。
巨大な盾ごと腕を斬り落とされ、その場へ倒れていたという話だ。
剣士はその後もしばらく暴れ回り、多くの兵士を斬り伏せた。
そして__。
白い少女が現れた後、女オーガたちと共にその場を去っていったらしい。
残された兵士たちは、急いで生存者の確認と治療を始めた。
「まだ息がある! こっちへ運べ!!」
「駄目だ……もう手遅れだ……!」
「団長は!? 団長は無事なのか!?」
「他に無事なやつは? 絶対に見落とすなよ」
その場は凄惨だった。
斬り飛ばされた腕や脚。
断ち切られた胴体。
それらが辺り一面へ散乱し、誰の身体だったのか判別もつかない状態になっていたという。
「おい、こっちにも生き残りがいるぞ!」
「回復役を呼べ!」
「足りん……全然足りんぞ……!」
混乱の中、兵士の一人がシールの持ち物からたまたまマナベルを見つけ出した。
「ま、マナベルだ!」
「誰でもいい、繋がってくれ……!」
藁にも縋る思いで使用したところ、偶然繋がったのが勇者だったらしい。
連絡を受けた勇者は、医者を連れ、転移門を使ってすぐさま戦場へ駆けつけた。
「シール!? 先生っ!! シールの容体は!?」
「まだ息がある……。君の魔法があれば、間に合うかもしれん」
勇者の強力な回復魔法によってシールの傷は塞がれ、医者の指示のもと、斬り落とされた腕も繋ぎ直すことができたようだ。
同行していた医師によれば、シールの傷は想像以上に深かったらしい。
斬撃は盾と鎧をまとめて断ち切り、そのまま胴体深くにまで達していたということだ。
骨すらも絶たれ、内臓にも大きな損傷があった。
生きていること自体が奇跡に近い状態だった。
勇者の強力な回復魔法がなければ、山を越える前に命を落としていた可能性が高かったそうだ。
シールが次に目を覚ましたのは、怪我人の治療と撤退が終わり、ようやく周囲が落ち着いてからだった。
目を開けた時には、病室のベッドへ横たわっていた。
剣士たちの動向を見ていた兵士が言った。
彼らが去った理由。
話から察するに、まだ力が身体に馴染んでいなかったのだろう。
撤退する頃には相当に疲弊していたようだ。
膝をつく剣士を女オーガが抱えてその場を去ったということだ。
それに軍の多くを失ったとはいえ、剣士たちから見ればまだ大軍には違いない。
あの状態で戦い続けるのは危険だったはずだ。
「ワシが生きとることにも気づかんかったようじゃ」
向こうも決して無傷では済んでいなかった。
止めを刺せたかまでは分からない。
だが、少なくとも多くが深手を負っていた。
一刻も早く治療しなければ危険なものもいただろう。
だからこそ、確認よりもあの場では撤退を優先した。
シール自身は、その並外れた生命力と勇者の治療によって生き延びた。
だが、その場で命を落とした者も多い。
辛うじて息があっても、治療が間に合わなかった者もいた。
この戦闘で、シールの軍は半数以上が死傷する壊滅的な被害を受けたのだった。
*
「なるほど……」
ラットは小さく呟いた。
シールの話を聞きながら、ヒーロとの会話を思い返す。
加護を得た時の話。
そして、その時に感じていた既視感。
「やはり……、ヒーロが加護を得た時と似ていますね……」
「そうなのか?」
「ええ……」
ラットは静かに頷いた。
「ヒーロも似たような極限状態の中で加護を得たんです」
限界を超えた極限状態での戦闘。
そして、逆境を覆すような力。
話を聞く限り、あまりにも共通点が多かった。
シールは腕を組み、少し考え込む。
実のところ、シールはヒーロが加護を得た瞬間を知らない。
いや、勇者パーティの多くがその場には居合わせていなかった。
加護を得た後に合流した者も多く、当時の詳細を知る者は限られている。
「うむ……」
シールは低く唸る。
「わからんな」
だが、そう言ってあっさり考えるのをやめた。
「こういうのは頭のいい奴に任せるに限るな」
シールらしい答えだった。
根っからの軍人。
戦略など戦場で必要なことは考える。
だが、それ以外の理屈や研究には興味を示さない。
加護も。
剣士の変化も。
シールにとっては、〝凄い力〟そして〝厄介な敵〟という認識程度なのだろう。
相変わらずだった。
ラットは思わず小さく笑った。
「では、次は僕の番ですね」
「む?」
「僕がここへ来た目的です」
「そうじゃったな」
シールが視線を向けた。
