第4話 追いやられた先の出会い
テンタクルヘイターへの魔力を切断した彼女に、伝えなければならないことがもう一つあったことを、ラットは思い出した。
「実は魔物の討伐で一緒になった冒険者の方たちが魔導機械に興味を持ちまして、なんと近日中にここへ来ていただけることになりました!」
彼女は表情を明るくする。
「お客様……、ゲット…………」
そして、大慌てで店の片づけを始め、出迎える準備を開始した。
「あっ、今は治療中で、来るのは落ち着いてからになると思うので数日後かと……。急いで片づけなくても大丈夫ですよ」
ラットは彼女を落ち着かせようと言葉を加えた。
「お客様きてから……お店ホクホク…………」
彼女はラットを見つめ、そう告げた。
来客に対して、彼女は無表情ながらも弾んでいる。
無理もない……。
この店は、ラットの店と同じだった。
(閑古鳥との壮絶な戦いを強いられていたんだ)
ラットがそれを知ったのは、彼女と出会ったときのことだった。
*
ラットは少し早めの昼食を摂りに、食事処へと向かった。注文して席に座り、きたものを口に運ぶ。
〝チーズ〟……。
それはエリクサーと同じくらい、蠱惑的な響きだ。
……ガヤ……
名前だけではない。濃厚な香り、触れた時の柔らかさ。何より、口に入れた際の、あの、とろけるような味わい。
……ガヤガヤ…………
街特産のパンにかけられた大量のチーズは今も、口の中を甘やかにとかしている。噛めば噛むほど芳醇な風味が広がり、この上ない幸せを与え……
「おわっ! 先客がいるじゃねえか」
「誰だよ。空いてるとかいったの」
「あれっ? っかしいな〜。空いてると思ったんだけど」
「別の席、空いてるか?」
夢中で食事をしていた。いつの間にか店は混み始めていた。
「あっ、僕一人なので移動しますよ。皆さん、大所帯なのでここ使ってください」
__こんなやりとりを何度か繰り返し、次第にラットは隅へ隅へと追いやられていった。
「あの、相席いいでしょうか?」
「ん……、大丈夫…………」
無機質に半分だけ見開かれた瞳。
そこで出会ったのが彼女だった。
*
たまたまの相席。二人はただ黙々と食事を摂っていた。そのときだ。
(おい、あれ……。また一人で食事してるよ)
__聞こえてくる声。
それにしても一人……?
少なくとも今は僕が目の前にいるはずだが。
……と思ってはみるが、僕は知っている。
いつものことだ。
彼らは僕に気づいてないだけだ。
(おまえ、声かけてやれよ。近所なんだろ?)
(いやだよ。あんま一緒にいられるところを見られたくないんだ)
(いつも一人なんだろ? なんか可哀想じゃね)
(あいつの店の博士がとにかくやばかったんだよ。頭いいのにくだらないものばっか発明しちゃってさ。今は店の周りにまで発明品が置かれてるんだ)
(あの店__ジャンク屋なんだけど、周りからなんて呼ばれてるか知ってるか?)
(〝ガラクタ置き場〟だろ? 有名だよな)
(なら、わかれよ。それにあいつだってそうさ。無愛想で何を考えてるのかわからない。そんなのと一緒にいたら俺まで変な目で見られんだろ! 可哀想と思うならお前がいけ)
(はははははぁ〜)
心配していたものも関わる気まではないようだ。見て見ぬふり。どうやら彼女はこの町で浮いた存在なのだろう。ラットにも覚えがある。ただ、ラットの場合、ラット自身に対しての陰口はなかった。そもそも認知されていなかったからだ。
とはいえ、ラットの店はそれなりに有名だった。
〝お化け屋敷のアイテム屋〟として……。
「おい、また出たんだってよ。あのアイテム屋に」
こんな言葉が飛び交えば、それはラットのことだ。
彼らは噂した。
当の店の住人が目の前にいるとも知らずに。
認知されるならされるで苦悩は多いだろう。目の前で食事を摂る彼女が今どんな表情になっているのか。想像に難くない。しかし、相席になったのも、何かの縁だ。話しかけて少しでも気を紛らわすことはできないだろうか?
