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第88話 黒球への道標

〝リタを救う〟


 敵も味方も。

 立場も関係ない__。


 今はただ、暴走する黒い球体の中心にいる少女を助ける。

 全員の意思が一つになった。


「なにをしようとしてるか教えて」


 アリエスが尋ねた。

 二人がどうやって抑え込むつもりだったのかを。


 時間がない。ラットは短く説明した。


「なるほどね……」


 アリエスは黒球を見上げる。


「要するに、集まった力を分散させるか、抑え込みたいってわけね」


 ラットは頷く。


「ある程度まで減らしてくれれば、私の付与魔法で抑え込めると思うわよ」


 今は力が膨れ上がりすぎている。

 だが、弱まれば暴走を抑え込む方法があるということだった。


「それは頼もしいです」


 ラットは素直に安堵した。


「正直、二人だけで抑え込むのはかなり分の悪い賭けでした」


 そう言いながら、ラットは鞄を漁る。


「魔法を使用するのであればこれを使ってください」


 取り出した〝ヘイストスペル〟をアリエスに渡した。



 __ヘイストスペル

 魔力を注ぎ込んだ量に応じて、魔法の発動を手助けしてくれる魔具ルーリック

 高位の森人族エルフのみが造ることができる代物で、

 複雑な付与魔法が組みこまれているため、かなり希少。



「ヘイストスペル!? ちょっと待って……」


 アリエスは呆気に取られている。


「こんな王族でも手に入れることが難しい魔具をどこで!?」


 急な希少な魔具の登場に驚きを隠せないアリエスだったが、


「いや……、さすが勇者パーティということかしら……」


 半ば呆れながらも納得したように息を吐いた。


「ポニ! この状況ならあの子の力が役立つと思うわ」


 即座に意識を切り替えたアリエスがポニへと促す。

 ポニは頷き、杖を構えた。


<来て__サモン・ゴーくん!>


 詠唱と共に巨大な魔法陣が地面へ展開される。

 その規模は、今までの召喚とは比較にならない。


 ズズウゥゥゥゥゥン____


 轟音とともに現れたのは、天を突くほど巨大なゴーレムだった。


「……っ!?」


 ラットは思わず息を呑む。


「大きい……。こんな巨大なゴーレム、初めて見たよ……」


 ポニは契約してから研究者たちの実験に協力していた。

 実験により多くのデータを集めることができた研究者たちは、次に実戦のデータを欲した。

 ポニは実戦のデータを集めるため、どんどん使ってくれと頼まれていたのだ。


「この子ならあの渦の中を進めると思うわよ」


 全身を覆う頑強な鎧。

 そして、圧倒的な質量。


 ラットとトゥーロが問題視していた、〝近づけない〟という問題を突破できる。

 吹き荒れる黒い奔流にも押し流されず、前へ進むことができるはずだ。


「確かにこのゴーレムなら! だったらこれを!」


 ラットは、その場にいる全員に闇の魔力耐性を上げる〝闇守の水〟を使用した。


「耐性を上げるのね。だったら私も!!!」


 さらに、アリエスは全員に闇の魔力耐性の魔法を付与した。


<闇なる力から我を保護しろ__シャドウ・プロテクト>


 本来の戦闘ならどちらかだけで充分だろう。

 この規模の闇の魔力に挑むなら、やりすぎということはない。


 闇守の水によって筋肉を引き締めるような内の耐性を、

 シャドウ・プロテクトによって鎧を着るような外の耐性を得た。


「フェンリルはトゥーロとミルをお願いします!」


 ラットの指示で、ほとんど動けない二人がフェンリルの背へ乗せられる。

 ポニも咥え上げられ、そのまま背中へ運ばれた。


「準備はできたな……。時間がない、すぐにいくぞ!」


 トゥーロが黒球を睨んだ。



「まずはこの勢いを後押ししている闇の力をどうにかするわ!」


 あたりに蔓延している闇の魔力は、リタから発せられたものだけではない。膨大な闇の魔力に、一帯にもともと存在していた魔力が呼応して湧き上がってきていた。


 闇の魔力で充満した環境は、より闇の魔力を活性化させていた。


 アリエスが杖を構え、詠唱を開始する。

 同時にヘイストスペルへと魔力を注ぐ。



<力を貸せ__アストラ・ライトフォース>



 上級魔法が発動した。

 本来なら長い時間を必要とするはずの魔法だが、ヘイストスペルの使用で中級魔法程度の時間で完成する。


「すごい……。もう発動した……」


 アリエスが言葉を漏らす。


「いえ、それだけじゃない気がする。アリエスはもともと魔法の発動がかなり早い方なんじゃない?」


「そ、そんなこと……ないわよ…………」


 図星だったらしい。

 アリエスはわずかに視線を逸らす。

 少し照れたような反応。


 ラット自身、ヘイストスペルの性能は理解している。

 感覚的なものではあったが、それだけなら、もう少し時間がかかると感じていた。

 つまり、この速度はアリエス本人の技量あってこそだ。

 もともとの詠唱速度が高いからこそ、ヘイストスペルの恩恵を最大限引き出せたのだろう。



 眩い白光が広がった。

 巨大な白い魔法陣が大地へと展開され、一帯を包み込んでいく。


 そして__。


「消えた……」


「反対の属性で中和したのよ!」


 周囲へ蔓延していた闇の魔力は、光の魔力と重なりその存在を薄めていく。

 黒い霧のように広がっていた魔力が、次第に晴れていった。