風の国から長い時間をかけてでも、シールの元を訪れたのには理由がある。
まずラットはシールからこの戦闘の詳細を確認したかった。
全ての発端となった戦い。
だからこそ、自分の耳で確かめる必要があったのだ。
「最初は……、〝似ている〟……その程度でした」
ラットは考えを整理するように話し始めた。
「ですが、今の話を聞いて確信しました」
やはり、この件は全て繋がっている。
このシールとの戦闘で剣士が発現させた力。
それこそが〝王幹〟なのだろう。
「王幹……、あの妙な力のことか」
「はい……」
ラットは頷いた。
そして、その力を得た人間族の剣士こそ、トゥーロが語っていた〝核〟の持ち主。
そう考えた。
剣士が使用した肉体そのものを変質させ、常識外れの膂力と身体能力を引き出した能力。
これはイオーネも使用していた〝肉体変化〟だ。
そして、トゥーロの〝思考加速〟の能力。
この二つは無属性の中でも〝肉体〟へ分類される能力になる。
点だった情報が、少しずつ線として繋がっていく。
加護は神から授かる力__つまり、神の力だ。
これに対して、王幹がどういうものなのかは分からない。
だが、その性質だけは見えてきた。
〝核〟となる者が存在しており、その能力の一部を分け与えている。
その他にも共通点は多く、異なっているのは付与されている能力くらいだ。
〝加護〟が〝空間〟へ干渉する能力なら、〝王幹〟は〝肉体〟へ干渉する能力となる。
つまり、王幹とは勇者パーティの加護と極めて近い特性を持つ力だった。
「加護に近い力……か。どうりで……」
敵対しているのは、ただの魔族集団ではない。
人間族の英雄を〝勇者〟と呼ぶ。
それに対して、魔族の英雄は〝魔王〟だ。
加護を与えられた勇者に、王幹を与えられた魔王。
シールが大怪我を負った戦いは、新たな魔王が誕生した戦いだった。
勇者パーティと魔王パーティのぶつかり合い。
それこそが、今尚続く戦いの本質だ。
多くの不毛な争いを終わらせた。
種族同士の橋渡しとなり、平和をもたらしてきた勇者パーティ。
彼らへ協力する者は多く、今や世界を味方につけていると言っても過言ではない。
それに対して。
敵は正面から戦争を仕掛けるのではなく、暗躍しながら少しずつ戦力を削っていく。
有力な騎士。
名のある冒険者。
勇者側に属する強者たちを確実に潰していく。
おそらく、各地で起きていた襲撃はその一環なのだろう。
「ヒーロ側の調査から襲撃した者の特徴が分かったのですが……」
「……似ていたのじゃろ?」
「はい……、まさしくそのオーガや剣士がそうでした」
世界規模の戦い。
ラットが身を投じているのは、そういう戦いだった。
ラットは自分がここへ来た理由をシールへ話した。
勇者への指名手配。
各地で起きた魔族との戦闘。
ヒーロたちの現状。
「ヒーロ、ロック、エレ……。まさかそんな状況になっているとはな」
シールが低く呟く。
「ええ。想像以上に状況は悪化しています」
シールの話へ出てきた七人。
おそらくその中の何人かはすでにラットたちが接触していた相手だ。
シールの話では致命傷を負っていてもおかしくない状態だった。
それでも生き延びていたということなのだろう。
彼らの目的は、間違いなく勇者パーティだ。
シールが生きていると知られれば。
おそらく再び襲ってくる。
だからこそ、
ラットは危機を知らせに来た____。
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットです。
リオンだ!
とうとう戦いの全体像が見えてきたね。
まあ、そうなんだけどさ。
どうしたの?
いや、勇者パーティと魔王パーティって。
もう物語になるくらいの規模だぞ。
そうだね。
実際、世界規模だろ!
火の国に対して、風・水・地の国。
中立の天の国を除けば、ほとんどの国が関わってるじゃねえか。
そうだね。
そんな中にいるなんて、聞いただけで震えてくるぜ。
……リオン。
ラットは平気なのか?
平気……ではないかも。
正直、怖いよ。
だよな。
それでも、僕は降りないかな。
どうしてだ?
仲間たちが、その渦中にいるから。
……ラット。
何かあれば力になるからな。
ちゃんと相談しろよ?
わかってるよ。
僕たちも仲間だからね。
おう。
次回は、新たな敵の存在が明らかになるよ!
もうか!?




