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第4話 追いやられた先の出会い

 テンタクルヘイターへの魔力を切断した彼女に、伝えなければならないことがもう一つあったことを、ラットは思い出した。


「実は魔物の討伐で一緒になった冒険者の方たちが魔導機械アーティファクトに興味を持ちまして、なんと近日中にここへ来ていただけることになりました!」


 彼女は表情を明るくする。


「お客様……、ゲット…………」


 そして、大慌てで店の片づけを始め、出迎える準備を開始した。


「あっ、今は治療中で、来るのは落ち着いてからになると思うので数日後かと……。急いで片づけなくても大丈夫ですよ」


 ラットは彼女を落ち着かせようと言葉を加えた。


「お客様きてから……お店ホクホク…………」


 彼女はラットを見つめ、そう告げた。


 来客に対して、彼女は無表情ながらも弾んでいる。

 無理もない……。


 この店は、ラットの店と同じだった。


(閑古鳥との壮絶な戦いを強いられていたんだ)


 ラットがそれを知ったのは、彼女と出会ったときのことだった。



 ラットは少し早めの昼食を摂りに、食事処へと向かった。注文して席に座り、きたものを口に運ぶ。


 〝チーズ〟……。

 それはエリクサーと同じくらい、蠱惑的な響きだ。



 ……ガヤ……



 名前だけではない。濃厚な香り、触れた時の柔らかさ。何より、口に入れた際の、あの、とろけるような味わい。



 ……ガヤガヤ…………



 街特産のパンにかけられた大量のチーズは今も、口の中を甘やかにとかしている。噛めば噛むほど芳醇な風味が広がり、この上ない幸せを与え……


「おわっ! 先客がいるじゃねえか」

「誰だよ。空いてるとかいったの」

「あれっ? っかしいな〜。空いてると思ったんだけど」

「別の席、空いてるか?」


 夢中で食事をしていた。いつの間にか店は混み始めていた。


「あっ、僕一人なので移動しますよ。皆さん、大所帯なのでここ使ってください」


 __こんなやりとりを何度か繰り返し、次第にラットは隅へ隅へと追いやられていった。


「あの、相席いいでしょうか?」

「ん……、大丈夫…………」


 無機質に半分だけ見開かれた瞳。

 そこで出会ったのが彼女だった。



 たまたまの相席。二人はただ黙々と食事を摂っていた。そのときだ。


(おい、あれ……。また一人で食事してるよ)


 __聞こえてくる声。

 それにしても一人……?

 少なくとも今は僕が目の前にいるはずだが。

 ……と思ってはみるが、僕は知っている。

 いつものことだ。

 彼らは僕に気づいてないだけだ。


(おまえ、声かけてやれよ。近所なんだろ?)

(いやだよ。あんま一緒にいられるところを見られたくないんだ)

(いつも一人なんだろ? なんか可哀想じゃね)

(あいつの店の博士がとにかくやばかったんだよ。頭いいのにくだらないものばっか発明しちゃってさ。今は店の周りにまで発明品が置かれてるんだ)

(あの店__ジャンク屋なんだけど、周りからなんて呼ばれてるか知ってるか?)

(〝ガラクタ置き場〟だろ? 有名だよな)

(なら、わかれよ。それにあいつだってそうさ。無愛想で何を考えてるのかわからない。そんなのと一緒にいたら俺まで変な目で見られんだろ! 可哀想と思うならお前がいけ)

(はははははぁ〜)


 心配していたものも関わる気まではないようだ。見て見ぬふり。どうやら彼女はこの町で浮いた存在なのだろう。ラットにも覚えがある。ただ、ラットの場合、ラット自身に対しての陰口はなかった。そもそも認知されていなかったからだ。


 とはいえ、ラットの店はそれなりに有名だった。


 〝お化け屋敷のアイテム屋〟として……。


「おい、また出たんだってよ。あのアイテム屋に」


 こんな言葉が飛び交えば、それはラットのことだ。

 彼らは噂した。

 当の店の住人が目の前にいるとも知らずに。


 認知されるならされるで苦悩は多いだろう。目の前で食事を摂る彼女が今どんな表情になっているのか。想像に難くない。しかし、相席になったのも、何かの縁だ。話しかけて少しでも気を紛らわすことはできないだろうか?


