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第50話 恋人の面影

 エレと護衛隊シルヴァンガードが森の探索を始めた頃、ラットたちはロックが目覚めたという報告を聞き、病室へとやってきていた。


 ロックはベッドで体を起こし、治療をしてくれていた森人族エルフ妖精族フェアリたちと会話をしていた。


「ねえねえ、そこの妖精族のお嬢さん。ずっと看病してくれたの知ってるよ。お礼したいからさ、俺とデートでもどう?」


 起きてからずっとこんな感じなのだろうか?

 ただただ、ロックは無視されている。


森人族エルフのお姉さん! 俺、お腹減っちゃったな〜。お姉さんに食べさせて、ほ・し・い・なっ!!」


 ラットはロックの横にスーッと移動する。


「僕が食べさせてあげようか?」


「おわっっっっ!?」


 ロックは叫び声を上げた。


「なんだ。ラットか。ビックリさせるなよ。傷に響くだろ?」


「いや、自業自得だよ!? なにやってんのさ」


「目が覚めたら、天使たちがいっぱいいたんだ。そりゃ〜、話しかけずにはいられないだろ?」


「そう……」


 くいっ__

 ラットの眼鏡が怪しげに輝く。


「ミル……。ロックが天国をご所望みたいだよ。連れていってあげられるかな?」


「なんだラット。わかってるじゃないか。あの胸に包まれたら、そりゃ……」


 ロックに影が落ちる。

 ロックが見上げると、鉄鋼ガントレットを拳にはめたミルが大きく拳を振りかぶっていた。


「うぉおおおお、ちょちょちょ、ストップストップ。俺が悪かったって……」


ミルは拳を下ろし、ラットの後方へと下がっていった__。


「悪ふざけが過ぎるよ、ロック。目が覚めたばかりなのに……」


「悪かったよ! ……ほんと……悪かった…………」


「まあ、元に戻ってよかったよ」


「お前たちのおかげだ……。感謝してる…………」


 ロックは深々と頭を下げた。


「ほんとに、お前を殺すことにならなくてよかった……」


 ロックの拳は強く握られていた。


 少しの間、時が過ぎる。

 そして、ゆっくりと頭を上げた。


「正気に戻ったのは、やっぱり最後の攻撃で?」


「ああ、そこの坊主にやられたときに、頭の中に掛かっていたモヤが晴れたように感じたよ」


「もう大丈夫なの?」


「魅了はな……。だけど頭の中は……結構ぐにゃぐにゃしてる…………」


 長期間、魅了されていた影響もあり、精神的にも疲弊しているようだ。無理をしているのが見て取れる。座っているだけなのに安定しない。


「そんな状態でナンパしてたの……? ほんと無理はしないでよ」


「つい……な…………」


 ロックの目が泳いでいる。


「傷の方は?」


「もう回復魔法で塞がってるな。だけど、〝完全に〟ではないらしいし、体力や魔力も戻ってないな……。正直、座ってるだけでもキツい」


「そう……。だったら早く休んだ方がいいよね。様子を見れたし、僕たちはこの辺で…………」


 ラットが病室を出ようとした、その時だった。


「待て、ラット」


 ロックが呼び止めた。


「俺が魅了されるまでの経緯…………。知りたいだろ?」


 その問いに、ラットは黙って頷く。


 ロックはしばらく視線を落とし、拳を強く握り締めた。

 まるで、今から語るものを、自分の中で整理するように。


「……ラットはすでに知っている話だが、まずは聞いてくれ」


 低く吐き出された声。


「前の戦争で死んだ、俺の恋人〝ミアンダ〟のことを……」



 ロックの口から話されたのは、前の戦争で亡くなった恋人。〝ミアンダ〟の、死ぬ間際の話だった__。


「ロック……私はもうダメみたい」


「おい、まだ諦めるな。鬼人族グリムロードの体力なら……」


「無理よ。内臓だって潰れてる。これだけの怪我、いくら鬼人族でも助からないわ」


「くそ、ふざけるなよ。……俺は……お前を…………!」


「ロック、聞いて……。お願いがあるの…………」


「……なんだよ!? 」


 ロックは動揺を隠せないまま、声を荒げた。


「私たち鬼人族の一生は長い……。うぅ……だから…… 」


 ミアンダは苦痛に顔を歪めながらも、途切れそうな声を懸命に紡ぐ。


「あなたを……独り占めしたい気持ちはあるけど…………、私はあなたに……幸せになってほしいの…………」


「おい、もうよせ。死んじまう…………」


「気持ちの整理がついたらでいい……。私を忘れても、かまわない……。だから……素敵な人を見つけて……幸せに……なってね………………」


 言葉を言い終えた瞬間、ミアンダの腕から力が抜けた。

