第3話 ガラクタ置き場の少女
魔獣兵器を倒した後、ラットはとある場所に来ていた。冒険者たちが〝ガラクタ置き場〟と評していた場所。そう、〝魔機屋〟である。
店の前には、店内だけでは入りきらなかった魔導機械が乱雑に置かれている。ただ置かれているものもあれば、雨除けのようなものの下にあるものもある。冒険者たちのいうように、見ようによっては〝ガラクタ置き場〟に見えなくもないのかもしれない。
ラットは良いことと悪いこと、それぞれを抱え、扉の前へ立っていた。深呼吸をし、一気に扉を押し込む。
カランカラン___
「いらっしゃいませ……。どうだっ……た…………?」
青黒く塗り潰された、無機質な双眸がラットを出迎えてくれる。この店の店主である。
艶のある黒髪を肩に流した、ラットと同じ年頃の少女。
柔らかな曲線を覆い隠す、油汚れの目立つ作業着。腰には、工具一式が入ったウエストポーチも巻かれている。歯車にゴムを巻きつけた髪留めは、魔導機械を扱う彼女らしい装飾品だ。
もともとは彼女の父、〝博士〟と呼ばれる方が店を開いたが、博士が亡くなり、今は娘である彼女が後を継いで一人で切り盛りしているらしい。
手元には分解された魔導機械の部品が広がっている。ラットの依頼品を整備してくれている最中だ。彼女はなかなか返答を返さないラットに焦れたのか、白い手を止め、半分だけ開かれたその目を、こちらに向けた。
ジッ____
「実は凶悪な魔物が暴れてまして。倒すには倒せたんですが……」
ラットは魔物と相対する前、この店にいた。
外が大騒ぎになっていたから、様子を見に行った先での出来事だったのだ。
彼女への申し訳ない気持ちが、言葉を鈍らせる。
「どうしたの……?」
彼女は首を傾げる。
口を重くしているその理由。ラットは鞄からあるものを取り出した。
黒焦げに焼かれたアーティファクトの残骸。
数日前にここで購入したばかりの〝テンタクルヘイター〟のなれの果てである。
(思えば、ここで購入したことに浮かれて、街道をスキップしていたときに、あの冒険者の方と出会ったんだよな……)
あまりの気まずさに、脳が勝手に物思いに耽けようとする。
そのなれの果てを見た彼女は沈黙する。
「……」
どんな反応をされるのか、いやな想像が先走る。
自分の店で売ったものが、ものの数日で破壊されたことに、彼女の顔がどう曇るのか。目を背けたい衝動でいっぱいだった。
ゆっくりと彼女の手が上がっていく。
そして……
「大丈……夫!」
上がりきった拳の先には、親指が立てられていた。
「これは……囮に使うやつ……。こういうもの…………」
つまりは、敵の攻撃を引きつけ、受けるものだから、壊れてしまうのは当たり前、と。
トテトテ___
彼女はある棚に移動すると、かかっていた布を外した。
そこには大量の〝テンタクルヘイター〟が置かれていた__。
グネグネグネグネ~~~~
グネグネグネグネ~~~~
グネグネグネグネ~~~~
一つでも相当な存在感を醸し出しているのに、これだけの量のテンタクルヘイター。
それらは一斉にうねり、絡み合っているようにさえ感じられた。まるで生き物のように蠢き、見ているだけで肌の奥を何かが這い回るような錯覚に襲われる。
怪しく動くそれらを彼女は自慢げに見せてきた。
「すごい。テンタクルヘイターがこんなにっ! これは圧巻ですね!!」
ラットは眼鏡を輝かせる。壊してしまったという罪悪感は、すでに吹き飛んでいた。
「ところでなんで布を?」
「お客さんが……逃げてった…………」
「あ~……」
納得してしまった。自分の感性も一般のそれとは少しずれている。自分がいいと思っても多くの人にとってはそうではないことを、理解はしていた。
覚えがあった。
*
それは故郷の村である〝風見の村ウィアベル〟でのことだった。
カァカァカァ___
故郷の村でラットが営んでいた店。
アイテム屋はちょっとした林の中にあった。
蔦が幾重にも絡み付いた外壁。
窓辺には烏が並び、まるで番人のように外を見張っていた。
静まり返ったその空間だけが、外界から切り離されているような雰囲気を醸し出していた。
ラットはそれをレトロな雰囲気の店と思い、オシャレにさえ感じていた。
立ち寄った冒険者のあの言葉を聞くまでは……。
「おい!? なんだよこれ。ただの幽霊屋敷じゃないか!」
「騙されたんだ! からかわれたんだよ!!」
「ふざけやがって。なにがアイテム屋だよ」
「帰ろうぜ。こんな廃墟、入るだけ無駄だ!」
「そうだな。何が悲しくて男連中で肝試しなんて、やらなきゃならねえんだ」
「そもそもそんな歳でもねえよ」
「……」
店の前で掃き掃除をしていたラットは、絶句して彼らを見送った___。
*
おそらく、これらについてもそうなのだろう。
(これを見て、気味悪がったんだ)
グネグネグネグネ~~~~
グネグネグネグネ~~~~
グネグネグネグネ~~~~
目の前で、ラットの心境などお構いなしに、テンタクルヘイターは蠢いている。
グネグネグネグネ~~~~
グネグネグネグネ~~~~
グネグネグネグネ~~~~
ぐねぐねぐねぐね~~~~
グネグネグネグネ~~~~
「とりあえず、魔力は切りましょうか……」
「ん……」
顔を見合わせたあと、魔機屋さんは魔力を切っていく。
