第6話 静かなる凶刃
僕はとうとう出発の準備を整え、この町を出ようとしていた。
「最後に魔機屋さんにも挨拶しないとな……」
この町に来てから、彼女には世話になりっぱなしだ。
自身の装備を整備、調整してもらい、たくさんの魔導機械の説明をしてもらった。
購入させていただいた大量の魔導機械は、この先の冒険でも必ず役に立ってくれるだろう。
そして、毎日のように入り浸ってしまった。
それほどに、あの場所は僕にとって天国だったのだ。
しかし、それも昨日まで。
すでに依頼していた装備は受け取った。
名残惜しい気持ちもあるが、目的があるんだ。
僕は再び旅立たなければならない。
*
ラットは宿屋を出て、魔機屋への道を歩いていく。
ス______
……ふと、すれ違った。
視界を掠めた純白に引かれ、盗み見る。
雪を連想させる長い白髪を、いつか、どこかで見たような。
……いや。
この独特な雰囲気は、覚えている。
ラットは反転した。
(どこで出会ったかな?)
この街での知り合いではない。
勇者パーティと旅をしていた頃の、知り合いだろうか?
冒険者……には見えない。
であれば、〝商人の娘さん〟だったかな?
いずれにしろ町を転々としているならば。
ラットが王都へと向かっている目的__怪我をした仲間の情報が、今ここで得られるかもしれないのだ。
*
ラットは故郷の村〝ウィアベル〟にいるときに、たまたまその噂を耳にした。聞いたのはギルドの中だ。
ラットの店は閑古鳥が鳴いている。
……であっても最低限の日銭は稼ぐ必要がある。
定休日には、冒険者として依頼をこなしていた。
(おい、聞いたかよ)
(地の国で勇者パーティの一人が大怪我を負ったんだって……)
(嘘だろ……。あの伝説のパーティがか?)
(相手は誰なんだよ?)
(魔族って噂が立ってるぞ)
(また魔族かよ……。せっかく戦争が終わったのに……)
(さっさと全員滅ぼしてほしいよな……)
(王都はいったいなにやってんだよ)
(そのための騎士団なんじゃねえのか?)
また別のところでは。
(おい、注意喚起が出てるぞ……)
(有力な騎士だけじゃない。冒険者たちまで襲われてるって……)
(俺たちも気をつけないとな)
(いや、俺たちC級は少なくとも〝有力〟じゃないだろ……)
そんな話題でギルドは埋め尽くされていた。
ラットは受付で詳細を確認した。
「はい、どうやら本当らしいのですが……。なにぶんここは〝最果ての村〟なので、最新の連絡方法がある王都とは違い、古い方法での情報のやり取りしかできず……、詳細まではわからないんです」
それを聞き、ラットは村を飛び出した。
まだ戦いは終わっていないのだと感じたからだ___。
*
村を飛び出してからこれまでの間、新たな情報を掴めずにいた。
そんな折での今の状況だ。
話を聞くだけでも問題ないだろう。
脇道へと進む少女。
ラットは走る……。
追いかけ、曲がった…………。
(いない!?)
長く続く一本道。
どこにも見当たらない。
消えた。
雪のように……。
なにが起きたのか、理解できずにいた。
その時だった。
ドォーン……
遠くから音が響く。
上がる土煙。
「あっちは魔機屋さんの方角じゃっ?」
ラットは胸騒ぎを覚え、走り出した。
*
時は少し遡る___。
ちょうどラットが旅支度を終え、宿屋を出た頃だった。
カランカラン___
軽快に開かれる扉。
弾む鐘の音。
「いらっしゃいませ……」
魔機屋がそれを出迎える。
「あのさ。ここに……」
(名前なんだっけ?)
(聞いてないよ)
「灰色の髪の眼鏡をかけたやつ……来てないか?」
「来てない……」
「っかしいな。ここに来てるって聞いたんだけどな……」
「知り合い……?」
「ん? 少し前に魔物が町で暴れたろ。そのときに助けられたんだ。あいつの分の報酬も出ているんだけど、ギルドに現れなくてよ。確かここによく来てる感じで話してたから、ギルドに代わって渡しにきたんだよ」
「そろそろ来る……と思う」
「なんだ。まだ早かっただけなのね」
「ちょっと待たせてもらってもいいか?」
「いい……」
仲間の一人が近寄ってくる。
(リーダー、一度出直さない?)
