第100話 侵攻する無貌の軍勢
〝王幹〟を持つ者たち。
勇者パーティが狙われている。
それを踏まえた上で、考慮すべきことがあった。
「シール、火の国から軍が攻めてきていると聞きました」
ラットたちは酒場でその噂を耳にしていた。
そして、シールが今この町にいる理由でもある。
「お主も聞いたのか」
シールは勇者パーティの一人だ。
勇者パーティが狙われている以上、詳しい状況を確認する必要があった。
ラットたちはシールの話を聞いた。
どうやらその軍勢を最初に発見されたのは、シールとの戦闘があった場所の近くだったようだ。
戦場に残された遺留品の回収や敵の情報を探るために派遣された部隊が、その軍勢を見つけたらしい。
「進行方向から見て、〝砂漠の街ビステ〟の先にある国境に向かっているのは間違いないそうじゃ」
火の国と地の国を隔てる広大な砂漠。
天然の要塞とも言える地形だ。
慣れない軍勢なら進軍速度は大きく落ちる。
それでも。
「ワシの軍が到着する頃には、開戦しておるじゃろうな」
シールは低く呟いた。
現在、砂漠の街に駐屯している守備兵たちが防衛を担当しているらしい。
国境防衛を任されるだけあり、兵の練度も高い。
だが、それでもいつまで耐えられるかは分からない。
猶予がないのだ。
物資の補給。
武器の整備。
戦闘準備。
それらが整い次第、明日にでもシールも出撃する予定だという。
「このタイミングでの敵の進軍……」
偶然にしては出来すぎている。
「例の七人が関わっている可能性はありませんか?」
シールが生き延びたことを知ったことで攻めてきた。
そう考えれば、今このタイミングでの進軍にも納得がいく。
「それがの……」
シールの目つきが鋭くなった。
「どうやら攻めてきておるのは、甲冑兵の軍らしい」
「甲冑兵……? まさか……」
シールが深く頷き同意する。
「ワシが戦った奴と同じ鎧を纏っとるそうじゃ」
ラットの額から汗がひたたり落ちる。
「しかも、軍の全員が同じ鎧、同じ兜を身に着けておるそうじゃ」
シールが押し潰して殺したはずの甲冑兵。
それが軍となって動いている。
もちろん鎧が同じだけで身に着けている人物は違うだろう。
しかし、見過ごせない点があった。
「同じ装備……ですか。しかも火の国の軍が……」
風の国や地の国でも、軍なら装備が統一されていること自体は珍しくない。
だが、相手は火の国だ。
火の国は徹底した実力主義。
強さと功績を示した者ほど、上へ成り上がっていく。
隊長……四天王。
どんな生まれだろうと、果ては魔王にすら成り上がることができる国だ。
だからこそ、彼らは己の武功を誇示する。
傷。
装飾。
武器。
そういったもので、自身の成果を証明する文化がある。
にも関わらず、全員が同じ鎧に、同じ兜。
個を隠すような装備。
それは、あまりにも火の国らしくなかった。
「……不気味ですね」
これが暗示するもの。
「うむ。ワシもそう思う」
何か裏があるといっているようなものだった。
「あとな。その軍勢には大量の魔物も確認されているらしいんじゃ」
統率された軍勢に、魔物の群れ。
ただの侵攻とは思えなかった。
「攻城戦を想定してますね」
「そうじゃ」
火の国は魔物を利用する。
特に攻城戦では魔物が効果的に運用された。
厄介なのが、空を飛ぶ魔物だ。
城壁を飛び越え、そのまま内部へ攻撃を仕掛けてくる。
それだけではない。
魔族たちはその魔物に乗って内部へと容易に侵入してくるのだ。
堅牢な城壁も、それだけでは意味をなさない。
地の国が銃器を発展させる以前。
火の国が一強とまで呼ばれていた理由の一つが、それだった。
「やはり狙いはシール……」
シールをおびき出すのが目的なのだろう。
「間違いないじゃろうな」
シールは〝アートベーベン〟という高い城壁に囲まれた都市に身を置いている。
この都市は堅牢だ。
たとえ魔族の軍勢や魔物を投入されたとしても、簡単には落とせない。
いや、落とすどころか返り討ちにあうのが関の山だ。
それほどまでに、現在の地の国の軍事装備は強力なものとなっていた。
特に銃器の存在は大きい。
火の国が得意とする飛行型の魔物も、以前ほど一方的な脅威ではなくなっている。
だが、他の町は違う。
銃器の配備は十分とは言えず、魔物を投入されれば長くは耐えられない。
敵は周囲の町を狙うことで、シールを強固な都市の外へと引きずり出そうとしている。
そうしなければ、王都だけ守れたとしても、周囲の町が次々と落とされ、地の国そのものが疲弊していくからだ。
「本来ならシールほどの人が指揮をとれば十分に対応できます。ですが、今回は……」
相手は、シールの実力を把握している。
あの戦闘で、加護の力も戦い方も見られているのだ。
もし狙いがシールなら。
当然、その対策もしてくるはずだった。
ラットには、この軍勢そのものが罠に思えた。
シールを誘い出し、確実に仕留めるための罠だ。
「シール!」
ラットは意を決した。
「僕も戦闘に加わります」
シールは軽く笑みを浮かべた。
「僕が加われば、少なくとも相手の想定は崩せるはずです」
相手はシールを狙っている。
ならば当然、シールの対策は十分にしているだろう。
だからこそ、相手の予想を上回る。
想定外の事柄が必要となる。
ラットの参戦。
つまり、もう一人の勇者パーティの参戦だ。
「まあ、お主ならそういうと思っとったよ」
シールはラットを見つめる。
「それは心強いわい」
そして、豪快に笑った。
「期待しとるぞ! ラット!!」
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットです。
ミル……
シールの話を聞いて、やっと全容が見えてきたと思ったら。
……きた。
まあ、もともと向こうは先手先手で動いていたからね。
……不思議じゃない。
そうだね。
でも、こう次々に問題が出てくると大変だよ。
……ん。
ミルは怖くない?
……ラットと一緒。
……ミル。
……乗り越えてきた。
そうだね。
僕たちはちゃんと乗り越えてきたんだ。
……うん。
だから今回も大丈夫。
……
……ラット、頼りにされてる。
なんだか嬉しそうだね。
……ラットはすごい。
そんなことないよ。
……すごい。
ありがとう。
次回は、ちょっとケンカするかも。
……!?