「あれだけ蔓延していた魔力が……!?」


「あたりの魔力は残滓みたいなものだから。上級魔法なら沈められるわよ。だけど……」


 アリエスが額へ汗を浮かべる。


「そうだね……」


 白く巨大な魔法陣。

 その中にあっても黒球は尚も健在だった。

 周りが光に包まれている分、その異質さがより際立って見える。


「でも、これなら……!!」


 先程まで猛威を振るっていた黒球。

 その周りに展開されていた渦は、この光の中で明らかに勢いを弱めていた。


「ポニっ!!」


「はい! ゴーくん!!」


 ズンズン__


 ポニの呼びかけに、ゴーレムが渦へと突き進む。


 ゴゴゴゴゴオオオォォォ______


 黒い奔流がゴーレムへ叩きつけられる。

 重ねて耐性を付与されていても、その巨体が揺らぐほどの衝撃。


 ポニはその陰で、ゴーレムに回復をかけ続けた。


<この子を癒やして__風なる歌声>


 これによりゴーレムの体が削られる速度が緩和した。


「衝撃が思ったよりも強い……。だったら!」


 剛力の水。

 ラットはさらにゴーレムの出力を上げた。


 重い一歩。

 また一歩。


 ゴーレムは渦の中を押し進んでいく。


 ドッ____ドンッ________


 なおも噴き出す黒い奔流が周囲を破壊していく。


 その一つがゴーレムへと襲いかかる。

 ラットは空気銃を構えた。


 ドンッ__


 放たれた爆裂玉が、黒い奔流を弾き飛ばす。


 次々と飛来する奔流。

 それらをラットが迎撃していく。


「今のうちに!」


 ゴーレムの負担は減り、さらに魔力の渦の中心、黒球へと歩を進めた。


 そして、黒球へと到着した。

 リタはもう目の前だ。


 ゴーレムがリタまで巨大な腕を伸ばす。

 その影からラットが、一枚のスクロールを取り出した。


「この切り札……、〝空間圧縮・拡張スケールのスクロール〟を使う……」



 __空間圧縮・拡張スケールのスクロール

 一定空間を指定して、その範囲を圧縮、あるいは拡散することができる。

 特殊なスクロールに加護が付与されたものだ。

 


 ラットは考えていた。

 今、この場で問題なのは、広範囲へ散り続ける黒い奔流だ。

 このままでは、アイテムも魔法も効果が分散してしまう。

 特に魔法は、魔力の配分を範囲に置くことで威力が犠牲になる。


 だからこそ、まずは散開した闇の魔力を一箇所へ集約する必要があった。

 ラットは黒球へ向け、スクロールを発動する。


 ズズゥゥゥ________________


 スクロールから放たれた魔力は、黒球を中心に徐々に広がっていく。

 そして、黒球を、渦ごとそのすべてを包み込んだ。


 ズン____


 次の瞬間、空間ごと一気に圧縮が始まる。

 吹き荒れていた渦や黒い奔流が、内側へと吸い込まれるように縮小していった。


「なにこれ……。こんな魔法見たことないわ」


「これは加護だよ。この魔法鞄マジックバックと一緒につくってもらったものなんだ」


 森人族エルフ土人族ドワーフによって、装備のために加護を解析した際の副産物としてつくられた。何かの役に立つだろうと、世界樹の素材を用いたスクロールに加護を付与された希少な一品だ。


「……これが、加護の力なのね……」


 アリエスが呆然と呟く。


 この空間圧縮・拡張は〝黒球自体〟に干渉しているわけではない。

 黒球がある〝空間〟に干渉している。


 直接黒球に干渉すれば、膨大な放出される魔力と正面衝突することになる。

 そうなれば、魔力を追加供給できないスクロール側が押し負ける可能性が高い。


 だからこそ、ラットは渦巻く空間を指定した。

 その結果、広域に荒れ狂っていた黒球と渦だけを、直径一メートルほどにまで凝縮することに成功した。


 それによって、ようやく周囲へ静けさが戻る。


 ズズウゥゥゥン____


 役目を終えた巨大ゴーレムが、その場へ倒れ込んだ。

 心配したポニが駆け寄る。


 ポニに反応して、ゴーレムが動く。

 完全に破壊されたわけではないようだ。


「ゴーくん! お疲れ様!」


 ポニはゴーレムに声をかけた。


「……圧縮はできた」


 ラットは黒球を見上げたまま言う。


「でも、まだそれだけだよ」


 圧縮は、あくまで下準備。



 黒球そのものは、まだ何一つ止まっていなかった____。



※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。



ラットです。


ポニです♪


ポニさんの新しいお友達……すごく大きいね。


はい、とっても大きいです♪


想像していたより、十倍くらい大きかったよ。


すごいですよね♪


そういえば、以前かわいいって……


はい!

かわいいんですよ♪


そうだね!

うん、かわいいね……


でしょう♪


ポニさんはどのあたりがかわいいと思うの?


すごく懐いてくれるところです♪


懐く?


はい!


わたしを見つけると、うれしそうに近寄ってくるんです。


うれしそう……?


はい♪


それに、呼ぶとすぐ反応してくれるんですよ。


なるほど……。

なんだか話を聞いていると、本当にかわいく思えてくるかも……?


ですよね♪


次回は、アリエスの魔法が炸裂します。


そうなんですね♪


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