 それほど会話に自信があるわけではない。

 だが、これでも商人の端くれだ。

 

 __ちょっとした小粋なトークで、沈んだ気持ちを変えてみせるんだ!


 そう意気込み、ラットは向かいに座る少女を見た。


 彼女の表情は沈……



 ……むことは一切なく…………。


 目の前の皿に入ったミルクスープ。最初こそ無機質に見えたその瞳は、どことなく輝き、乳白色に釘付けとなっていた。


 どうやら彼女はまったく気にしていないらしい。


(強い……)


 彼女の屈強な精神にラットは脱帽した。



 一心不乱に……というには大袈裟なのだが、物静かそうに見えた彼女を考えれば、それはもうすごい勢いで、スプーンを口に運んでいた。


 そのギャップが気になり、再度視界に入れる。そして、気がついた。


 油汚れの目立つ作業着と腰にある工具一式が入ったウエストポーチ。そういえば、先ほどの会話で……。



「あの〜、〝ジャンク屋の娘さん〟とお見受けしますが、特殊な装備の調整をしてくれるところを探してまして。そういうものを扱われていたりするでしょうか?」


 彼女の瞳がこちらを見る。



「……魔機屋まきや…………」


「まき……や…………?」


「ん……」


 つまり、〝ジャンク屋〟ではなく〝魔機屋〟と呼ぶのが正しいということなのだろう。


「依頼……?」


「はい、そのつもりです」


 お願いはしたものの……


「……武器?」


 気まずい。


「武器ではあるんですが、魔法文字ルーンが刻まれてまして」


 というのも……


魔具ルーリック……?」


 その特殊さ故に何度も断られてきたからだ。


「それに特殊な技術も必要でして……」


 つい言い淀んでしまう。


魔導機械アーティファクト……?」


 しかし……


「知ってるんですか?」

「ん……」


 魔導機械は、魔法具__ 魔具ルーリックと間違われることが多い。魔具は、魔法文字ルーンを利用して何らかの魔法をこめた道具のことだ。魔法全盛期のこの世界での主流がこの魔具である。

 この魔具に科学の技術を加えたのが魔導機械だ。まだまだ主流とはほど遠い最新の技術である科学。それを利用した魔導機械もまた最新の技術となる。


 一瞬その言葉が出たことには目を見開いた。だけど、〝知ってる〟のはそこまで珍しくない……。最新の技術とはいえ、そこそこ広まり出している。情報通ならば知っていてもおかしくない。問題は……。


「整備や調整はできたりしないですよね……?」


 彼女は首を横に振り、


「……できる」


 確かにそう答えた。


「ほんとですかっ!!」


 つい叫んでいた。


(なんだあいつ!? どこから出てきた?)

(ジャンク屋と一緒にいるなんて物好きもいたもんだ)

(しっ、聞こえるぞ。どうせ、よそ者なんだろ)


 辺りがざわつく。

 相も変わらず、彼女は平然としている。


「……」


 静かに座り、気にしないように、ラットは自身に言い聞かせた。



 そこからは早かった。スープを飲み干した彼女は、席を立つ。


「……ついてきて」


 たまたま立ち寄って、追いやられた店の奥。そこで出会った少女が魔導機械を扱っている店の娘など、実に運が良い。ラットは、彼女の小さな背中を浮かれた足取りで追いかけた。



 そして、たどり着いた先……

 きらきらと、ラットの世界が煌めき出す。


 まだ店にすら入っていない。

 入っていないというのに……だ!


 店の周りは、まさに財宝に囲まれていた。

 右を見ても、左を見ても、魔導機械だらけ。高揚を抑え切れず、叫んだ。


「宝の山だ!!」


 駆け出し、黄金へダイブするように突っ込む。魔法機械を片っ端から奪取し、彼女に訊いた。


「これはどんな効果があるんですか!?」

「魔導コンロ、……」


 四角い謎の物体を恍惚と掲げるラットに、彼女は近づいた。



 __トン。


「……衝撃を与えると、火が点く…………」


「おおっ、点きましたあ!」


「ご飯、つくる……」


「革命です! これさえあれば、簡単にあたたかいご飯が……!」


 ラットは足早に移動する。


「これは? こっちは!?」

「これは……」


 彼女が一つ一つ、ラットとは相反して冷静に、端的に、しかし丁寧に答えてくれる。説明は魔法機械の価値をさらに跳ね上げ、身体が一層熱くなる。


「すごい、すごい、すごすぎる!!」


「ああ博士、人類の叡智を溢れるほどに発明できるなんて……! あなたは紛れもなく、大天才です……!!」


 瞬間、魔法機械よりも、彼女の瞳の輝きに魅せられた。陽光の射した瞳がラットを見つめる。だからか、冷めているようで、あたたかい。


「あっ、あんな所にも宝が!」


 別の煌めきに誘惑され、走った。

 辿り着いた時には、宝を手に入れることしか頭にない。無我夢中で魔法機械を掘り起こす。



 __彼女のほわりとした視線に見守られながら。


※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。



今回も、僕ラットと……


魔機屋……


で、この雑談コーナーをやっていきます。


ん……


今回は、僕たちが出会ったときの話がメインでしたね。


ん……


あのときは丁寧に説明していただき、ありがとうございました。


お客さん……鼻息、荒かった……


ん?


興奮してた……


んん??


夜まで……


魔機屋さん、ちょっと……


ん……?


……また次回もよろしくお願いします。


ん……

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