それほど会話に自信があるわけではない。
だが、これでも商人の端くれだ。
__ちょっとした小粋なトークで、沈んだ気持ちを変えてみせるんだ!
そう意気込み、ラットは向かいに座る少女を見た。
彼女の表情は沈……
……むことは一切なく…………。
目の前の皿に入ったミルクスープ。最初こそ無機質に見えたその瞳は、どことなく輝き、乳白色に釘付けとなっていた。
どうやら彼女はまったく気にしていないらしい。
(強い……)
彼女の屈強な精神にラットは脱帽した。
*
一心不乱に……というには大袈裟なのだが、物静かそうに見えた彼女を考えれば、それはもうすごい勢いで、スプーンを口に運んでいた。
そのギャップが気になり、再度視界に入れる。そして、気がついた。
油汚れの目立つ作業着と腰にある工具一式が入ったウエストポーチ。そういえば、先ほどの会話で……。
「あの〜、〝ジャンク屋の娘さん〟とお見受けしますが、特殊な装備の調整をしてくれるところを探してまして。そういうものを扱われていたりするでしょうか?」
彼女の瞳がこちらを見る。
「……魔機屋…………」
「まき……や…………?」
「ん……」
つまり、〝ジャンク屋〟ではなく〝魔機屋〟と呼ぶのが正しいということなのだろう。
「依頼……?」
「はい、そのつもりです」
お願いはしたものの……
「……武器?」
気まずい。
「武器ではあるんですが、魔法文字が刻まれてまして」
というのも……
「魔具……?」
その特殊さ故に何度も断られてきたからだ。
「それに特殊な技術も必要でして……」
つい言い淀んでしまう。
「魔導機械……?」
しかし……
「知ってるんですか?」
「ん……」
魔導機械は、魔法具__ 魔具と間違われることが多い。魔具は、魔法文字を利用して何らかの魔法をこめた道具のことだ。魔法全盛期のこの世界での主流がこの魔具である。
この魔具に科学の技術を加えたのが魔導機械だ。まだまだ主流とはほど遠い最新の技術である科学。それを利用した魔導機械もまた最新の技術となる。
一瞬その言葉が出たことには目を見開いた。だけど、〝知ってる〟のはそこまで珍しくない……。最新の技術とはいえ、そこそこ広まり出している。情報通ならば知っていてもおかしくない。問題は……。
「整備や調整はできたりしないですよね……?」
彼女は首を横に振り、
「……できる」
確かにそう答えた。
「ほんとですかっ!!」
つい叫んでいた。
(なんだあいつ!? どこから出てきた?)
(ジャンク屋と一緒にいるなんて物好きもいたもんだ)
(しっ、聞こえるぞ。どうせ、よそ者なんだろ)
辺りがざわつく。
相も変わらず、彼女は平然としている。
「……」
静かに座り、気にしないように、ラットは自身に言い聞かせた。
*
そこからは早かった。スープを飲み干した彼女は、席を立つ。
「……ついてきて」
たまたま立ち寄って、追いやられた店の奥。そこで出会った少女が魔導機械を扱っている店の娘など、実に運が良い。ラットは、彼女の小さな背中を浮かれた足取りで追いかけた。
そして、たどり着いた先……
きらきらと、ラットの世界が煌めき出す。
まだ店にすら入っていない。
入っていないというのに……だ!
店の周りは、まさに財宝に囲まれていた。
右を見ても、左を見ても、魔導機械だらけ。高揚を抑え切れず、叫んだ。
「宝の山だ!!」
駆け出し、黄金へダイブするように突っ込む。魔法機械を片っ端から奪取し、彼女に訊いた。
「これはどんな効果があるんですか!?」
「魔導コンロ、……」
四角い謎の物体を恍惚と掲げるラットに、彼女は近づいた。
__トン。
「……衝撃を与えると、火が点く…………」
「おおっ、点きましたあ!」
「ご飯、つくる……」
「革命です! これさえあれば、簡単にあたたかいご飯が……!」
ラットは足早に移動する。
「これは? こっちは!?」
「これは……」
彼女が一つ一つ、ラットとは相反して冷静に、端的に、しかし丁寧に答えてくれる。説明は魔法機械の価値をさらに跳ね上げ、身体が一層熱くなる。
「すごい、すごい、すごすぎる!!」
「ああ博士、人類の叡智を溢れるほどに発明できるなんて……! あなたは紛れもなく、大天才です……!!」
瞬間、魔法機械よりも、彼女の瞳の輝きに魅せられた。陽光の射した瞳がラットを見つめる。だからか、冷めているようで、あたたかい。
「あっ、あんな所にも宝が!」
別の煌めきに誘惑され、走った。
辿り着いた時には、宝を手に入れることしか頭にない。無我夢中で魔法機械を掘り起こす。
__彼女のほわりとした視線に見守られながら。
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
今回も、僕ラットと……
魔機屋……
で、この雑談コーナーをやっていきます。
ん……
今回は、僕たちが出会ったときの話がメインでしたね。
ん……
あのときは丁寧に説明していただき、ありがとうございました。
お客さん……鼻息、荒かった……
ん?
興奮してた……
んん??
夜まで……
魔機屋さん、ちょっと……
ん……?
……また次回もよろしくお願いします。
ん……




