第51話 偽りの居場所
ロックは、何度も接客し、何度も会話を重ねていくうちに、少しずつ惹かれていくのを感じた。
イオナも戦争で大切な人を亡くしたようだ。今はその人が守ってきたものを、今度は自分が守っていこうと思っている。惹かれたのはそういう健気なところだ。決して、声や仕草だけではない。
イオナはどうやら勇者パーティに属していたロックに一言、文句を言うつもりで、ここへとやってきたらしい。吸血鬼たちは軽い性格と見る者も多い。だから、気まぐれのお遊びで勇者パーティに与したのなら、寝首をかいてでも殺してやろうと思っていたようだ。
だけど、それもバカらしくなったと話していた。本心を話してくれたように感じた__。
「俺はな、こう……、サキュバスのお姉さんのような色気のある女が好きなんだよ」
「なによ……。吸血鬼の私には色気が足りないっていいたいわけ?」
ハハハハハ___
二人は次第に打ち解け始めた。
「最近のあいつ……」
「ああ、よく笑うようになったぜ」
「これも姉さんのおかげだな」
イオナは従業員や他の客からは、面倒見の良さから〝姉さん〟と呼ばれるようになっていた。
「ここに帰ってきたときは酷い顔をしてたもんな。強がってはいたけど」
「無理もねえさ。魔王になれば軍も退かせられたし、勇者と協力して、風と火の国で和解もできたんだ」
「実際は、軍はロックを魔王と認めず、撤退した頭のいい連中以外は全滅した……からな…………」
「それから、魔王が倒されたのをいいことに、風の国が火の国に侵攻して、〝国境の村フリンメル〟が滅ぼしたらしいしな」
「聞いたぜ。そうとう酷いらしくてな。女も子供も残らずだって。今じゃ死霊系の魔物の巣窟で〝屍火の村フリンメル〟なんて呼ばれてるみたいだぜ」
「全滅はロックを魔王と認めなかった四天王の側近連中のせいだし、自分をそこまで責めなくてもいいのにな」
「ああ、あいつはよくやったよ。魔王を倒した後もしばらくは勇者たちと仲裁にまわってたみたいだぜ」
「かといって誰も奴には感謝しない。悲惨な状況も見てきたし、罵声を浴びせられたとかってのも聞いたな」
「それが今じゃ、声を上げて笑ってる……か」
「ああ、よかったよ」
フッ
来ていた客たちも笑った。
「おい、ロック!」
「イチャついてないで、注文頼むぜ!」
「酒だ、酒!!」
「おい、お前ら……。酔って店を壊すんじゃねえぞ!」
店の中は笑い声で包まれていた。
*
しかし、その日常はいっときのものだった__。
ロックはイオナから距離をとるようになっていた。
「ねえ、ロック。あなた、私のこと避けてるわよね」
「そんなことないさ」
なんの興味もない。そんな空返事をして、ロックはその場を立ち去ろうとする。
だが……。
「あるわよ! ほら、今だって!!」
そういってイオナはロックの行方を阻んだ。
「やることがあるんだ……。忙しいんだよ」
ロックはイオナの目を見ようともしない。ただただ、うざったそうに、イオナを避けようとする。
「やることって何よ!!」
「店の帳簿をつけたり……とかな」
「そう……。頼めるかしら?」
イオナが叫ぶ。
「はい! イオナさん、任せてください! 店長、やっておきますね。ごゆっくり〜」
物陰からレストランの従業員。ウェイトレスが飛び出してきて、了承し颯爽と去っていった。
ロックは一瞬のできごとに、口を開け、驚きを隠せない。
「他には何かあるかしら?」
「おまえ……、囲い込みやがったな」
「あら、みんな喜んで協力してくれたわよ」
このときにはすでに無愛想に沈んだ顔は、動揺の表情に変わっていた。
ハ〜〜〜〜
そして、大きく息を吸い込み、ため息を吐いた。
「わかった! なにをやってもダメそうだ。話してやるよ」
ロックは了承した。
「まだいるんだろ? イオナとはちゃんと話すからお前らは仕事に戻れ!」
ロックの話に安堵したのか、物陰から従業員たちが出てくる。
