第7話 人間でいたい
目を擦り、ぼやけた視界をなんとか取り戻そうとする。
しかし、何度見ても、目の前でフードの男と対峙しているのは、あの魔機屋だった。
広げた眼の向こう。
日が昇り出し、まだまだ間もない刻。
魔導機械の森の中。
店の前の少し開けた場所で、鉄鋼が、サーベルを受け止めていた。
ゴーレムの剛腕をもぎ取ったような大きな鉄鋼を装備しているのは、店内で見た華奢で小柄なあの少女だった。
「何だお前、こいつらの仲間だったのか?」
一歩も引かぬまま、男が訊く。
魔機屋が首を横に振る。そう、仲間ではない。
「なら、どいてろ」
目の前に立ちはだかっているのは、武器を装備しているとはいえ、戦うことができるかもわからない無力そうな少女だ。男ほどの実力者なら戦う気力すら湧かないだろう。
男は興味が失せたように身を離すと、振り上げたサーベルで再び魔法使いへと振り降ろす。
ガキン____
しかし、再び鉄鋼が割り込んだ。
「だめ……」
サーベルを食い止めながら、魔機屋が言う。
〝ただならぬ事態と判断して止めにきた〟ということだろうか?
ハァ____
男はため息を漏らす。
「一般人に用はないんだがな……。邪魔するなら、お前から殺すぞ?」
男が魔機屋へと殺気を向ける。
「にげ……ろ…………」
いくら頑丈そうな鉄鋼を装備していると言っても、ただの〝少女〟である。剣士たち冒険者を圧倒した男。おそらくあの〝魔獣兵器〟すらを超える力を持つであろう者に敵う訳がない。
「く……そ……」
助けなければ……。
しかし、どんなに力を込めようとも身体は動かない。
男がサーベルを構え……
「やめ……」
切り払う。
その刃が魔機屋を両断した。
……そう見えた。
ボッ__
「……!?」
消えた……?
斬られたと思った魔機屋が、忽然と、いなくなった。
ザッ__
いや、いる。男の後ろで拳を振り上げて……。
男も面食らったらしい。
目を瞠りながら、それでも旋回し、店主に斬りかかる。
ガギガガギン____
五度、火花……。
鉄鋼とサーベルのぶつかり合い。
男と攻防を繰り返した魔機屋は、今度は素早く飛び退いた。
ボッ__ギンッ_____
かと思えば一気に距離を詰め、さらに躊躇なく殴りかかる。
魔機屋は鉄鋼の掌から噴き出す風圧を推進力に変え、風を切るように高速移動していた。その加速は、知らなければ一瞬消えたように錯覚させるほどだった。
二発。三発。四発。サーベルと荒々しく格闘した後で、また遠ざかる。撹乱するように地面を飛び跳ね、再び突っ込む。四方だけではない、空中やしゃがんでの攻撃もある。上下を加えた立体的な攻撃を仕掛けていた。
本当にさっきまで会話をしていた少女なのか?