動きを止めるまでの間、
二人の商才をあざ笑うかのようにテンタクルヘイターは蠢いていた___。
*
その頃、魔獣兵器を討伐した報告を受けたギルドは、大騒ぎとなっていた。
「おい! 町の西側で暴れてた魔獣兵器! 倒されたぞ!」
「はあ!? なんで!!?」
駆け込んできた冒険者の一言に、ギルドは一転してどよめきに包まれた。
「確か今はA級とC級が一組ずつの混成パーティが戦ってるはずだろ?」
「そうだぜ。絶対に倒せないからってんで、急いでクエストに出てたパーティを呼び戻したんだろ?」
「町が無事ならそれに越したことはないが、本当に間違いじゃないのか?」
倒せるわけがない。だからこそ、早急に倒せるだけの戦力をギルドは集めていた。
「間違いない! 魔物の死体を確認した……」
「その倒したやつらはどうしたんだよ?」
「今、町医者のところに搬送されている」
医者……。その言葉と絶対に勝てないと言われていた魔物。
そこから連想される状況は一様に同じだった。
「無理ないか……気の毒にな…………」
「たまたま居合わせたばっかりに……」
「何人くらい死んだんだ?」
倒せただけで奇跡だ。
だけど喜んでもいられない。
犠牲になった者たちに目を向けなければ。
「いや……、それが…………」
「おい……、まさか全滅……なのか…………?」
言い淀んだからには、それほど言いにくい状態なのだろう。
察してしまう……。
「相打ちで倒したってのか?」
「くそっ、命を投げうってまで町を救ったってのか……」
「この町の英雄だよ。そいつらは……」
自分たちはそこまでやり遂げられるのか?
いや、圧倒的な相手だ。
恐怖で逃げ出してしまってもおかしくはない。
しかし、やり遂げた者たちがいた。
「いや、違う。逆だよ……」
「……?」
「いなかったんだ……重症者こそいるが、犠牲者はいなかったんだよ!」
しんと静まり返る。
「そんなことってあるのか……?」
「相手はあの魔獣兵器だろ?」
犠牲者が出るのは当たり前。そういう相手だった。
「増援にいった俺だって、最初は目を疑ったさ」
正直、自分は今日死ぬかもしれない。
死を覚悟して向かった。
その戦場へと……。
「着いたときには魔物は倒され横たわり、怪我人は的確に応急処置を施されて……。残った奴らは楽しく談笑してたんだ……」
理解できるものはいなかった。あまりにもかけ離れた状態だったから。
「いったい何があったんだ……?」
「それがいたらしい。勇者パーティのメンバーが……」
「勇者パーティ!? 魔王を倒した奴らか……。確かにそんな英雄でもいない限りそうはならないか」
「……で、誰がいたんだよ?」
「やっぱ勇者か?」
勇者は王都にいると言われている。他のメンバーは国が違うものがほとんどだ。
いるとしたら比較的近いところにいる勇者だろうと、思うのも無理はない。
「それが……」
「なんだよ。さっきから歯切れ悪いな……」
「〝七人目〟らしい……」
「なんだそりゃ?」
「そういう反応になるよな……。だけど、意識があるやつ全員が言うんだよ」
「パチモンじゃねえのか?」
「俺だって半信半疑なんだ! 嘘だと思うなら自分たちで確認してこいよ」
説明していた冒険者も気の毒だ。自分でさえ、理解できていない状況を説明しなければならないのだから。冒険者たちがこぞってギルドを飛び出し、魔物を倒した者たちのところへと向かっていった。
*
閑散とした空間に居残る者が三人。
白髪の少女とフードを深く被る者二人が部屋の隅に立ち、魔物討伐の報を聞いていた。
「〝フレアベア〟が倒されたってほんとかしら?」
「あの口ぶりだと本当だろうな」
「あんたが援軍を襲って、人間族に大打撃を与えようなんていうから」
「悪かったな。まさかあれが倒されるなんて思わないだろ」
「もう、せっかくきたのに無駄足じゃない」
腕を組み、ふてくされたような声。
一瞬の間……。
「それにしても〝七人目〟か。どう思う?」
「どうせ、名声がほしいだけの偽物でしょ? 相手にすることないわ」
「いや、偽物だとしても実力は本物だろ。潰しておいた方がいい」
「勇者パーティは〝七人〟だよ……」
ぼそっとつけ加える、白髪の少女。
「はっ!? おいおい、ってことは今の話は全部ほんとか? 今更いうなよな……」
はぁ、とため息をつく。
「いずれにしても、〝フレアベア〟の責任はとらないとな」
「何する気なの?」
「〝七人目〟ってのに興味が湧いた。ここで殺す」
「一般人への被害はダメだよ……」
「わかってる。おまえの意思は尊重するさ。こいつら(ヒューマ)と同じにはなりたくないからな」
被ったフードが揺らめく。
その者を先頭に、二人が続いた___。
「〝七人目〟……。覚悟していろ…………」
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
グネグネグネ~
ジッ____
グネグネグネ~
ジッ________
グネグネグネ~
ジッ____________
あの……魔機屋さん?
ん……
今回は初登場でしたね
ん……
なにか話しておきたいことはありますか?
〝テンタクルヘイター〟……、買ってほしい…………
こちら〝魔導機械屋〟の店主で、〝魔機屋さん〟です。
よろしくお願いします……