 垂れ下がったその手は、もう二度と動かなかった。


「あああああぁぁぁぁぁ、ミアンダ! ミアンダああああぁぁぁぁぁ________!!」


 こうして、俺の恋人は死んだ。



 俺の幸せを願う言葉だけを遺して________。




 あの時の声、表情、血に濡れた手の感触は……、今でも忘れられない。


 ロックはそこで一度言葉を切り、重く息を吐いた。


「……ここからが、本題だ」


 ロックは、魅了されるまでの成り行きを話し始めた__。



 魔王を倒し、ヒーロたちと別れたロックは、もともと住んでいた吸血鬼やサキュバスが集まる〝焔影の街イールリヒト〟へと戻っていた。イールリヒトは火の国でも異質で、いわゆる夜の街だ。


 ロックは自分が経営するレストランで、自らもウェイターとして働いていた。


「おい、ロック。お前、風の国の奴らと組んで、魔王さんを倒しちまったんだろ? お前が次の魔王にならなきゃダメじゃないか」


 レストランに客として来ていた吸血鬼がロックへと話しかけた。


 火の国では、国で最も強い者が魔王となる。倒された魔王も、その前の魔王を倒し、力を示したことでその地位についた。本来なら魔王を倒したパーティの一人であるロックがその座に着くべきだった。


「本来はな……。だけど、倒したのは勇者だ。俺じゃない。誰も言うことなんて、聞こうとしなかったよ」


「軍の奴らは血気盛んだからな〜」


「それでも頭のいい奴らは、早々に戦線を離脱したんだけどな。問題はオーガとか頭の悪い連中だよ。次の魔王になるために、勇者を殺すとか息巻いて突っ込んでったよ」


「あー、やだやだ。これだから連中とは相容れないんだ。もっと俺たちみたいに柔軟にならないと……なっ!!」


 ロックに話しかけていた吸血鬼は、サキュバスのウェイトレスに抱きついた。サキュバスも〝キャー〟と言いつつも満更でもない。


「おい、やめろ。うちの従業員に手を出すな。みんな、俺の女だ。盛るならちゃんとそういう店に行け!!」


「お前に言われたくないぞ……」


 吸血鬼は呆れている。


「俺が……夜の店じゃなく、レストランを経営してる理由がわかるか……?」


 握られる拳。そして……。


「独り占めするためだよ!!!!!」


 ロックは店の真ん中で叫んだ。



 しかし、その叫びは虚しく響くだけだった___。




 それから数ヶ月が過ぎ、国全体で戦闘の騒ぎも落ち着き出した頃、一人の吸血鬼の女が店に通い出した。


「おい、あれ……」


「言うなっ。あいつのわけないだろ。別人だよ」


 ロックの語尾は強い。


 その女は戦争に巻き込まれ、亡くなったロックの恋人に似ていた。だからこそ、内心では本当に驚いた。もしかしたら生きていたんじゃないかと……。だけど、そんなわけはない。恋人はロックの腕の中で亡くなったんだ。理解していたからこそ、それを振り払うために声に力が籠ってしまった。


 女のことは鮮明に覚えている。ロックと同じ赤い髪の女。香水の香りだろうか、いつも甘い香りを漂わせていた。だが、似ているだけだ。違うのだ。ロックはその女を避けていた。変に恋人に重ねたくなかったし、意識をしたくなかった。相手にも悪いからと、女と距離を置いていたし、対応も他の従業員に任せていた。


 そんな中、距離を詰め出したのは女からだった。彼女に話しかけられるときに限って、他の従業員は手が空いていない。そのまま客を放置できないと、泣く泣くロックが対応した。



 そんなことがしばらく続いたあるとき、女は名乗った。



 〝イオナ〟と___。



※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。



ラットです。

今回は、この方に来ていただきました。


ロックだ!


ロックは、このコーナー初登場なんだね。


そうなんだよ!

もっと早く呼んでくれよ!


いや~……。

今まで敵対してたり、怪我で意識失ってたりしてたでしょ?


おいおい。

知ってるぜ?

敵役とかモブみたいな人たちも呼ばれてたんだろ?


そう言われると……たしかに。


だったら、俺ももっと早く呼ばれてよかったはずだ!


ロック、結構こういうの好きなんだね。


当然だろ?

俺の活躍を期待してる女性たちが待ってるんだからな!


ははは……


……その反応、いないって思ってるだろ。


い、いや!?

そんなことないよ!?


ちょっと間があったよな!?


次回も、ロックの話です!!


よろしくお願いします。

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