そう疑うほど信じられない光景が目の前に広がっている。
一般人の動きではない。
どこから来るのかわからない、先の読めない戦法は、やりづらいことこの上ないだろう。
「おまえ、戦うことができたんだな……。それに、なかなか強い。速さに目がいきがちだが、力もある……」
しかし、男はまだまだ余裕があると言わんばかりに、分析を続けた。
ボッ____
魔機屋の拳は男のフードに隠れた頬を霞めた。
フードの一部が破れ、顔を覗かせる。
「うん、いいじゃないか!! 転がっている雑魚どもよりも殺しがいがある」
ふと、男は羽織っていたフードを外した。
「これで〝視える〟な」
フードの下から現れたのは、紫色の髪の〝少年〟だった。
目鼻立ちのくっきりとした顔、長い手足、線の細さ、間違いなく少年のものだ。
「少年!? しかも、おまえ……〝魔族〟か!」
わずかに尖る耳。それは魔族の特徴だ。
「それにその服……魔王軍の……」
聞いたことがあった。
紺色の布地に、赤いマント。
少年が身に纏うその服は、魔王軍の兵士の特徴と一致していた。
フッ
少年が不敵に笑い、構えを変える。
底知れぬその笑みに、背筋がぞわりとした。
「悪くはない……。だが甘いな。そんな動きじゃ、僕は倒せない」
悪い予感は当たった。
フェイント混じりの魔機屋の軌道を、少年が捉えた__。
キンッ____
一撃を躱され、隙のできた魔機屋へ、サーベルが煌めく。
作業着の袖が切り裂かれた。
だが、攻撃を当てたはずの少年の口が、どういう訳か砂利を噛む。
目が大きく開かれる。
理由はすぐにわかった。
血が出ていない……。
抉られた白い皮膚から露出するものは〝無機物〟だった。
「お前……〝人間〟じゃないのか?」
「……魔導機械人形…………」
魔機屋が呟く。
「ははは……、いいな! 人間族じゃないなら仲間に入れ!!」
少年がサーベルを下ろした。ご機嫌に笑う。
「人手不足だからな。見どころのある奴には率先して声をかけてるんだ。僕には敵わないが、お前はなかなかの強さだ。戦力としてもほしい」
聞き間違いではない。
魔機屋を引き入れようとしている。
「噂は聞いてる。人間族と馴染めてないんだろう?」
変わり者。
くだらない。
ガラクタ。
果てはこの場所を〝ガラクタ置き場〟として、嘲笑った。
魔機屋と生みの親である博士が、この町でどんな扱いを受けているのか。
話を聞いて理解していた。
「僕たちの元に来れば、そんな目には遭わない。どんな酔狂な奴でも大歓迎だ。実際、お前みたいな性格の奴もいる。だがっ!!」
少年は言葉を強める。
「人間族はそうじゃない。あいつらは、自分たちと違う異端には、どこまでも残酷になれる醜い種族だ。……なあ?」
話を振られ、目線を逸らす。仲間との会話が思い出される。そう。人間は違いを受け入れられない。同じ人間であっても、その線を越えた者には容赦はしない。排除しようとする。そんな光景を、嫌というほど見てきた。
「予言してやる。お前が〝人もどき〟だとわかれば、疎外だけじゃ済まされない。徒党を組んで排除にかかる。絶対だ」
少年が踏み出す。
「僕たちと来い」
魔機屋に向かって、手のひらを差し出す。
「わたしは、〝人間〟でいたい。……いかない」
魔機屋は誘いをはっきりと断った。
ピクッ
少年はその言葉に反応した。
「断るだけなら、まだいい……。だが…………」
そして、引き上げた手のひらで、少年が髪を掻き上げる。
「〝人間〟でいたい……だと。おまえ、ふざけているのか?」
魔機屋に対して好意的だった少年の瞳は、沸々と煮え滾っていた。
「くそがっ!!」
冷酷に吐き捨て、魔機屋へと斬りかかった。
ビュッ
鉄鋼を構えて応戦する魔機屋だが、拳は宙を虚しく突く。
ズザッ__ザッ__ズザザッ______
先ほどまでの遊んでいる感じではない。
怒りをぶつけるように少年はサーベルを振るった。
空振りは凶刃を次々と呼び込み、その身はズタズタに切り裂かれていった。
バチ__バチバチ____
傷口は増え続け、ついには、痛々しく放電するまでになる。痛覚がない故か、顔色こそ変わらなかったが、追い詰められているのは明らかだった。
「終わりだっ」
凶刃が魔機屋の首へ狙いをつけた。
迫る凶刃____。
バシャ__
その場に響いたのは、破壊音ではなかった。
乾いた音を残し、水滴が散る。
ずぶ濡れの少年に相対するのは、
はぁはぁ____
息を切らし、汗だくになった薄い影。
しかし、その影は大きく確固たる意思でそこに立っていた。
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットと!
魔機屋……
で、この雑談コーナーをやっていきます
ん……
今回は戦われてましたね!
ん……
魔機屋さんは戦えたんですね!!
……素材集め……
なるほど!
たしかに魔導機械をつくるのにも必要ですよね
ん……
素材屋さんで購入されたりとかはされないんですか?
お金……
あ~、……ですよね
お高い素材もありますし……
ん……
皆さんも、素材よし、品質よしの魔導機械、ぜひ買ってくださいね!!
よろしくお願いします……