(なんでだよ? もうすぐ来るっていうんだから待ってたらいいだろ)
(ここって〝ガラクタ置き場〟って言われてるんだよ。あんまりいるところを見られたくないんだ)
(おまえな~)
(そうよ。面白そうなものがいっぱいあるじゃない。話を聞いて、来てみたかったのよ)
(リーダーたちはこの町の出身じゃないから知らないんだよ~)
そんな話をしていると。
バンッ
カランカランカラン___
豪快に開かれる扉。
激しく打ち鳴らされる鐘の音。
「いらっしゃいま……」
「おい、ここに勇者パーティの〝7人目〟が来てないか?」
フードを被った者が荒々しい足音で乗り込んできた。
「ずっと探してるんだが、てんで足取りが掴めないんだ。ここに入り浸ってるって話を聞いたんだが、いるか!?」
どうやら。この者は焦れているようだ。噂だけが独り歩きする者に翻弄されているらしい。
それを見て笑って話しかける。
「落ち着けって。おまえもあいつを探してんのか?」
その者に近づき、
「あいつ、存在感がないみたいでな。あんまり認知されないらしいんだよ。気持ちはわかる」
肩に手を回し、
「でも、安心しろよ。ここは正解らしい。もうすぐ来るみたいだぜ」
気さくになだめる。
「おいっ……」
しかし……。
「何を勝手に触ってる!!」
肩に回した腕は払いのけられた。
「汚いな。僕に触るなっ!!!」
その態度に腹の底が煮え始める。
「勝手に触ったのは謝るけどよ。さすがに、それは失礼じゃないか?」
「そうだ。謝れよ」
静まり返る店内。
「そうだな……僕が悪かった」
「ほっ……」
「〝雑魚〟相手にムキになってしまったよ」
「おまっ!!」
フードを掴む。
(こいつ小柄だが、やっぱ男だな……)
フードの隙間から覗かせた不敵な笑み。
見下すような視線を男は向けていた。
「ん?」
フードを掴む手を、払いのけようとしたその手が止まる。
「確かおまえらも……」
男は改めてフードを掴む手を払いのけ、
「ついて来い。僕に言いたいことがあるんだろ?」
扉を出た。
顔を見合わせる仲間たち。
「どうするの?」
「いこう。さすがに、あれだけ言われて引き下がるわけにはいかないだろ?」
続いて扉をくぐった。
「ありがとうございました……」
魔機屋はそれを見送った。
*
それから少しの時間が過ぎる。
<撃ち抜け__ファイアボール>
ドンッ____
「おい、詠唱を待ってやったんだ。ちゃんと狙え」
ズバッ__
「きゃっ」
倒れる魔法使い……。
「くそっ! なんなんだお前はっ!!」
小柄な一人の男。
だが、油断なんて一切なかった。
最初の一撃で、この男は自分が俺たちよりも圧倒的に格上なのだと、わからせてきたからだ。
先日のことに倣って、全員が強化薬を飲んだ。
連携も十分にできていたはずだ。
それなのに、こんなにも差があるのか?
あの魔獣兵器にだって、もう少しは持ち堪えられたはずだ……。
こうなったら……
鞄に手を入れ、
「くらえっ」
取り出したものを投げる。
パリンッ___
フードの男の横を通り過ぎたそれは割れた。
「最後の足掻きくらい、ちゃんと当てろよな……」
男は油断している。
「走れっ! ギルドへいってできるだけ強いやつを呼んでこい!!」
走り出す魔法使い。
キンッ
それにあわせて、剣士が男に斬りかかり引きつける。
男はそれをサーベルで受ける。
「まさか……これを狙って…………」
「そうだ。これでお前は終わりだ。俺たちを殺したとしてもなっ」
くくく___
男が笑う。
「視えてるよ……」
ズバッ___
「ぐぅ……」
ザッ
一瞬で剣士を斬り、魔法使いの前に回り込んだ。
「お前がさっき使ってたのは〝速力の水〟じゃないだろ?」
ゾブッ___
「あ……」
すれ違いざまに、魔法使いを再度斬り伏せる。
走った勢いのまま、魔法使いは前のめりに倒れ込んだ。
「強化されてないなら、剣士を刻んだ後でも簡単に追いつけるんだよ」
得意げにフードの男は話す。
「にげ……て……」
己ではなく、魔法使いは剣士を逃がそうとしている。
「……仲間ごっこはやめろっ! 虫唾が走る!!」
「なんだ? 仲間なんて弱い者同士の馴れ合いだって……言いたいのか?」
剣士は最大限、相手を憐れむように……
「強いからって、随分と狭い世界で生きてるんだな」
言い放った。
刃の矛先を自分に向けるために。
「〝狭い世界〟か……。何も知らないクソがっ! こんな奴らに〝こいつ〟の村は……」
(こいつ? 誰の話だ……?)
目の前の男は明らかに一人だ。〝こいつ〟の指すものがわからない。
「ぐっ、ぅう……!」
血を流しすぎた。足はもう言うことを聞かない。意識も薄れてきた。バランスを崩した身体は地べたに埋もれている。
「世界を知らないのはどっちだろうな? ……おまえ、矛先を自分に向けるために、あえて僕を煽っただろ?」
男は無機質な声でそれを発した。
ゾクッ__
通り過ぎる悪寒。
「死ぬ前に……世界ってやつを知っていけよ」
意識を失った魔法使いへ、凶刃が振り上げられる。
「おい……、やめろっ…………」
「…………」
「やめろぉおおおおおおおっ______!!」
剣士の絶叫を……
ガキンッ____
硬質な音がかき消した。
そこには〝魔機屋〟が、無表情に立っていた。
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットです。
今回はこの方に来ていただきました。
C級冒険者パーティのリーダー、〝ブレイブ〟だ。
改定版は活躍が減って残念でしたね。
しょうがない。
俺たちの伝説はここじゃなかったってことだな。
パーティとしての連携もかっこよかったんですけどね。
……
必死で突破口を……
いうなっ!
俺が旧版でやらかしたのが……くぅ……
ブレイブさんの活躍を見たい方は、旧版も手にとってみてください。
よろしく……