ぞろぞろ__
休みだった者たちもだ。
「おい、やり過ぎだろ……。店に誰もいないだろ……これ………………」
「あら、大丈夫よ。囲ったのはお客さんもだから。今はゆっくりとくつろいでくれてるわ」
ロックは呆気にとられていた。
ク__ハハハ____
「負けたよ。完敗だ!」
ロックは笑う。
しかし、すぐに沈んだ表情になった。
「……面白い話じゃないと思うぜ?」
「わかってるわ」
イオナもうすうす勘づいていたのだろう。
軽口を叩くことなく、静かに頷いた。
ロックは苦く笑い、ゆっくりと過去を語り始める。
戦争で失った恋人のこと。
魔王討伐後にあった火の国での日々を。
「……やなこと思い出させちゃって悪かったわね」
「いまさらだよ」
「だけど、なんでそれが私を避ける理由になるわけ?」
「似てるんだよ」
「……」
「赤い髪やその顔……。見た目だけなら、最初こそ驚いたが、気にはしなかった…………」
ロックは後ろを向き、空を見上げる。
「だけど、性格じゃない、もっと根っこのところ…………。自分のことは横において、他人のために尽くすところが似てるんだよ」
片手で目尻を強く掴む。
「どうしても、おまえと話してるとミアンダのことが頭をよぎっちまう」
下を向き、続けた。
「だから……おまえじゃダメなんだ」
昔の恋人のことを重ねて接するなんてできない。ロックはそう考えていた。
は〜〜〜
イオナはため息を漏らした。
「なるほどね。あんたの言い分はわかったわ。私のことを考えてくれていることも」
「なら、もう俺に近づくな……」
「かまわないわよ」
「あ?」
理解できなかった。目を合わせないようにしていたのに、咄嗟に見てしまった。
「いいじゃない。ミアンダさんのことを好きなだけ想えば。それと一緒に、私のことを見てくれれば、私は構わないわよ」
ロックの顔に、イオナは自分の顔を寄せる。
「世界中の女性を幸せにするんだっけ?」
ニシシ___。
イオナは笑う。
「だったら、ミアンダさんの想いを持ちながらでも、私一人を幸せにするくらい……わけないでしょ!」
その言葉を聞き、ロックは心の楔が解けたような感覚になった。
ザザ__
だが、その感覚とは逆に。
ザザザザザ_____
ロックは意識が侵食されるような……そんな感覚を覚えた。
ザザザザザザザザザザザザザ________
……思えば、このときからだろう。魅了にかかったのは。
次第にイオナへの認識に靄がかかり、彼女の言うことはとにかく正しい。
どんなことでも疑うことなく、真に受けるようになっていた______。
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットです。
今回も、この方に来ていただきました。
ロックだ!
そういえば、ロックはレストランを経営していたんだよね。
そうだぜ~。
可愛い女の子を従業員に雇ってだな……。
ロック……。
いいだろ?
うちの経営方針なんだよ。
やっぱり、可愛い子がいた方が客の入りも違うしな。
……ちなみに、俺からすれば女の子はみんな可愛い。
じゃあ、男の人は雇わなかったの?
そんなことないぜ。
そうなんだ!
意外だね。
そうか?
いろんなタイプを揃えておくと、可愛い女の子のお客さんが来るんだよ。
なるほど。
そっち狙いだったんだね。
結構、常連もいたんだぞ。
それは……正直、羨ましいよ。
はっはっはっ!
ラットはこういうの、ほんと苦手だよな~。
いいと思ってやると、お客さん逃げていくんだよ。
どう思う?
ラットのセンスは、常人には理解できないからな。
常人……。
まあ、このセンスを気にしないのは、あの嬢ちゃんくらいじゃないか?
……
どうした?
……そんなこと言われると照れるじゃないか。
……褒めてないぞ?
次回も、ロックの話です!!
おい!
ほんとに褒めてないからな!?




